Best Pillow 2
「わはは、猿が負け犬になったぞ。これで鬼退治に行けるじゃあないか。実に愉快だ。なあ、京極」
二人きりになった部屋に、榎木津の笑い声が響く。
「愉快なものか。最悪だ。あんたも帰れ」
先程の伊佐間の言葉を思い出し、中禅寺は頭を抱えるようにして低い声で言い放った。
向けられた言葉を無視し、探偵は不機嫌さを露にした古書肆ににじり寄る。
すぐ傍まで来ると、ゆっくりと手を伸ばし黒髪に触れた。
慣れ親しんだその感触に自然と口許が綻ぶ。
「気にしているのか。お前も馬鹿な奴だな。今更何を躊躇う」
長い指がさらさらと髪を掬う。
たったそれだけのことに持っていかれそうな心。
中禅寺ははっとしてその手を振り払った。
「僕はあんたと違って羞恥心と云うものを持ち合わせているんだ」
「そんな邪魔なもの捨ててしまえ」
間髪入れずに応えると、振り払われた手で中禅寺の細い腕を掴んだ。
そのまま引き寄せ、手の甲に唇を押し当てる。
心を溶かすように柔らかく――
けれど想いを伝えるように情熱的に―――
「相変わらず無茶なことを云う」
小さく溜息を吐いたが、その声にはもう怒りも不機嫌さも含まれてはいなかった。
敵う筈もない。
覚悟を決めたのは遠い昔。
躊躇った訳ではない。
ただ―――守りたかった。
言葉にはしないけれど、ただそれだけのこと。
「それも今更だろう」
ふふっと満足気な笑みを零し、榎木津は寝転がって中禅寺の膝に頭を乗せた。
「重い」
そう云いながらも身動きすることなく、榎木津の端正な顔を見下ろす。
「折角邪魔者が居なくなったんだ。今度は僕が独占する番だろう?大体、何でお前は他の奴らとばかり遊ぶんだ」
真っ直ぐに漆黒の瞳を見上げながら不満を口にする榎木津は子供そのものだ。
痩せ過ぎの古書肆は些か口を笑みの形にして、大きな子供の柔らかな髪に触れる。
「僕は遊んでやいませんよ。遊んでいたのは榎さんの方だろう」
眩しそうに細められる鳶色の瞳。
「お前が僕を無視するからだ」
それだけ云うと榎木津は目を閉じた。
反論する間もなくすぐに心地好さそうに寝息を立て始める。
「まったく…本当に子供だな」
肩を竦めて呟いた言葉も、もう届かない。
長い身体を投げ出して。
既に夢の中なのか穏やかな笑みを浮かべて。
膝に感じる暖かな重み。
徐々に感じ始める痺れもきっと至福の証。
中禅寺は暫し指先で柔らかな髪の感触を楽しんだ―――
〜了〜
理人様から頂いた2001HITのリクは「伊佐間っちと関君が見たい」とのことでした。
そんなこんなで何だか無理矢理な展開になっちゃってます;
そして鳥ちゃんがいるのは私の趣味です(笑)
すみません。結局メインは榎京になっちゃいました。
少しでも楽しんで頂けたなら良いのですが。。。
理人様、2001HITありがとうございました!遅くなって本当にすみませんっ。