〇村井紫玉(『伯爵の釵』)

 帝都劇団の看板女優、村井紫玉は、全国興行のため、北陸の街K市を訪れます。夏の酷暑に見舞われた土地で、観客たちを熱狂、絶賛させ、それは一服の清涼剤として高く評価されていました。

 公演の後、紫玉は次の公演までの合間に、名所旧跡の多いK市を巡り、有名な庭園へと向かいます。
 途中、大きな神社の境内で、背の高い手水鉢の水を欲しがっている美しい稚児に会います。稚児は手を清めるために水を欲しがっていたのですが、
紫玉は咽喉が乾いているのだと勘違いし水の飲み方を教えます。稚児に行儀の悪さを指摘され、紫玉は生意気であると稚児の頭を軽く叩いて公園に行きます。

 園内で、茶屋に憩っていた紫玉に三味線を背負った僧形の醜い門附け芸人が近寄ってきます。芸人の虫歯に疼く歯を、かつて贔屓の伯爵から贈られた、大事な鸚鵡の細工をした釵で渋々治療し感謝されますが、釵には悪臭が付いてしまいます。
 
紫玉は釵を洗っている最中、滝壺の中に落としてしまいます。その後、大池で舟遊びの最中、舟に飛び込んできた鯉の腹から釵が出てきます。

 夜、紫玉は弟子たちと園内で再び門附け芸人と出会います。大池で雨乞いの儀式を行えば、必ず雨が降ると教えられ、さらに名を上げよという言葉を神のお告げと解釈し、地元の名士で今回のパトロンでもある男爵に頼み、時代物の狩衣や袴を借り、祭壇を仕立ててもらいます。

 しかし儀式を進めても、雨は一向に降らず、男爵の怒りを買い、また観衆たちには嘲笑、罵倒を浴び、紫玉は恥辱にまみれてしまいます。

 その夜、紫玉は悔しさ、情け無さに駆られ、大池に身を投げます。
 気がつくとそこは岩窟の中、霊水の井戸の前で、件の門附け芸人と再会します。
紫玉はいつしかこの醜い芸人に恋心を抱くようになっていました。
 芸人は実は白山の雪ヶ池に棲む、竜神の姫神を恋慕う者でした。神社で会った稚児は、雨を降らせるために訪れた姫神、雪姫だったのです。
 芸人は姫神への
紫玉の態度や、あまりに目覚しい人気に嫉妬して、前芸と称し、様々な怪異や奇跡を起こしたのでした。
 全てを語られた時、井戸の中から、美しく気高い姫神が現われます。
 姫神は芸人を伴い、白山へと帰っていきます。
紫玉は芸人から纏儀の破れ法衣を授かります。

 外は土砂降りの雨、紫玉はより一層の芸への精進を誓い、次の興行先へと向かうのでした。

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