<好色一代・五人女〜あらすじ〜>

 浅丘ルリ子主演「西鶴一代女」

 元禄時代の日本文学を代表する俳人で作家の井原西鶴。その代表作「好色一代女」をベースに「好色五人女」を大胆に構成した新作「西鶴一代女」が上演される。主演は浅丘ルリ子。「ネオかぶき」を標ぼうし小劇場演劇の世界で人気の劇団「花組芝居」の主宰者、加納幸和が演出を手がけるのも話題だ。

 「西鶴一代女」は天性の美貌が災いしてか、遊び女稼業を転々としていく「一代女」の物語と、心中や放火など元禄の世をにぎわせた現実の事件をもとに、恋に身を焦がしていく男女の姿を描いた「五人女」の物語がベース。これまで、古典文学をもとにした浅丘主演作品の脚色を手がけてきた堀井康明が、独自の構想をもとに脚本を書き下ろす。

 花組芝居は演出家・劇作家・俳優を兼ねる加納を中心に1987年に旗揚げした男優だけの劇団。「ネオかぶき」と称し、男優が女形として女性役も演じるなど、独特の世界で女性層を中心に高い人気を持つ。本多劇場などで絢爛豪華な舞台を展開してきた加納が、大劇場でどのような演出を見せるか注目される。

 出演は他に、片平なぎさ、山下真司、園佳也子、山谷初男、佐藤B作、大門伍朗、阿知波悟美、大沢さやか、柄沢次郎、鈴鹿景子ら。佐藤誓、植本潤、桂憲一ら花組芝居の面々も出演する。

 公演は11月2日から28日まで、東京・有楽町の帝劇で。前売り開始は9月29日。問い合わせは劇場(03-3213-7221)まで。

[9月24日 日経マルチメディア編成部]

 

「好色一代女」解説

 京都嵯峨の庵に住む老女を尋ねた二人の男が聞いた老女の一代記。女に恋した京の青侍がその罪で死罪になってから、女の男遍歴は始まる。
 大名の側室を経て親の借金から遊女になった一代女は、以後性格の強さもあって徐々に身を落とし、京都の女奉公人生活からはては私娼にまで転落しあらゆる京女の生態を体験する。
 十三歳から六十五歳に至る無名の女の独白体の懺悔譚で、男を渡る好色生活は京の風俗描写を同時平行させつつ、女体を通して見聞した凄絶な男遍歴である。女性ならではの本能的な男への謀計や性的誘惑、さらに肉体を唯一の武器として一生を性の惑溺に終始した生命力など、元禄以前の近世都市に生きた成年女性の性生活を本書は見事に描いている。
 女は翳りもしないし落魄への哀しみもない。その独白は感傷のかけらもなく交渉した男たちの肉体を冷静に評価し、男女の愛の存在をむしろ否定している。つまりこれは男性への痛烈な批判なのではないか。

(檜谷昭彦)學燈社『古典文学作中事典』より

 

「好色五人女」解説


巻一 姿姫路清十郎物語 

お夏
 姫路の商人但馬屋九右衛門の妹お夏は十六歳、都の遊女に見増す美形だが気は高く土地の男に見向きもしなかった。この但馬屋方に手代として住み込んだ男が清十郎である。彼は播磨の室津(姫路とさほど遠くない)の酒造業和泉清左衛門の息で、室津の遊女と放蕩したあげく心中未遂事件をおこし、姫路へしるべを頼ってきたのである。室津で恋人の遊女を死なせた彼は女色を絶ったつもりだったが、そんな彼にお夏は燃えた。花見の宴の際に契りを交わした二人はままならぬ逢瀬を悩み、大阪へ海路逃避行を試みる。主家の女と奉公人の恋は重罪である。不幸は但馬屋の内蔵の金子七百両が紛失した事件と重なったことにも依る。捕らえられた清十郎は死罪となる。事件後病に落ちていたお夏は恋人が処刑された事実を知り狂乱する。向い通るは清十郎でないか笠がよく似た管笠が、と歌い狂うお夏は後に出家し、庵室に隠り後世を願ったという。作者は両名の現世の色欲を右の結末で救済したのだろう。


巻ニ 情を入れし樽屋物かたり

おせん
 大阪天満の商家の腰元おせんは気立てのいい女で、主家に気に入られ器量も人並み以上だった。天満に多い樽屋のひとりに、このおせんに恋した男がいた。男は近所の老女に仲介を頼む。老女が考えたのは伊勢への抜け参りによる恋の成就だった。抜け参りは主家に内緒でする男女のかけおちの一種だが、当時の風習はこれを黙認した。おせんと樽屋と老女と、それに道中割り込んだおせんの奉公先の下男久七の妨害など、珍道中とも言うべき伊勢参宮の後、晴れて二人は結婚する。両名は幸せな結婚生活を送っていたが、近所の商家麹屋長左衛門の法事の手伝い中、おせんは些細なことで長左衛門の女房から浮気の嫌疑をかけられる。身に覚えのない事が噂になり、それなら女房を見返してやろうと、おせんは長左衛門と本気で不倫の仲になる。その現場を夫に見られ、おせんは夫の道具の鉋で胸元を突いて自害した。町内の主婦交際のもつれが生んだ事件で大阪の場末の町の風俗が如実である。


巻三 中段に見る暦屋物語

おさん
 京室町の美女おさんを恋して嫁にした大経師は、幸福な生活を送っていたが、商用で江戸に出向くにあたり、おさんの実家から手代茂右衛門を留守中の監視役として呼んだ。夫の留守、おさんと腰元たちは茂右衛門のあまりの真面目さに呆れ、腰元に誘惑させて彼を嘲笑しようとした。寝所に忍んだ茂右衛門は、熟睡したおさんを腰元と間違えて犯してしまう。期せざる不倫の罪に怯える二人はさまざまな難儀の末、丹後の切戸辺に隠れ住む。おさんは思わざる過ちで逃亡の身となったが、茂右衛門との性に溺れた。それはおさんが初めて知った女としての喜びだった。その生活は長くは続かない。丹波の栗商人が大経師の店に寄った際、おさんに似た人を目撃したと話たことから両名は捕らえられ、処刑される。一夜の座興から出来した不運な悲劇ではあるが、おさんの逃避行を笑劇風に描く西鶴の筆は、その背後に茂右衛門との性愛に溺れる人妻の嬉々とした姿を伝えて痛ましい。


巻四 恋草からけし八百屋物語

お七
 江戸本郷の八百屋八兵衛一家は年末におきた大火に遭って類焼し、駒込の吉祥寺に難を避けた。八兵衛夫妻にはひとり娘のお七がいた。年十六で美人の名が高かった。寺での日々のある夕、指のとげに悩む若衆吉三郎に出逢ったお七は、初めての恋に燃える。春雨の夜、人目を忍んで吉三郎の寝所を訪ね、両名は宿命的な契りをかわす。それがお七の母の知るところとなり、二人の仲はきびしく割かれた。八兵衛の家が新築成っての冬の夜、吉三郎はお七に逢いに来た。それも束の間の逢瀬だった。お七にとって、吉三郎は禁忌の男である。彼は男色の若衆で武家の念者がいた。念者はいま松前に帰藩している。吉三郎に会うためには、もう一度江戸大火があるとよい、お七の放火はそれであった。捕らえられ、火刑に処せられたお七が恋に殉じた最後は「うるわしき風情」だったという。全力で恋人に走り、自爆したお七を描いて、作者はそこになにかの告発を告げているのではないか。


巻五 恋の山源五兵衛物語

おまん
 さまざまな恋が悲劇を生むと西鶴は言うが、男色の男に恋したおまんは十六の知恵を恋する源五兵衛に傾けた。源五兵衛は恋人の若衆に急死され失意の身を高野山への旅にかけた。だがその途次、亡き念友に似た若衆と知り合い、帰途の再会を期す。結果はまたも若衆の死を知るだけに終わる。彼は世を捨てる。行ない澄ます山籠りの庵居の日々を、おまんはじっと凝視していた。鹿児島浜の町琉球屋の娘十六歳、「心ざしもやさし」い彼女はもうこの時半狂乱だった。神無月おまんは神を欺いて若衆姿に変身する。女色から男色への転換である。源五兵衛の庵居に忍んだおまんはそこで死んだはずの若衆二人と源五兵衛との幻想劇を目撃する。おまんの嫉妬は二名の若衆の幽霊に憑依した。誘惑は源五兵衛をおまんの側に蘇生させ以後いささかの苦難を経ることで両名は幸せを手中にする。だがこれは西鶴のフィクションであって、非業に死んだ男女を弔うための趣向なのであろう。


(檜谷昭彦)學燈社『古典文学作中事典』より

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