君の隣で眠らせて
静かな夜だった―――
久しぶりにそれぞれ個室を取ることができ、三蔵は一人窓の外の闇を見つめていた。
月の光が、窓辺に立つ三蔵を青白く照らしている。
時が止まっているかのような静寂―――
ただ紫煙だけが揺らめき、暗闇へと消えていく。
コン、コン、と小さく扉が叩かれる音で時が動き始めた。
三蔵は後ろの扉をゆっくりと振り返り、ノックに答えようとした。
しかしノックの主は三蔵の声を待たず、無遠慮に扉が開かれる。
「勝手に入ってくるな」
当然のようにドアを閉め、隣までやって来た悟浄を睨みつけた。
「なーんか目が冴えちゃって。一緒に遊ばねぇ?」
「遊ばねぇよ。用がないならさっさと帰れ」
即答されて、悟浄は軽く肩を竦める。
「つれないなぁ。こんなに愛しちゃってんのに」
三蔵の手を取り、恭しくキスをする。
紅く光る瞳に覗きこまれ、三蔵は一瞬たじろいだ。しかし、すぐに視線をそらすと窓の方に向き直った。
後ろを向いてしまった三蔵の背中に覆い被さるように、悟浄はその肩に腕を回す。
「重い」
そう言いながらも、三蔵は逃げようとはしない。
調子にのった悟浄は、その耳元に口元を寄せた。
小さく震えた肩に、悟浄はニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「なぁ三蔵、煙草くれ。部屋に忘れてきちまった」
そう言われて三蔵は、黙って袂から煙草の箱を取り出そうとした。
しかし、その手は悟浄によって阻まれる。
「何だ?」
「じゃなくてさ、俺が欲しいのはこっち」
耳元で囁きながら、三蔵が咥えていたマルボロを奪う。
三蔵の身体を解放し、短くなった煙草の味を楽しむ。
「勝手に人のモン取ってんじゃねぇよ」
「いいじゃねぇか、ちょっとぐらい。恋人につれなくされて落ち込んでる俺に、間接チューぐらいくれたってさ」
最後の紫煙を吐き出してから、名残惜しそうに煙草を灰皿に押し付ける。
「言ってろ。俺はもう寝るから、早く出て行け」
ベッドの方へ行こうとする三蔵の腕をつかみ、引き寄せる。
よろめいた三蔵の身体は、悟浄の腕の中にすっぽりと納まった。
「イヤな夢見ちまってさ、恐くて眠れねーんだわ。一緒に寝てくんない?」
冗談っぽく言ってみせるが、その声は真剣だった。腕の力が強くなって、三蔵は少しだけ眉を寄せる。
「でかい図体して何言ってやがる。あんな狭いベッドに二人も寝れるか」
「大丈夫だって。お前細ぇし、隅っこの方でいいからさ。な、オネガイ」
甘えた声でねだってみる。
―――どうしても一人になりたくなくて
気付いたら三蔵の部屋の前に立っていた
この腕の中の存在に、どれだけ救われているのだろう―――
「……落とすなよ」
「えっ?」
三蔵の呟きの意味が理解できず聞き返す。
「ベッドから落としたら、叩き出すからな」
ダメだと言われるだろうと思っていた悟浄は、思いがけない了承の言葉に目を見張った。
拘束する腕を緩め、三蔵の顔を見つめる。
その顔がほのかに紅く染まっているように見えるのは、都合のいい思い込みだろうか。
「OK。朝まで抱きしめて放さないぜ」
「……明日も早い、もう寝るぞ」
三蔵は、言葉を無視してベッドへと向かった。
「なぁ、三蔵」
呼びかける悟浄に、三蔵は無言で振り返る。
「俺って、けっこう愛されてる?」
一瞬絡み合う視線。
「さぁな」
それ以上何も言わず、三蔵はベッドに潜り込んだ。
悟浄の頬が緩む。
否定しないということは、肯定したも同然。
自分が思っている以上に愛されているのかもしれないと思うと、さっきまでの暗い気持ちが嘘のように消えていく。
「サンキュ」
小さく囁いた言葉は、三蔵の耳に届いただろうか。
悟浄もまた、ベッドへと向かう。
三蔵の隣で眠るために―――
幸せな夢が、二人を包んだ―――
〜お わ り〜
確か甘々な二人を書こうとしたもの。
微妙。。。