notes of cinema 14.
雨あがる  
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notes 01.黒澤明監督の覚え書きより   

これは、主人公とその妻のドラマである。
まづ、その二人の関係をじっくりと描かねばならない。
夫の愛に生きている妻は、そのままの生活で満足している。
しかし夫は、貧しい生活が妻を不幸にしていると思っている。
もっと出世してもっと楽な生活を送らせようと齷齪(あくせく)している。
妻は、そんな夫を見ているのがつらくて、悲しいのに、夫には妻の心がわからない。

時−享保、戦国時代が終わり、次にその反動として奢侈逸楽を追う元禄時代になる。
そして、それに飽きそれを遠ざけて、質実尚武を尊ぶ享保時代が来る。
これは、その時代の話である。

見終って、晴々とした
気持ちになれる様な作品にすること。

notes 02.監督:小泉 堯史   

監督というのは、自分で望んだからできるというものではないですからね。
今回も黒澤久雄さんが「小泉を監督に」と言って下さったところから始まった話ですし。
機会があって、自分にあった題材なら勿論やりたいです。
ただ黒澤先生には「映画のことを真剣に考えるように」と言われていましたから、
その点では多少なりとも、約束を果たせたのではないか、と思っています。

notes 03.惜別、佐藤勝さん/監督補:野上照代   
 まだキャストも決まらない頃だ。小泉さんは今度の音楽は佐藤勝さんに頼みたいというので私から電話をした。
 「嬉しいねえ、そう。十八年間待ってた甲斐があったなあ。ありがとう。ありがとう」と満面の笑みを浮かべて喜んでいる佐藤さんが受話器の向こうに見えるようだった。 十八年間というのは『影武者』の時体調を崩したという理由で降りてから、という意味である。私はいつかこの真意を聞いてみたかった。
 たしかに佐藤さんの糖尿病との闘いは何年にもなる。時々目の前が真っ暗になって何も見えなくなったり、出血で真っ赤に見えたりするというのだ。そんな恐ろしい話を面白そうに笑いながら話すのだ。 佐藤さんの話はいつ聞いても面白かった。月水金と病院へ透析の治療に行く話まで彼が話すと可笑しかった。三〇八本の映画音楽を作り九八人の監督とつき合ったそうだ。あと監督二人と仕事すれば一〇〇人だ、と笑う。 音楽録音の日、ラストロールの指揮棒をピタッと止めて「OK!」と時計を見る。五時きっちりだ。「うまいもんだね」と嬉しそうに汗を拭いた佐藤さん。貧乏性でオーバータイムは絶対やらない、と得意だった。

 九九年一月九日、参宮橋の喫茶店で一回目の音楽打ち合わせをしたときのテープを聞いていると、佐藤さんが「僕の病気のことは気にしないで下さい。ダメなときはアッサリ仆れますから」と言い、私が「そんな、アッサリ仆れないで下さい」と言って皆が大笑いをするところがあった。 私は思わず涙がこみ上げた。本当にアッサリ仆れてしまったものだ。『雨あがる』は僕の遺作だ、と言っていた佐藤さん。惜しんでも惜しみきれない貴重な人を、我々はまた失ってしまった。寂しくてたまらない。ご冥福を祈ります。

notes 04.寺尾 聰インタビュー   

芝居の部分は自分でプランを立てられるけれども、役のベースとなる侍の部分はそうはいかない。
僕の考えでは、刀を抜かなくても、ちゃんと抜ける人物に見えないと、小泉監督が絶対にOKしないと思ったんです。
そういうふうに、僕は黒澤組で育ってきましたからね。

この作品では、ある意味で日本人の美しい部分、胸にキュンとくるようなものが出せたと思うんです。
そういう心に残るものに出演できた誇りを感じますね。
ですから、その日本人的な良さを出せる作品を若い世代へ伝えられたらいいなと思います。
今後も小泉監督と続けて作品が撮れたら…… 僕の夢です。



-スタッフ-
監督:小泉 堯史
脚本・題字:黒澤 明
プロデューサー:原 正人・黒澤 久雄
原作:山本 周五郎・著 角川書店刊/新潮文庫『おごそかな渇き』より
撮影:上田 正治
音楽:佐藤 勝

-CAST-
三沢伊兵衛:寺尾 聰
三沢たよ:宮崎 美子


永井和泉守重明:三船 史郎
榊原権之丞(近習頭):吉岡 秀隆
奥方:壇 ふみ
石山喜兵衛(家老):井川 比佐志

おきん:原田 美枝子
説教節の爺:松村 達雄

辻月丹(剣豪):仲代 達也