問題ナンバー 9の答え      ★電子探偵団の会話をどうぞ……★
『みずき「あたし、マコトくんがいった『推理その三』って、いいセンいってるんじゃないかと思うんだ。」
マコト「えっ、シュークリームを買うのが趣味だったっていうやつ?」
 マコトは目をうたがった。
マコト「まさか、そんなのって……。」
みずき「だからさ、『趣味』っていうからおかしくなっちゃうんで、『目的』っていいかえたらどう?
マコト「目的?」
みずき「そう。つまり男は、マコトくんもいってたように、シュークリームそのものはいらなかったんだよっ。だけど、どうしても一度、手にいれる必要だけはあったんだ。
みずき「どういうこと、それ?」
 みずきがなにをいいたいのか、マコトにはよくわからなかった。
みずき「そこで推理だよっ。こんなのはどう?男がほしかったのはシュークリームじゃなくて、シュークリームの中身だったっていうのは?」
マコト「シュークリームの中身?」
 マコトは首をかしげた。
マコト「それって、クリームってこと?」
みずき「じゃなくて、その、もっと中身だよっ。」
マコト「えっ?」
みずき「ほら、シャーロック=ホームズにもそんな話、あったじゃん。ある男が××××××をこわしてまわる話。」
 みずきはちゃんと題名をいったのだが、××××××にしたのには、理由がある。ミステリーのタネをバラしてしまうのは、ルール違反だからだ。
みずき「あれとおんなじで、たとえばマコトくんちのシュークリームのどれかに、なにかがかくされていたとか。それをさがしあてるために、毎日毎日、大量に買っていったっていうのは?」
マコト「なにかって?」
みずき「たとえば、宝石とか。」
マコト「あのね、みずき姫。」
 マコトはあきれた。それって、さっきのダイの推理とどっこいどっこいじゃないのか。なんでパパのつくったシュークリームに、宝石なんかがかくされてなきゃいけないんだ?マコトがそう打ちこむまえに、みずきが先手を打った。
みずき「なんてことも、ないか、やっぱり。」
マコト「あたりまえだよ。それに、もしそうだったとしたら、男は、ぜんぶのシュークリームのなかをかきまわしてみすはずじゃないか、でも、じっさいは、そのままみんなにわたしちゃってるんだからさ。」
みずき「あ、そうだったよね。」
 みずきの推理も、ミステリーむきではあるけれど、やはり大はずれだった。
飛鳥「あのさ、みんな、気がつかないかなあ。」
飛鳥「じつは、なぞはもうひとつあるんじゃないの。」
マコト「もうひとつ?なにがさ?」
飛鳥「いいかい。一日めと二日め、それとさいごの日に一箱買ったわけだよね。なのに、三日めにかげって二箱だったっていうのは、いったいどうしてかな?
ダイ「そりゃ、いろんな理由があるだろうけどさ。でも、それって、考えてわかることなの?」
飛鳥「うん。ただし、ある事実を知ってないと、ちょっとむりかな。そこでマコトにきくんだけど、そのシュークリーム男って、わりとやせてて、ロック歌手のコジローににてるやつじゃないか?
 そのとおりだった。これにはマコトもおどろいた。そんな話、この場ではしていなかったはずだ。
マコト「マコトってよ、飛鳥。なんでそんなこと知ってるんだ?」
飛鳥「やっぱり、そうなんだね。」
マコト「そうだけど、ねえ、なんでだよ?」
飛鳥「千里眼なのさ。」
みずき「飛鳥ク〜ンマジメに答えないと、おこるよっ。」
飛鳥「おっと、みずき姫をおこらしちゃたいへんだあ。いうよいうよ。その男、『山手書店』って名入りの封筒をもってたってことだったよね。それでわかったんだよ。」
みずきどういうこと?」
飛鳥「じつはその書店、ぼくの学校の通学路にある古本屋なんだ。で、夏休みにはいるすこしまえのことなんだけど……。」
 飛鳥は、こんな話をはじめた。
 飛鳥が通う山王学園は、浜岸線の石野町駅から歩いて十分ほどの丘の上にある。山手書店は、その丘の、ちょうど登り口へんに位置していた。生徒たちは学校への行き帰り、いやでもまえを通ることになるわけだ。
 夏休みにはいる直前のことだった。入り口のガラス戸に、アルバイト募集のはり紙がでていたのに、飛鳥は気がついた。
飛鳥「古本屋の店番なんておもしろそうだなあと思って、それでおぼえてたんだけどね。十二時半〜五時半、時給八百円、交通費別、日払いってなってたよ。
 夏休みになってからも、補習授業で、飛鳥は毎日のように学校にでてきていた。そのさいしょの日、七月二十六日の月曜日の朝、はり紙はもうなくなっていた。
飛鳥「で、帰りがけに店をのぞいてみたら、そのコジローみたいなやつが店番していたんだよ。
 七月二十六日といえば、コジローがはじめて、「ラ=メール洋菓子店」にすがたをあらわした日だった。話をきいて、すぐさま、マコトの頭にひらめいたことが、ひとつあった。
マコト「石野町の近くかあ。そうか、それでなんだ。」
飛鳥「えっ?」
ダイ「なにがさ?」
みずき「それでって?」
 みんながいっせいにたずねてくる。マコトは飛鳥に確認した。
マコト「ねえ、飛鳥、そのバイト、五時半までっていったよね。
飛鳥「うん、そうだよ。」
マコト「それなら、つじつまがあうな。」
 石野町駅からは、風浜港を経由して、桜本町駅へとつづくバスがでている。マコトの店に近い「風浜大桟橋前」のバス停までは、二十分ぐらいだ。つまり、五時半にバイトを終えてバスに乗れば、六時ちょっとまえには、ラ=メール洋菓子店に到着することになる。マコトは、みんなにそう説明した。
マコト「それで毎日、おんなじ時間に、うちの店にやってきてたんだよ。」
みずき「なーるほど、だんだん話が見えてきたねっ。」
飛鳥「それはいいけど、みんな、ぼくがいったなぞはとけたのかな?ええい、めんどうだ。ヒントをいっちゃうぞ。一箱だけ買った日と、二箱の日があったのはなぜか?かんたんな話さ。一箱の日は、それだけしか買えなかったからだよ。
みずき「買えなかったって?
ダイ「どうして?」
飛鳥「も一度いうよ。コジローのバイトは、十二時半〜五時半、時給八百円、交通費別、日払いだったんだ。これでわからない?
みずき「ちょっと待ってよ。てことは、日給は四千円だねっ。で、シュークリーム一ダースは三千円……。なあんだ、かんたんな算数じゃないっ。」
ダイ「ああ、そういうことかあ。日払いのバイト料だけで買ったとしたら、一日めと二日めは当然、一箱っきゃ買えないよね。でも三日めは、まえの日までののこりの二千円とあわせて六千円もってるわけだから、ちょうど二箱買える計算になる。」
飛鳥もうひとつ、わすれてることがあるよ。一日めも、さいしょは十六個注文したんだったよね。つまり、ちょうど四千円分さ。コジローはバイトのお金をぜんぶはたいて、マコトんちのシュークリームを買えるだけ買っていったんだよ。
ネロ「いや、きょうのもじつにおもしろい話だった。わが電子探偵団の事件簿も、ますます充実してきたじゃないかね。さて、名探偵諸君、そんなところで推理はでつくしたようだな。では、そろそろ、それぞれの結論をきかせてもらうとするかな?」
ダイ「うーん、わかんないな。いいや、ぼくはさっきのハーメルンの笛吹き男説でいこうっと。」
飛鳥「結論。うーん、結論ねえ……。」
みずき「あたしも、ギブアップ。」
ネロ「マコトはどうかね?」
マコト「うーん……。」
ネロ「ふむ、全員降参か、しかし最初のみずきの推理は、いいところをついていたと思うのだがね。」
みずき「シュークリームのなかの宝石説?でも、それはないってことになったじゃん。」
ネロ「うむ、それはわたしもそう思う。『なか』にはなにもないだろうな。では、『そと』はどうかね?
マコト「わかった、箱だ!
飛鳥「箱だねっ!それも、いちばん大きな箱。
ダイ「そういえばコジローは、はじめ、ケースのケーキよりレジのほうを気にしてたっていったよね。それ、箱を見てたんだ。」
マコト「でも、うちのケーキの箱って、とくべつでもなんでもないんだぜ。専門店にいけば、一個二、三十円ぐらいで買えるはずだよ。あんなめんどくさいことして、しかも三千円はらってまで手にいれる必要なんか、どこにもないんだ。
ネロ「ちょっと待った。わたしは、箱といったおぼえはないがね。箱のほかに、『そと』にはなにもないのかね?
マコト「わかった!包み紙だ!
 ラ=メール洋菓子店の包み紙は、マコトのパパの友人で、富士山の近くに住んでいるトモイシさんという彫刻家がデザインしたものだった。まっ青な海の上を銀色の天使が飛んでいる絵がえがかれていて、なかなか味わいがある。もちろん、オリジナルのほうそうしだった。
みずき「つまり、マコトくんちでしか手にはいらないってことだよね。jコジローは、その包み紙がどうしてもほしかった。それならりくつはあってるじゃん。ほしかったのは大きな包み紙。一番大きな箱なら、トーゼン包み紙も大きくなるもん。
ネロ「では、諸君、約八十センチ×五十五センチか。それが五枚あるわけだな。さて、それだけの紙をなにに使うかね?といっても、わたしにも、分からない、データ不足だろう。どうだろう、この件は、つぎの電子捜査会議までの宿題としないかね?」
 次の日……
 三百八十一メートルのビルを見あげるマコトの目のはしに、ちらっとうつったものがあった。
 たこだった。ビルの右手のほうが手づくりたこあげ大会の会場になっていて、いくつものたこが、晴れあがった大空に舞っていた。
 そのなかに、それはあった。ハートの形をしたたこだった。そして、ハートのなかには、海の上を飛ぶ銀色の天使の絵がいくつもえがかれていたのだ!
 糸をたどって、地上に目をもどすと、あのコジローが、糸巻きをてにたこをあやつっているのが見えた……