Kitty







「あれ?また1匹増えた?」
 書き下ろしの原稿を終えて、アリスは京都の火村の下宿先を訪ねた。
 そこで出迎えてくれた猫たちの中に、初めて見る顔を見つけてアリスは首を傾げる。
「あぁ、昨日拾ってきたんだ。」
 猫と共に出てきた火村は、そっけなく言うとすぐに奥へと向かった。
「ふーん、ホンマに猫好きやなぁ」
 その場にしゃがみ込んだアリスは、新しく加わったまだ幼い猫に手を伸ばした。
 子猫は初めて見るアリスを警戒することもなく、その柔らかな身体を擦りつけてくる。
 淡い灰色の毛に黒の縞模様。
 少し青みがかったダークグレーの瞳はじっとアリスを見つめていた。
「ずいぶん人懐っこいんやな。火村、こいつの名前は?」
 じゃれてくるその子猫を抱き上げ、アリスも奥に入っていく。
「……まだ決めてない」
「珍しいな。いつもはすぐに名前つけてやるのに」
 なぁ、と猫に話しかけながら、コーヒーを淹れている火村に目をやる。
「なんなら俺が決めてやろうか?」
 懐いてくる子猫をすっかり気に入ったアリスは、火村の返事を聞く前に、色々とと名前を考え始めた。
「遠慮しとくよ。ネーミングセンスてっものがないからな、有栖川先生には」
「……嫌なヤツやな。確かにないかもしれんけど……」
 作家としてのささやかなプライドを傷つけられて、火村を睨みつけた。
 アリスに背を向けている火村は、見えなくてもその表情を思い浮かべることができる。
「拗ねるなよ、アリス」
 笑いながら言う火村に、アリスはさらに機嫌を悪くする。
「別に拗ねてなんか…って、何や?」
 今までおとなしくアリスの膝でごろごろと喉を鳴らせていた猫が、突然飛び降りて走り出した。
 火村のところまで行くと、その足元にまとわりつく。

 その様子をただぼんやりと見ていたアリスが、あっ、と小さな声をあげた。
「火村、そんなことはないと思うけど、もしかしてその猫『アリス』って名前やったりする?」
 灰色の子猫は、『アリス』のところでピクリと反応を示した。
 予感が確信へと変わる。
「当たり?」
「…………」
 無言の肯定。
 まさかと思ったが、どうやら本当にそうらしい。
「まさか俺の名前つけるなんて思わんかった」
 独り言のように呟かれたアリスの言葉に、火村は小さく舌打ちした。
 彼なりの照れ隠しなのだろう。
 淹れたばかりのコーヒーを持ってきて、少し乱暴に机に置いた。
「何か不満でも?」
 僅かに零れてしまったアリスの分のコーヒーにかまうことなく、火村は自分のカップに口をつける。
「いや、不満やないけど、何で?」
 自分の名前をつけられても、不愉快な思いは全くない。
 ただ純粋に驚いただけだった。

   火村はアリスに視線を向けたあと、問題の子猫を抱き上げた。
「似てるんだよ、お前に」
「似てる?」
「あぁ。何か変わったもの見つけると、目をきらきらさせて真っ先に俺のとこに持ってくるんだぜ、こいつ。好奇心旺盛でいろいろやりたがるが、かなりドジなんだ。それに、よく懐いてるくせに、ちょっと機嫌を損ねるとすぐに拗ねるんだよな。そっくりだろ?」
 ふわふわの毛を撫でてやりながら、にやりと笑う。
「全然似てへん!」
 そんなところが似てるといわれても、あまり喜べるものではない。
 怒るアリスを余所に、火村は余裕の笑みを崩さない。
「おやおや、自覚なしか。困った先生だな」
 火村が話しかけている猫を、アリスは横から奪い取った。
 しかし、最初あれだけ懐いていた子猫は、アリスの手を引っ掻き、あっさりと火村の膝へと戻ってしまった。
「こいつは俺の方ががいいみたいだな。俺のことが大好きなんだよな、『アリス』は」
 それは猫の『アリス』に向けられた言葉だったが、火村の瞳はじっと人間のアリスに向けられている。
 自分のことを言われているようで、紅くなったアリスはそれをごまかすように温めのコーヒーを口に運んだ。  アリスの反応に満足したのか、火村は猫たちの相手をし始める。

 火村の膝の上で眠り始めた『アリス』を見ながら、アリスは確かに似てるかもしれないと思った。

 火村のそばが一番安心できる。

 火村のことが誰よりも大好きで…

「内緒やけどな」
 微笑みながら、火村には聞こえないように小さく呟いた。


                       〜E N D〜


ありがちなお話。
やっぱりただのバカップルだ(笑)
関西弁大好きだけど、どうしても似非になってしまうのはお許しを。