…画家のクラムスコイに『瞑想する人』という題の傑作がある。冬の森の絵で、森の中の道に、ぼろぼろの外套に木の皮の靴をはいた百姓がたった一人、ひっそりと淋しい場所で道に迷ってたたずみ、物思いに沈んでいるように見えるのだが、べつに考えごとをしているわけではなく、何かを《瞑想して》いるのだ。とんと一突きすれば、その百姓はびくりとして、夢からさめたようにあなたを見つめるだろうが、何もわからないだろう。たしかに、すぐ我に返りはするが、何をたたずんで考えていたのかとたずねても、きっと何一つ思い出せないにちがいない。……瞑想家は民衆の中にかなり多い。きっとスメルジャコフもそうした瞑想家の一人だったのだろうし、おそらく彼もやはり、自分ではまだ理由もほとんどわからぬまま、貪婪に印象を貯えていたのにちがいない。
『カラマーゾフの兄弟 第三編 六』 新潮文庫・上 P239