憎いあんちくしょう
あらすじ
時は大正、所は深川、お不動様の裏手にあるかげろう長屋に、めっぽう粋でいい女、おろくが住んでいる。おろくの家は三代続いた紺屋(染物屋)だったが、七年前に店が傾き、母を亡くし、枕の上がらぬ父長兵衛と二人、長屋での貧乏暮らし。いずれは紺屋を立て直そうと思いつつも、積もり積もった借金すら返すあてもないが、持ち前の明るさと気風の良さで、毎日のように借金の取り立てに押しかけて来る黒紋太一家の若い衆にも慕われている。
大川(隅田川)の花火大会の夜、おろくを密かに慕う幼馴染みの花火師、夕顔の松吉は、大きな五尺玉の花火を作ったのが親方に知れて、打ち上げ前に壊されてしまい、酒浸りの毎日を送っている。
深川の先、洲崎川を渡ると、洲崎パラダイスと呼ばれる歓楽街があり、中でも東雲楼という娼館が羽振りをきかせている。女将のお熊は、かげろう長屋の土地を買い取ろうとしている黒紋太と手を組んで、表向きはカフェ、裏では娼館を経営しようと考えている。
東雲楼の一番人気は、“〜ぞなもし”という松山弁が愛らしい小袖。お熊も小袖には特別に目を懸けている。その小袖は呉服屋紋白屋の次男坊、徳次郎と恋仲にある。小袖に入れ揚げ放蕩の過ぎた徳次郎は勘当されてしまう。かくなる上はと、駆け落ちの約束まで取り付けるが、心中はしたくないと拒む小袖には、何か思うところがある様子。説得された徳次郎も家から持ち出した反物を売っては細々とその日暮しを続ける。
黒紋太は直々にかげろう長屋の長兵衛宅を訪れる。噂に違わぬおろくの美しさに目をつけ、丁半博打を申し入れる。勝てば借金はチャラに、しかし負ければ東雲楼の女郎として働き、借金を返さなければならない。おろくは承諾し、大勝負に出るが、あっさり負けてしまう。そこに松吉が現われる。お熊の振ったサイコロには細工がしてあり、始めからおろくが負けるように仕組まれていたのだ。おろくを救おうとの一心で乗り込んだ松吉だったが、イカサマを見抜けなかった器量の無さ、非は自分にあると、おろくは博打の出目に従い、東雲楼で働くことになる。
ほど無くして、おろくは小袖と並ぶ東雲楼の売れっ子女郎となる。苦界暮らしの中でも、決して悲嘆などせず、しばらく登楼しない徳次郎の身を案じる小袖を励ます。
松吉もおろくの様子が心配で、客として何度か東雲楼を訪れるが、おろくと会っても不甲斐ない気持ちが先立って、つい言い合いになってしまう。
行方不明の姉の消息を探るために東雲楼にもぐり込んだお玉は、お熊が姉を殺したと思いこみ、復讐を誓う。
9月1日の昼、大きな揺れが東雲楼を襲う。関東大震災。倒壊し、火の手が上がる東雲楼。逃げ惑う女郎たち。どさくさに紛れて、お熊の部屋の手提金庫を抱えて逃げる小袖。
東雲楼に駆けつけた松吉は、転倒し気を失っているおろくを抱いてかげろう長屋の長兵衛の元に届けると、そのまま姿をくらましてしまう。
震災の痛手は甚大だったが、復興は著しい。逃げた女郎たちも連れ戻され、黒紋太一家の力添えで、東雲楼は改築され、ニュー東雲楼としてオープンする。
おろくは長屋の地下に隠れて長兵衛の世話を続けていた。そこに贔屓客だった八王子の寺の菊丸和尚の元に身を隠していた小袖が訪ねてくる。
小袖はおろくに身の上を打ち明ける。幼い頃、松山で土産物屋を営んでいた両親が、ある男に店も財産も騙し取られ、それを苦に自殺をしてしまった。小袖はその男に復讐するため、東京に来たのだ。
一方、松吉はおろくを忘れようと、自分を慕う自転車お玉と関係を持ってしまうが、後悔をしている。
徳次郎は逢引の場所だった社で、小袖と再会する。小袖は徳次郎の自分への想いが真実であると知り、ずっと打ち明けられずにいた復讐の計画を告げる。
おろくは長兵衛の世話を小袖に頼み、ニュー東雲楼に戻る。
ニュー東雲楼では、女郎たちが生活待遇の改善を訴えるストライキを始めるが、お熊はなかなか首を縦に振らない。
長屋の住人たちも、インターナショナルを謳い、立ち退き反対のプラカードを手に、押しかけてくる。
そこに蛇の目傘をさしたおろくが颯爽と登場する。
小袖の敵討ちは?お玉の姉の消息は?そしておろくと松吉の恋の行方は…
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