「峠」の旅

☆河井継之助と戊辰戦争

 河井継之助は、1827年(文政10)に越後の長岡城下に生まれました。諸国を遊学した後、長岡に戻り、その才知と先見性により、藩の要職を任されるようになります。幕末の越後長岡藩の家老上席で、戊辰長岡戦争の軍事総督でした。薩長諸藩と対峙する重大事に家老となり、奥羽越列藩同盟の結成に参加し、薩長軍(西軍)と対決することになります。地理的に、最初に西軍の攻撃を受け、会津藩等の支援を受け、奮戦しますが、長岡城が落城し、一度は八丁沖渡渉の奇襲により、奪還に成功しますが、再び敗走します。明治維新期の内戦として、多大な犠牲を払いながらも近代国家が形成されていく過程の出来事でした。これをテーマに書かれた小説はいくつかありますが、司馬遼太郎の『峠』は河井継之助に焦点を当てています。


河井継之助の敗走した道

  『峠』は、1966年(昭和41)から約1年半にわたって毎日新聞に連載された司馬遼太郎の歴史小説です。主人公は若い頃諸国を旅し、江戸から現在の岡山県高梁市まで行って、山田方谷に学び、果ては長崎まで遊学しています。しかし、小説中、最も印象的なのは、二度目の長岡落城後の敗走で、継之助は戦闘で左足に重症を負っており、戸板に乗せられて、見附、吉ヶ平を経て、八十里越を会津へ向います。会津藩領内に至ったものの、傷が悪化して、動けなくなり、会津城下にたどり着くことなく、会津塩沢において42歳で没しました。


終焉の地にある河井継之助記念館(福島県只見町) 栄涼寺の河井継之助の墓(新潟県長岡市)
河井継之助最後の旅の行程
7月24日
 ・夜半から長岡城奪還の八丁沖渡渉作戦を開始
7月25日
 ・長岡城奪還に成功し、西軍を敗走させる
 ・午後3時頃、継之助が銃弾に当たって、左足を負傷
7月26日
 ・東軍の会津・米沢藩兵ら長岡城に入城する
7月29日

 ・長岡城が西軍の猛攻で再度落城し、敗走する
8月2日
 ・継之助、戸板に乗せられて見附を立つ
8月3日
 ・継之助、吉ヶ平に到着
8月4日
 ・継之助、八十里越の途中、山中で泊まる
8月5日
 ・継之助、会津領の叶津着、叶津番所に泊まる
8月6日
 ・五十嵐清吉宅に逗留して、傷の加療を行う
8月12日
 ・継之助、塩沢に到着するも重体で動けなくなる
8月16日
 ・塩沢の医家矢沢家で息を引き取る、享年42歳

『峠』を巡る旅五題

 私は、今までに『峠』の主人公河井継之助の足跡を訪ねる旅に何度か出ていますが、その中で心に残った所を5つ。

 その1は、河井継之助記念館(福島県只見町)です。継之助終焉の地で、医家矢沢家で息を引き取った部屋(矢沢家は1962年の滝ダムの建設で湖底に水没)が、記念館内に移築保存されています。享年42歳、8月16日のことで、塩沢に着いて4日後でした。館内の展示によって、彼の偉大な業績と先駆的な考えを知ると共に、戊辰長岡戦争の全貌を考える上では大変重要な施設です。近くの医王寺には、火葬後の細骨を集めて、村人が建てた墓があります。

 その2は、長岡城跡(新潟県長岡市)です。戊辰長岡戦争の舞台となった所ですが、戊辰戦争後城跡は徹底破壊され、駅前の厚生会館脇に石碑が建っているだけです。しかし、旧城下には、長岡藩の本陣となった光福寺や“米百俵の碑”、“明治戊辰戦跡顕彰碑”、“河井継之助開戦決意の地記念碑”などの記念碑、関係者の墓石等が散在していて当時を偲ぶことがことが出来ます。継之助の墓も市内の栄涼寺にあります。

 その3は、慈眼寺(新潟県小千谷市)です。薩長軍(西軍)との戦いを避けるため、1868年(慶応4)5月2日に西軍方の軍監岩村精一郎と会談した場所です。会談は30分ほどで決裂し、戊辰長岡戦争へ突入することになりました。現在でも、寺の中に、その会談の部屋が、“河井・岩村会見の間”として当時のまま残されています。

 その4は、八丁沖古戦場(新潟県長岡市)です。当時は、南北約5q、東西約3qにわたる大沼沢地でしたが、今では一面の水田地帯となっています。1868年7月25日未明、西軍によって5月19日に落城した、長岡城奪還のため、河井継之助の指揮のもと690余名が渡渉して奇襲した所です。この作戦は、西軍の虚を突き、みごと長岡城奪還に成功します。現在では、渡渉地に八丁沖古戦場パークが作られ、記念碑が建てられています。また、その近くの日光社には、この作戦の先導役を務め、戦死した鬼頭熊次郎の碑があって、激しかった戦闘を偲ぶと共に、継之助の戦術の巧みさに驚かされます。

 その5は、叶津番所跡(福島県只見町)です。継之助が負傷し、戸板に乗せられて、八十里越した後、8月5日に1泊した所で、すでに重篤な状態でした。この建物は河井継之助が敗走時泊まった所としては、唯一当時のまま現在地に保存されています。

“河井・岩村会談”のあった慈眼寺(新潟県小千谷市) 八丁沖古戦場パーク(新潟県長岡市)
この作品を読んでみたい方は、簡単に手に入るものとして、現在、『峠』(司馬遼太郎著)が、新潮文庫<上680円、下640円>から出版されています。

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