播州播磨の姫路城、その美しさからまたの名を白鷺城と呼ばれるその天守、五重の最上階には、一体の青い獅子頭が据え置かれ、富姫という朧長けた夫人が多くの侍女や腰元たちに傅かれて住居していました。獅子頭は、以前は群鷺山の地主宮にあったもので、二代前の当主が鷹狩に出張った際、馬上から落人らしき貴婦人の一行を見かけ、お宮に追いこんだのを手篭めにしようとしたのですが、その夫人は舌を噛んで自害してしまいました。獅子頭は夫人の血を舐め、涙を流したと言い伝えられていました。その後、毎年洪水が起こり、夫人の祟りかと噂されましたが、怖いもの知らずのお殿様は、洪水を起こすなら、ここまで届かせてみよと、曰くのある獅子頭を天守の最上階に置きました。それ以来、天守には様々な怪異が起こるようになり、城内の者は恐れをなして、誰一人として近付こうとしなくなったのです。

晩秋の或る日、富姫の妹分、会津の亀姫が、手毬をつきに天守に遊びにきます。富姫は亀ヶ城城主(播磨守の実弟)の生首を土産にもらったお返しに、用意しておいた家宝の兜ではなく、播磨守愛蔵の白鷹を取り、亀姫へ贈ります。
亀姫の帰った後、天守に一人の若き鷹匠、姫川図書之助が白鷹の探索にやってきます。白鷹を逃がした咎で、閉門、切腹となるところを、特別のはからいで、天守の五重に行き、生還できればその罪を許されるとのことだったのです。富姫は二度と来ることのないようにと約束し、そのまま送り帰します。しかし、途中手燭の灯りを消され、禁を破って戻ってきた図書之助の潔く、凛々しい様子に感服し、そして灯りをつけた際、富姫は図書之助と目を見交わし、その美しさに一目で恋に落ちてしまいます。富姫に家宝の兜を授かって城内に戻った図書之助は、謀叛人の嫌疑をかけられ、再び禁を破って天守へと戻ってきます。
獅子頭の中に隠れた図書之助を討手たちは取り囲み、獅子の目を槍で切りつけます。獅子の精によって活かされていた天守の者たち、富姫始め越元たち、図書之助までもが、失明してしまいます。富姫は亀ヶ城城主の生首を討手たちに投げつけ、それを播磨守の生首と見間違えた討手たちは士気を失い、退散します。最早これまでと死を覚悟する富姫と図書之助の前に、工人、近江之丞桃六という老人が現われ、傷ついた獅子の目を彫り直し、二人の目を見えるようにしてくれたのです。 |