かつてのプロレス界がそうだったように、絶対的な力を持った権力者がいなくなった日本格闘技界は、誰も統率することができず分裂の一途を辿っている。
 K-1は本来の立ち技最強を決める高い技術の攻防をとりあえず横に置き、ボブ・サップを主軸に新日本プロレスと協力したり、マイク・タイソンで話題を振りまいたり、元横綱・曙太郎を獲得するなど、インパクト重視で勝負に出ている。
 PRIDEのエグゼクティブ・プロデューサーだったアントニオ猪木は、PRIDEに象徴的存在が増えすぎたのが気にくわないのか、自分を御輿に担いでくれる場所を選んだ。
 そしてK-1とのタッグを解消し、猪木に去られたPRIDEが開催した、まさに純度100%のビッグマッチ『PRIDE GP 2003決勝』東京ドーム大会は、PRIDEの底力を爆発させた歴史的な大会だった。

 会場に着くといつものことながらマスコミの多さに驚かされる。今回は500人ほどの取材申請があったとか。入り口のところで高田道場のスタッフの方にご挨拶。
道場の方「なんか雰囲気変わりましたね。髪型を変えたんですか」
「そうですね。験を担ぐというか、変えることで桜庭選手が勝てばいいなと」
 (心の中で「パーマ失敗したんです」と)
道場の方「あ〜最近勝ってませんからね。今日こそ勝つといいんですけど」
 といったやりとりをして会場内へ。この日はどのカードも勝敗予想のしにくい豪華カードが勢揃いだが、とにもかくにも桜庭選手の勝利が見たいのである。

 ドーム内は舞台装置などの関係でリングが見えない部分の客席にはお客を入れてないこともあって、隅々までギッシリというわけではないが、座れる部分はほぼ埋まっているような感じ。グッズ売り場にも黒山の人だかりだったし、ワールドカップバレーでもお馴染みの「応援スティック」をバンバン叩いてすでにお客が暖まっていた。盛り上がってますな。

 第1試合から何かと話題のWJプロレスから殴り込み参戦のダン・ボビッシュ登場である。しかも相手は「WJは給料未払いなんだよ」と言い捨てWJを去っていった谷津を、PRIDEで叩きのめしたグッドリッジ。
 「ボビッシュ、パワーホールで入ってこないかな? そんで長州がセコンドに就いてたらサイコーだな」なんて考えてワクワクしてたが、入場テーマは「アイアンマン」。なるほど、WJにも参戦していて先日亡くなったホーク・ウォリアーか。これはこれで分かる。しかし、セコンドには長州どころか永島専務も健介もいない。どうしたド真ん中トップチーム! ある意味、この時点で勝負はついていたのかしれない。ボビッシュ、何もできずにグッドリッジに秒殺される……。
 インタビュースペースでボビッシュは「(GGの)親指が目に入った。レフェリーがチェックをしてくれれば……。目は痛くはないがドクターによると酷い状態らしい。PRIDEとはあと2試合契約してる。WJと両立してやっていく」と語ったが、終始ガックリとうなだれていた。対するグッドリッジは「ボビッシュは大きな赤ちゃんだな。お尻ペンペンしてやろうと思ったけど、その前に泣き出した。指が目に入ったって? 女々しい奴だな」と相手にもしていないという感じだった。WJは新しいことに挑戦すればするほど墓穴を掘っているような気が……

 吉田秀彦vsヴァンダレイ・シウバは実に面白い試合だった。田村戦あたりから吉田もハジけてきたが、この試合で吉田は“プロ格闘家”として完全にハジけた。オリンピック戦士らしく、ストイックなまでに勝ちにこだわる吉田も、ガチンコの世界では全然アリなのだが、屈指のストライカーであるシウバに真正面から向かっていった吉田は魅力的だった。
 インタビュースペースでは顔中傷だらけになりながら、「判定はいっぱい殴られたんで(仕方ない)。相手が出てくるのを待ったらダメですね。もう1Rあたったらという感じですけどね」と語った。負けたことに納得はしているが、勝てない相手じゃない、という自信みたいなものが感じ取れた。プロとしてハジけた吉田の今後はかなり面白い。ケガや疲労もあるだろうから大晦日は微妙だが、いまの吉田選手なら誰と対戦させても面白い試合になりそうだ。それだけに大晦日に試合をするなら、どこのリングに上がるかも注目だ。

 しかし高田統括本部長劇場は、すっかりアントン劇場を凌駕してしまったな。「引退してからパワーUP!」という、やや皮肉っぽい紹介されながらも、高田本部長は「お前は男だ!」「決めようや!」などのお決まりフレーズ全開。ここまで開き直って本部長キャラ(ようはPRIDEの象徴的存在)を演じてしまえば、確かにもう猪木はPRIDEには必要ない。
 「猪木さんはPRIDEに背を向けたのでしょうか。一言だけ、去る者は追わず!」
 と事実上、猪木に対して決別宣言をし、そのまま大晦日の格闘技戦争にPRIDEも参戦することを発表。
 しかし、一部客席から「それ(大晦日開催)だけはやめろ!」「潰し合いになるだけだ!」といった声が飛んでいたのも確か。これらの意見もごもっとも。だが、K-1とは冷戦状態だし、猪木に対して決別宣言した以上、DSEも何かやらないと選手が引き抜かれてしまう可能性は高い。ただでさえミルコは猪木祭りに参戦が決定したし……。

 そして我らが桜庭選手登場! ランデルマンの入場時、ビジョンにはドンキーコングのゲーム画面が映し出される。さすがはリアルドンキーコング。さて、「今度の試合は普通に入場します」と事前に宣言していた桜庭選手だが……なんと場内に鳴り響いたのは「♪ディディティ、ティ、ティ、ティ!」という、あのスーパーマリオのゲーム音! そして付けひげ&赤い帽子のマリオコスプレをした桜庭選手登場! やっぱりやったよ、この人……。
 しかし試合ではモンゴリアンチョップやアイ〜ンチョップなどのお笑い殺法は完全に封印。徹底的にタックルを警戒しているランデルマンを何とか切り崩そうと、フェイントを含めて打撃で攻める。しかしストライカーではないにしろ、パワーで圧倒的に勝るランデルマンはパワフルな打撃で応戦。何度か危ない場面もあって、もう冷や冷や。3Rに入り、桜庭選手がバックを取られる。一見、ピンチにも思えるが、桜庭選手がこの体勢になる試合ははかなり多い。実はUインターの頃からこの体勢になることが多く、桜庭選手はバックを取られてもあまり慌てない。むしろここから切り返すのを得意としている。それだけに私はこのシーンを見て、「もしかしたらイケるかも」と思った。その直後、グラウンドになだれ込み、回転しながら逆十字が鮮やかに決まる! ランデルマンタップ! やった! 桜庭選手が勝った! さすがに桜庭選手自身も嬉しそうに両手を高々と上げている。うぅ、涙が出そうなほど嬉しい。この場面を見たかった。
 ランデルマンも「気分はいい。スーパーマリオvsドンキーコングで、このラウンドはマリオの勝ちだ。彼は抜くのも早いし、魚のようにしなやかだった」と完敗を認めた。対する桜庭選手は「力がすごかったですね。タックルの反応も早くて(タックルは)無理かなと。作戦ですか? とりあえずマリオになれば勝てるかなと」と語った。ちなみに大晦日に関しては「大晦日は田舎に帰っておじいさんとおばあさんに孫を見せにいきます。お年玉をもらいに(笑)」とかわしていたが、とくにケガもしていないようだったので参戦は確実だろう。

 ミルコvsノゲイラは非常に緊迫感のある試合だった。私はインタビュースペースのモニタでこの試合を見ていたが、ミルコの蹴りがノゲイラを捕らえる度に、マスコミ陣からも「うわっ」「こりゃキツイな」といった声が聞こえ、何とか1Rを耐えきったが、ノゲイラが倒されるのは時間の問題という雰囲気が漂っていた。だがしかし、2Rでノゲイラが一発逆転! 逆十字が極まり、ミルコがタップした瞬間は全員から「おぉ〜」という驚きの歓声が上がった。
 しばらくしてインタビュースペースを出て、通路に出ると興奮と歓喜に沸き返ったBTT勢が引き上げてきた。ブラジルから取材に来ていたというTVクルーがノゲイラに突撃インタビューしていたのだが、おとなしい印象のあるノゲイラが、もう興奮しながらガンガンTVカメラに向かってしゃべっているではないか! 周りのBTTのメンバーももうお祭り状態。あんな興奮してるノゲイラは初めて見た(下の写真左)。
 インタビュースペースに現れた頃にはすっかり興奮も収まり、いつものクールなノゲイラに(下の写真右)。「誰かがミルコをストップしなくちゃいけないと思ってた。それが私でよかった。前回のヒョードル戦は運がなかった、連戦続きで練習ができていなかったし、腰も痛めていた。しかし負けてから得たものもある。次は私が勝つ」と淡々と語った。
 いつも自信たっぷりにインタビュースペースに現れるミルコは、ノーコメントのまま会場を後にしたという。猪木祭りで誰と対戦するか分からないが、モチベーションを上げられるか不安が残る。しかしPRIDEに無念を残したまま、一旦PRIDEを去る形となっただけに、再びミルコがPRIDEに戻ってくる可能性はある。奇しくもノゲイラが「負けてから得るものも多い」と言っているだけに、さらに強くなってミルコにはPRIDEに戻ってきてもらいたい。

 ミドル級GP決勝はシウバvsランペイジという因縁対決に。得意のヒザ蹴りでランペイジを沈めたシウバがやってくれたのは試合後だ。マイクを持ったシウバの第一声は「ゲンキデスカーーー」。あぁ、猪木に決別宣言したのに……。インタビュースペースでは「ヨシダにはびっくりした。素晴らしくタフで、パワーもあった。パンチも強かった」と吉田を絶賛。ランペイジに対しては「アイツとは因縁があったので、前から気にくわなかった。KOできてよかった」と因縁対決を制した喜びを語った。また記者から「ヘビー級GPに参戦する気持ちはあるか?」という質問が飛んだ際、シウバは「私が決めることではない。主催者やジムと相談して決めることだ」と語ったが、シウバの隣にいたフジマール会長が、「そんなのとんでもない!」という表情で首を横に振っていたのを私は見逃さなかった。

 いや、とにかく、さすが豪華カードがラインナップされたドーム大会だけに、どの試合もスリリングかつエキサイティングで面白かった。PRIDE史上でもトップクラスの満足度の高い大会だった。ある意味で“最悪”の状況とも言える大晦日の格闘技イベント三つ巴決戦で、PRIDEがこの大会に匹敵するようなハイレベルな大会ができるかどうか楽しみではある。■