〇お三重(『歌行燈』)
| 月夜の晩に桑名の宿に着いた能役者、恩地源三郎と小鼓師、辺見雪叟。二人の老人は宿泊先の湊屋に車を走らせます。車中に博多節が漏れ聞こえてきます。 三年前、按摩で謡の名手、宗山がその芸に奢っていると聞き、恩地源三郎の甥、恩地喜多八は懲らしめてやろうと宗山に挑み、負かしてしまいます。恥辱を受けた宗山は、“七代まで流儀に祟る”と恨みを残して死んでしまいました。喜多八は源三郎に勘当され、現在では門付けにまで零落しています。源三郎と雪叟が車中で聞いた博多節は喜多八が歌うものでした。 喜多八はうどん屋で知り合った按摩を相手に、過去の過ちを語ります。 湊屋の源三郎と雪叟の座敷に、芸者とは名ばかりの娘、お三重が呼ばれます。三味線もろくに弾けぬと聞き、何が出来るのかと問われ、お三重は『海人』が唯一舞えると答え、二人の前で披露します。お三重の舞に、源三郎は喜多八の手を見ます。 お三重は宗山の一人娘で、父親の死後、鳥羽の郭に売られ、不遇をかこち、見かねた者に古市で芸者になるよう世話をされるのですが、芸事の覚えが悪く厄介者扱いされていました。そのお三重に、ある門付けが鼓ヶ嶽の雑木林で、手取り足取り『海人』の舞を伝授してくれたといいます。 全てを語ったお三重は、源三郎の謡と雪叟の鼓で再び舞を舞うのでした。 宿の外には、その謡と鼓に惹かれ、謡う喜多八の姿がありました。 |