クルマニア


デザインが顧客にもたらすブランドバリュー

BMW クリストファー・エドワード・バングル氏の講演

2005年10月20日(木) 六本木ヒルズ49階でBMWデザインディレクターのクリストファー・エドワード・バングル氏の講演がありました。


題目は「プレミアム・カー市場で勝ち続けるBMWのブランド戦略〜デザインが顧客にもたらすブランドバリュー」でした。 経営戦略の中でブランド戦略やデザイン戦略がどのようなポジションに置かれるいるかを中心に話が展開していきました。



クリス・バングル氏はご存知のように今や世界を代表するデザイナーでありカーデザイン界に新たな価値を提案している重要な人物でもあります。




内容は非常に興味深いものでルネッサンスの時期からの彫刻や建築物、ミケランジェロからフランクロイドライトの建築までを網羅していて現代の自動車がどのようにこの建造物や工業デザインまたアートから影響を受けたか、そして今後どういう方向に向かっていくのかを詳しく解説していました。




デザインにはFUNCTIONAL(機能的)な側面とEMOTIONAL(感情的、情熱的)な側面があります。自動車が開発された当初は移動目的だった乗り物に意外にもEMOTIONALな側面がたくさんありました。しかし、1970年代以降はFUNCTIONALな側面がより多く求められて機能的なデザインが多くみられるようになりました。そして、ここ15年では共用部品を多用しコストを下げることで色々な制約が生まれクルマのデザインが全体的に似たようなものになってきました。




自動車デザインの変遷を見ていると私たちの生活必需品のデザインと密接に関係しているのがよくわかります。



はじめて旧型フォードが出た1900年ごろにはLocomobileと言って家(HOUSE)をモチーフにしたクルマが多かったそうです。昔の黒いフォードのクルマを思い出してください。箱型の家にタイヤをつけたようなデザインですよね?背も高く屋根に丸みもありました。そして1930年代から大量生産時代に入りクルマが全部同じようなデザインになってきました。ヘンリフォードの有名なことばで「クルマはブラックでペイントされるべきだ!」と言うものがあります。これはデザイン的にブラックが良いのではなくブラックのペイントは他のどのペイントによりも乾きが早いので生産効率が上がるという意味から経営学でも格言になりました。




そしてその後、1960年代あたりからボートやヨットなど流線型の船をモチーフにしたフェラーリ250やポルシェ550などがデザインの主流になってきました。そして1970年代以降の現代のクルマは彼に言わせると冷蔵庫みたいだそうです。ゴルフなどの形に代表される箱型ですね!機能を突き詰めると居住性の面からもこれが一番効率的だそうです。







しかし、これからはFUNCTIONALにEMOTIONALが融合した新しいデザインがクルマにも求められています。彼の率いるBMWデザイングループはこのことを念頭にUTOPIAGINAという理論を元にデザインを進めています。




インダストリアルデザイン(工業アート)はHUMANワールドMACHINEワールドに分かれています。HUMANワールドとは昔の彫刻家などが独自の感性で作り上げていくモノです。またMACHINEワールドとは大量生産でモノを作りあげる作業のことです。今まではそれぞれがどんどんとかけ離れていく方向に向かっていました。なぜなら効率を重視すると、そこに人が介在する余地がなくなってくるからです。人が介在すれば個性も出るがコストも掛かり大量には生産できません。その反面大量生産をしていけば個性はなくなるけど、たくさんの製品を世に送り出すことができます。このことはモノ作りの歴史の中では必然でした。


しかし、21世紀になり現代の工業デザインに求められるのはその融合だと彼は言っています。




この融合を実際どのようにやるか?それは卓越した技術だと彼は言っています。今現在発売されているBMWのZ4のドアのプレスラインは専門家が見てもどのように作ったかわからないそうです。それくらい難しいことに彼らはチャレンジしています。卓越した自社独自の技術を大量生産の没個性に利用するのではなく、個性的なデザインを実現するために使うことで人間味のあるデザインを実現しています。ここにマシンとヒューマンの融合のヒントが隠されています。




i-podにもこれらの考え方が応用できます。今受けているデザインは少なからずこのようなアイデアが盛り込まれています。キーポイントはLeverage your resouces(資源の利用)です。現代の技術でこれは無理だろうというものにチャレンジすることです。この考え方はどの業界にも応用ができます。



i-podが面白いのは、あの白く無機質な物体それ自体では完成品といえないところにあります。i-podはi-tuneという媒体を利用してユーザー独自の個性をそこに盛り込んで新しい価値を創造しています。外見は一見シンプルですが中身は各ユーザー独自の個性が満載されています。これもファイルシェアリングなどが厳しく禁止されていた5年前ではできませんでしたが、法改正や生活形態の変化から可能になった新しいマーケットです。i-podの白いデザインは「まだ真っ白なキャンバスにあなた独自の個性で色付けしてください!」というような心理的メッセージもあるようです。




このユーザーと一体になってはじめて完成するという意味ではモーターサイクル(2輪車)がいい例でしょう。人馬一体と言いますが、バイクは人が乗ってはじめてデザインが完成されます。そういう意味では乗る人のファッションも非常に重要です。BMWグループはバイクにも非常に力を入れています。バングル氏はこの融合文化に対応するために新たな提案を社内でしたそうです。それは自動車開発チームとバイク開発チームが自由に行き来ができてお互いのリソース(資源・考え方)を共有できるシステムを作ることです。最初は反対もあったり、やりずらいこともあったそうですがこのことがきっと良い製品を作る為の助けになると彼は信じています。



今回の東京モーターショーでも展示されているBMWの最新バイクK1200Sのデザインをバングル氏は絶賛していました。このABSブレーキシステムを持つバイクは0−100km加速をたったの2.8秒でこなします。


バイクほど機能とデザインが融合した工業製品はないと思います。新しい技術が導入されれば、それが外見から見てもすぐにわかります。スイングアームの形状やフロントフォークのデザインなど・・・・。


クルマではすべて車体の中に隠れているので技術革新が目で見えません。バイクほどデザイナーにとって主張できる素材はないと思います。だからバイクデザインは個性に富んでいるものが多いんですね。




話を今度はブランディングに移します。



彼らは自社のクルマをブックシェルフ(本棚の本立て)に例えています。本立ての片方は古いもの(伝統)でそしてもう片方は斬新(革新)だそうです。そしてその本立ての片側に位置するのが7シリーズで、その反対側がZ4になります。その本立ての間で彼らはブランドを厳密に管理しています。3シリーズに関してはBMWのアイコンなので、すべてを注ぎ込んでいるそうです。そして5シリーズは革新の

エンジニアリングを満載しています。7シリーズとZ4は両端なのでいろいろな意味でのテストマーケティング的意味合いを持っているそうです。ある意味Z4は本当にやりたかったことをやれたクルマのようです。



ただ彼がこれだけは主張していましたが、ブランドはSTATIC(静態)ではいけないと言っていました。「変わらないことだけがブランド維持ではない!常にRISK(危険)を背負いながら変わっていかなくてはいけない!」と主張していました。



最後に「BMW IS ALL ABOUT DYNAMISM!」と言っていたのが印象的でした。人が引かれるモノの裏側には必ずこういった主義主張があります。



講義の中で一貫して言っていたのがパラダイムシフト(既成概念の打破)です。これは私がアメリカのMBAの授業でも毎日のように言われていたことです。このことなくしては何もはじまりません。パラダイムシフトがすべての考えの基本になることを再認識しました。



今回の講義には色々な分野の方が参加されていました。デザイナー、経営者、広告&広報、マスコミ、ディーラー関係者などさまざまでした。また講義は同時通訳を入れてヘッドフォンで聴けるのですが、ほとんどの方が英語で聴いて、また英語で質問されていました。中には普段英語を使っていないだろうな〜と思われる方も頑張って英語でバングル氏に質問をしているのが印象的でした。私も最初はどんな翻訳をするのか聴いていましたが、直訳すると彼の意思が希薄になってしまい話の筋が見えなくなってしまうので英語で聴いていました。直訳はまるでダイナミックレンジをカットされた音楽のようでメロディーはわかるのですが伝わってくるものが少ないです。今回参加された方々はデザインやブランディングだけでなく色々なものを吸収できたと思います。非常に有意義な講義でした。



この直後に東京モーターショーに行きましたが、デザインに対する見方が変わりました。簡単に「これは好き!これは嫌い!」ではなく、それをデザインした人の思想や思い入れもより理解しようと努力しました。またこのブランドが今後どのような方向に進んで行くかも注意して見るようになりました。


これも私の中の小さなパラダイムシフト(既成概念の打破)なのかもしれません。



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