〇村井紫玉(『伯爵の釵』)
| 帝都劇団の看板女優、村井紫玉は、全国興行のため、北陸の街K市を訪れます。夏の酷暑に見舞われた土地で、観客たちを熱狂、絶賛させ、それは一服の清涼剤として高く評価されていました。
公演の後、紫玉は次の公演までの合間に、名所旧跡の多いK市を巡り、有名な庭園へと向かいます。 園内で、茶屋に憩っていた紫玉に三味線を背負った僧形の醜い門附け芸人が近寄ってきます。芸人の虫歯に疼く歯を、かつて贔屓の伯爵から贈られた、大事な鸚鵡の細工をした釵で渋々治療し感謝されますが、釵には悪臭が付いてしまいます。 夜、紫玉は弟子たちと園内で再び門附け芸人と出会います。大池で雨乞いの儀式を行えば、必ず雨が降ると教えられ、さらに名を上げよという言葉を神のお告げと解釈し、地元の名士で今回のパトロンでもある男爵に頼み、時代物の狩衣や袴を借り、祭壇を仕立ててもらいます。 しかし儀式を進めても、雨は一向に降らず、男爵の怒りを買い、また観衆たちには嘲笑、罵倒を浴び、紫玉は恥辱にまみれてしまいます。 その夜、紫玉は悔しさ、情け無さに駆られ、大池に身を投げます。 外は土砂降りの雨、紫玉はより一層の芸への精進を誓い、次の興行先へと向かうのでした。 |