1.Porsche 997 carrera 納車


2005年6月17日





絶世の美女997


ある日、横断歩道を渡っているときに反対側から歩いてきた「理想の女性」があなたにウインクをしてきたら、あなたはどうしますか?


「理想の女性」と言っても、それこそ夢に出てくるような絶世の美女です。あなたは自分の財布や預金残高にいくら入っているかを調べてから彼女に声を掛けますか?


2005年某日、私は絶世の美女と出会いました。ポルシェセンター大宮にキャララホワイトの997即納車があると聞き、私は自分の少ない預金残高も確認せずにとりあえずディーラーに直行しました。オプションは私が必要と考える全てのものが装備されていました。



「こんな美女を逃したらもう2度と出会うことは出来ない!」と思い、我が家にいるもう一人の美女?に相談したところ、あっさりとOKを出してくれました。こんなにすんなりOKが出ると逆に「男としての器」が試されているようで本当に買っても大丈夫かと怖くなりました。(笑)




ポルシェを買うとき


私のポルシェ歴もこの997で5台目となります。22歳の頃アメリカに住んでいた私はバイトで貯めたお金で中古の1981年式ポルシェ911を購入しました。ポルシェ好きの友人に誘われるままにディーラーを訪れ試乗させてもらった瞬間、体中に電流が走ったのを今でも忘れはしません。


ポルシェは「買うとき」も「売るとき」もたいへん大きなイベントです。


最初はポルシェを買うために自分なりに目標を設定していました。私は20代をアメリカで過ごしオハイオ州立トレド大学のMBAに通いながらプロレーサーとしてAMA2輪全米選手権を転戦していました。2台目のポルシェ購入に課した目標はMBA卒業とレースでの全米チャンピオン獲得でした。そして1994年にチャンピオンを獲得し、1996年には無事MBAを卒業して5年ぶりにポルシェ911(993)カレラ4Sの新車を購入することができました。


しかし、人生いつも順風満帆とはいきません。3台目以降は成功した時ではなく自分を奮い立たせるカンフル剤として買ってきました。だから私のポルシェ歴をお話する時、それはまさに私の人生の浮き沈みとシンクロしています。


実は今回のポルシェ購入も非常に困難な状況での決断でした。仕事や家計のことを考えると、とても新車のポルシェを買っている余裕はありませんでした。そんな時に妻が「こういうピンチの時こそポルシェでも買ったら?」と言ってくれました。


なんと良い妻を持ったものかと思ったのもつかの間「いつあなたが燃え尽きて死んでしまってもいいように名義だけは私にしておいてね!」とキツ〜イ一言を頂きました。そういう訳で正式には私・・・ではなく妻がめでたくポルシェオーナーになったと言ったほうが正しいかもしれません。(請求書は当然私に来ましたが・・・)




997インプレッション


空冷ポルシェを4台も乗り継いだ私にとって水冷ポルシェに乗ることは特別な意味を持っていました。


自分が想像していたポルシェと違っていたらどうしようと言う恐怖もありました。しかしエンジンに火が入った瞬間に私の不安も一瞬にして消え去りました。いろいろなところにポルシェらしい懐かしさを感じます。またRR特有の後ろから蹴られるような加速は健在で一層シャープに磨かれていました。

911はエンジン内部の様子がドライバーに手に取るようにわかります。最適化された混合気の「分子の粒」がシリンダー内部に吸い込まれ、その一粒一粒が完全燃焼していてリアタイヤに伝達されている感覚がドライバーに伝わってきます。また5,000回転を超えたあたりから聞こえる咆哮(ほうこう)はまさに獣が喉の奥のほうから吼えているようなサウンドで思わず酔いしれてしまいます。シフトの微妙なタッチまでこだわったと言われるアイシン製の6MTは絶品でした。歴代のポルシェの中でここまで綺麗にシフトが決まるモデルは初めてです。930時代からのポルシェのミッションを知る一人として今回のマニュアルミッションは感動でした。997では是非マニュアルをお薦めします。


それにしてもポルシェも罪なことをしてくれました。知人に「新型911を買ったよ!」と言うと必ず「カレラ?それともカレラS?」と聞かれます。総額1200万円以上の買い物をしたのに知人からは「素(す)のカレラね!」と言われてしまいました。しかし、素(す)のカレラでも腕さえあれば隣に乗っている人に「死ぬかと思った!」と言わせるくらいのコーナリングとブレーキングを披露することができるのでその点はご安心下さい。




「残すもの(受け継ぐ物)」と「捨てるもの」


「最新のポルシェは最良のポルシェ!」という言葉を良く聞きます。


ポルシェが他のメーカーと唯一違うのは、彼らが「最良のクルマ」では無く「最良の911」を作らなければいけないところにあります。


例えばフェラーリの場合、360モデナが40年の間360モデナであり続ける必要はありません。美しく、そして速ければそれがF430となり形を変えても許されます。しかし、911にはそれが許されません。ちょっとでもマーケットが期待する911と違ったものを出すとすぐに「これは911じゃない!」と言われてしまいます。水平対向6気筒RRという特異なエンジンレイアウトを持つポルシェ911には最初から911として受け継がなければいけないものがたくさんあるんです。


私の知り合いには2代目、3代目社長がたくさんいます。彼らは皆創業者が残してくれた伝統を守りながらも独自の工夫で新しいものを創造しようと日々努力しています。しかし、どんなに頑張っても「先代は良かった!」と言われてしまうことがあります。911も73カレラRSという超えられない大きなトラウマといつも闘っているような気がします。

ポルシェは1990年初頭に大変厳しい経営危機に見舞われて何度も買収の噂がたちました。


一部の噂ではドイツの象徴である「ポルシェ」ブランドを海外のM&Aから守る為にダイムラー・メルセデスやBMWも手を貸したという話もあります。ポルシェはここで先代から受け継いだ残すべきものと、捨ててしまって革新するべきものを見極めました。

そして日本から生産管理のスペシャリストを招きトヨタのマネージメントシステムを導入しました。「残すもの(受け継ぐ物)」と「捨てるもの」の判別は私たちの人生にとっても非常に重要な決断となります。ポルシェはこのことを良く理解して実践している世界でも類を見ない優秀な自動車メーカーです。



時々、ポルシェ911を見ていると人間らしい不器用さを感じてしまいます。皆さんにもどうしても変えられない自分の性格というものがあると思います。でもそれが「自分らしさ」なのではないでしょうか?911も40年間変われない自分と闘ってきました。だから、ポルシェ911は世界中の人達に愛され続けるのだと思います。




「911を所有すること」、それは私自身が自分の人生を闘っているという証(あかし)なのです。




SILVERFOX






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