ちょっと 童話で 一息 コーヒータイム・・・。

 


    きこりっ子 と 星っ子    



  
   街からずっと離れたところに、小さな村里がありました。

  その村からもっと山に入ったところに、一軒のあばら屋がありました。
 
   ある夏の夜のことです。

  「にんにい、あしたもお天気になりよるかなぁ。」

  幼い弟がたずねます。

  すると、2つ年上のにんには、すきまだらけのあばら屋の、

  小さな窓から空を見上げてこういいます。

  「空を見てみい。 あないにきれいやよ。 きっと、ええ天気になるやろう。」       

   二人は毎日寝る前に空を見上げ、あすの天気を気遣います。 そして、

  「お空の神さま、あしたも天気にしてください。」

  と、小さな手を合わせて、お願いするのでした。




   二人のおっとうは、きこりでした。 まだ夜の明けきらぬ間に起きるのです。      

  そして、おのやなた、のこなどの道具を背なの負いこにくくりつけ、

  せっせこ、せっせこ、山の中に分け入るのでした。

   山の仕事は、朝早くから日暮れまで続きます。

  春も夏も秋も冬も、一年中、おっとうの仕事に休みはありませんでした。

  おっとうは毎日せっせこ山に通い、

  二人の兄弟も昼前には3人分の弁当を持って、山に入りました。

  みんなでゴマとみそのにぎりめしや漬けもんを食べ、

  昼から二人は、おっとうを手伝ったり、谷川や沢に入って遊びました。



   こうして、貧しいながらも穏やかで幸せな数年がたちました。

   「にんにい、あしたの天気はどうやろうかなあ。」

  と、いつものように弟がたずねます。

  「晴れたらええんやけどなあ。」

   と、いいながら、にんにはほかのことを考えていました。

  「なんか、この頃、おっとう元気がねえようやけんど・・・。」

  と、にんには、どうにも気になってしょうがなく、いってしまいました。

  「にんにもそう思いよったか。 おらも、なんや、へんな具合やと思うとったんや。」    

  弟も少し前から、気になっていたのでした。



   次の日、二人はおっとうの仕事を一日中ずっと手伝いました。

  そして、おっとうの様子をよーく気をつけて見ていました。

  おっとうは、いつもと同じように、モクモクと働いていました。

  でも、時々手を休めては遠くの山を見つめて、ためいきをつくのでした。

   昼ごはんのとき、思いきってにんには、おっとうに聞いてみました。

  「おっとう、なんかあっただか。 この頃、元気がねえようやけんど・・・。」

  すると、いつもは無口なおっとうが、めずらしく話し出しました。

  「おっとうはな、ずっときこりの仕事一筋に生きてきたんや。

  おっとうのおっとうもきこりやったし、きこりの仕事はこどもの頃から好きやった。

  おっとうのはらった枝は、町ん衆のかまどのたき木になる。

  おっとうの焼いた炭は、町ん衆の冬の生活には、なくてはならねえもんや。

  それに、なによりも、おっとうの切り出した丸太は、町ん衆の家になる。

  家が増えれば、町は新しく、大きゅうなる。 町ん衆は喜び、町は繁盛する。

  それが、おっとうには、なによりもうれしい、幸せなことなんや。」

  おっとうは、ポツリ、ポツリと、話続けました。

  「じゃがな・・・。 木は切りゃあ、のおなる。 山はまだ緑や。

  じゃが、少しずつ、少しずつ、緑は減ってきとるんや。

  いつまで、わしゃあ、きこりでおれるもんやろ・・・。」

  いつになく、おっとうはさみしそうでした。

  好きな仕事に毎日励めば励むほど、その仕事ができなくなる日が、

  早くやってくるのです。

  にんにも弟も、おっとうの気持ちを知って、考えこんでいまいました。

   おっとうが、どんなにきこりの仕事に生きがいを感じているか、

  そして、おっとうが毎日どんなにつらい気持ちで木を切っているのか・・・、ということを。

   それから、何日もにんにと弟は、

  「なんか、おらたちにできることはないやろうかなあ。」

  と、二人で話し合いました。




   そんなある日、にんにと弟は、いつもよりももっと奥まったところまで、

  山に入っていきました。

  <いったい、いつまで木が切れるんやろう。>

  そんな思いの、答えを探したかったからです。

   ふと気がつくと、目の前に大きな大きな池がありました。

  二人とも山奥にこんな大きな池があるなんて、ちっとも知りませんでした。

  濃い緑色の水に満たされたその池は、ピクリとも動かず静かで、

  まるでそこだけ時間が止まっているような気さえします。

  「にんにい、なんか静かやなあ。」

  「おお、静かで、ちいとばっかし暗うなっとるようや。」 

  二人は、小さな声で話しながら、初めて池を注意深く見渡しました。

   突然、弟が池の反対側を指差して、

  「あれ、なんやろ。」

  と、小さく叫びました。 にんには弟の指差す方向を、目を凝らして見ました。

  「ほたるやろうか。」

  と、弟がにんににたずねます。

  「いんやあー、ほたるは夏のもんや。 こない肌寒うなってから、見られるもんやねえ。」

  にんにはそういいながら、少しずつチラチラ光る池の向こう側へ近づいて行きました。

  弟も、にんにのきもんの裾を、チョイとつまんで続きました。

   すぐ近くの木の幹の陰から、二人はおそるおそる光るものを見てみました。

  「あいやー、火の粉やないやろうか。」

  弟はびっくりして、大声を出してしまいました。

  もっとびっくりしたのは、にんにです。

  「大きな声を出すんやない。」

  にんには、声を低くして、弟にいいました。

   二人のいる場所からは、光るものがはっきりと見えました。

  それだけでなく、小さなこどもの姿も見えたのです。

   もう、二人とも驚きのあまり、声も出ません。
  
  見たことのないような輝くきもんを身につけ、
  
  頭にはこんぺい糖のような形をした、七色に光るかんむりをかぶっています。
  
  その光るこどもは、人間の赤子ほどの背丈をしていました。

  でも、動きがとてもすばやかったので、

  <きっと、おらたちと同じぐれえのわっぱやろう。>

  と、二人は心の中で思いました。

   光るこどもは、一心に火を燃やしていました。

  飯をこさえるわけでも、寒さをしのぐわけでもなく、
 
  ただ火を燃やしているだけのようです。

  恐ろしさはもうちっともなく、

  にんにと弟は、穏やかでなにか不思議な温かさを感じていました。

   しばらくすると、光るこどもは、手を休めて、空を見つめました。

  そして、フッと小さなためいきをひとつつき、涙を手の甲でぬぐいました。

   にんにと弟は、自分たちが隠れていることも忘れて、光るこどもに声をかけました。

  「どうかしよったんか。 腹でも痛いんか。」

  「おまえ、だれや。 どっから来よったん。」

  二人は、次々に質問しました。

   光るこどもは、ビクッとからだを動かし、二、三歩後ずさりしました。

  でも、二人が自分と同じこどもであることがわかると、

  安心したように、こういいました。


  「ボク、星っ子。 お空の星の星っ子。」

  その声はとても澄んでいて、か細く、空気に溶けこんでいくようでした。二人は、

  <まるで、氷のような声だなあ。>

  と、思いました。

   星っ子は、話し続けました。

  「ボクの父さん、お空の一番星。 だけど、この頃、元気ない。

  お空の星、少なくなって、ボクの父さん、心悲しい。

  ボク、元気な父さん、好き。 だから、星、増やしたい。」

  そういいながら、星を見上げました。

    にんにも弟も、いっしょに空を見上げました。

  そういえば、星が少なくなったような気がします。

  二人ともきこりのおっとうの思いを知って、つらく思っていたので、

  星っ子の今の気持ちが、とてもよくわかりました。

  「ボク、枯れ葉、集めて、火を燃やす。 たくさんの火の粉、お空に昇って、星になる。

  星増えると、父さん、喜ぶ。 父さん、喜ぶと、ボク、とてもうれしい。」

   星っ子は、父さんのためになにができるか。 なにをしたらよいのか。

  その答えをちゃんと探し当てていました。 にんにも弟も、少しはずかしくなりました。

  二人は、おっとうのためになにをしたらいいのか・・・、

  まだそれがわからずにいたのです。

  「でも・・・。」

  星っ子の声が小さくなります。

  「でも、枯れ葉、少ない。 山の木、切られてはげ山ばかり。

  いつまで、火の粉、お空、昇れるか、ボク、心配。」

  そういって、池のふちに座り込んでしまいました。

   どのくらいの時間がたったことでしょう。 あたりはすっかり暗くなってしまいました。

  火の粉の紅色が、よりいっそう鮮やかになりにんにと弟は、

  <まるで、せんこう花火のようやなあ。>
  
  と、心の中で思いました。 そして、ぼんやりと火の粉を見つめていました。

   
たき木がぜんぶ灰になり、最後の火の粉が宙に旅立ったときのことです。

  星
っ子のからだが、パチチーという音とともに、小さな輝くかたまりになりました。

  それから、ゆっくり、二人に近づいて、二度、三度、小さく輪を描き、

  やがて火の粉を追いかけるように、空に昇って行きました。

   にんにと弟は、星っ子が見えなくなるまで、ずっと、空を見上げていました。

  「にんにい・・・、星っ子、『さよなら』 って、ゆうたんやろうか。」

  「おお、『また、会おうな』 とも、ゆうたみたいやよ。」

  と、二人は話し合いました。

   うちに帰っても、にんにと弟は、星っ子のことを考えました。

  小さな窓から、空の星がキラキラ光っているのが見えます。

  その星を見つめながら、二人は、

  <今頃、星っ子、どないしとるのやろう。 空からも、おらたちのこと、見えるやろうか。>

  と、思いました。



 
   その夜、にんには夢を見ました。星っ子が悲しそうな顔をして、

  「山の木、切られて、はげ山ばかり。」

  とつぶやいています。 おっとうもさみしそうな顔をして、夢に出てきました。

  「木は切りゃあ、のおなる。 いつまで、わしゃあ、きこりでおれるもんやろ・・・。」    

  星っ子やおっとうの姿が、小さく小さくなっていきます。

  にんには、泣きたい気持ちでいっぱいになりました。

  「木が増えればええんや。 山が緑になりゃあおっとうも、町ん衆も、星っ子も、

  泣くようなことはのうなるんや。」

  そう、にんには叫びました。

   ガッと目をさますと、夜が明けかけていました。

   にんには、夢の中のことばをもう一度いってみました。

  「木が増えればええんや。」

  すると、弟が続いて、

  「みんな、みーんな、泣かんでええんやよな。 にんにい。」

  というではありませんか。 不思議なことに、二人は同じ夢を見ていたのです。

  「そうや。 どないして、こんな簡単なことにきーつかなんだやろ。

  はげ山を耕して、木の苗を植えればええんや。」

  「いっぱい植えたら、おっとう、ずっときこりでおられるやろなあ。」

  二人は、目をキラキラ輝かせながら、話し合いました。


  
   
   窓から、まばゆい陽の光が差しこんできました。

  遠くの山の向こうから、お日さまが顔をのぞかせています。

  二人は、朝の光の中で、

  <木を植えよう。 木を植えて、山を緑によみがえらせよう。>               

  と、誓うのでした。

                  お ・ し ・ ま ・ い