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石田民三
將軍を狙う女 「東海美女傳」より(将軍を狙う女 「東海美女伝」より) しょうぐんをねらうおんなとうかいびじょでんより
監督 石田民三
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、石田民三監督の『將軍を狙う女 「東海美女傳」より』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 小西行長の遺臣・磧田與四郎(黒川弥太郎)は徳川家康を狙撃しようとして失敗。山中に逃れて同じく家康を仇と狙う娘お鶴(花井蘭子)と偶然出会い、共に家康を討とうとする。一方、家康は小西行長の遺児でキリシタンである由利(原節子)を捕らえながらも、なぜか何かと目をかけていた。

 村松梢風の原作の映画化(脚本:白浜四郎・加戸野恩児)。1時間強の小品だが、多彩な登場人物とプロットが入り組んでおり、見ごたえを感じた。
 與四郎と鶴・由利は架空あるいは名前だけ借りたキャラだと思うが、それだけでなく、家康や大久保長安(永井柳太郎)・本田佐渡守(深見泰三)といった実在の人物もステレオタイプで描かれておらず、各々人間味を見せたキャラクターになっているのが好ましい。
 與四郎を演じた黒川弥太郎は、まだ若くて演技にもちょっと若さが見えたが、まずまず。由利の原節子は、独特の雰囲気が貴人の娘かつ神秘性を感じさせるキリシタンという役にハマっている。声が、後年の独特のハスキーっぽい声とは全く異なり、まさに若い娘の声だったのが意外だった。
 戦前作としては保存状態も良く撮影自体も比較的シャープなので、ロケ撮影での自然の風景などが楽しめる(撮影:上田勇)。(2004/05/18)

花つみ日記 はなつみにっき
監督 石田民三
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、高峰秀子主演の『花つみ日記』を観た。監督は石田民三で、昭和十四年(1939)の作品。

 東京から大阪に引っ越してきた佐田みつる(清水美佐子)は転入した女学校で篠原栄子(高峰秀子)に声をかけられ、たちまち親友同士になる。二人は女生徒たちの憧れの的である梶山先生(葦原邦子)にも目をかけられるようになるが、ふとしたことから気持ちの行き違いが生じ……。

 吉屋信子の少女小説の映画化(脚本:鈴木紀子)。オープニングに別格扱いで「高峰秀子 主役」と出たのに続いて「葦原邦子 特別出演」とあったので誰かと思って検索してみたら、戦前の宝塚を代表する女優の一人だった人らしい。知らんかった。
 冒頭で女学生たちが一斉に歌を歌いながら掃除するシーンで、彼女たちが頭に幅広の白い鉢巻をしているのが見事なアクセントになっているのに始まって、全体に女学生に対する愛情に満ち溢れた描写で一貫している。今風に言えば女学生“萌え”映画ということにでもなろうか(笑)。
 少女たちの同性愛的な友情(実際、男女間の恋愛の代償でもあったろう)や先生への思慕が、見ている方がちょっと恥ずかしくなるくらい非常にストレートに描写されていて、昔の日本人はなんとナイーブだったことよと思わされるが、その描写の細やかさは、石田監督の力量だろう。その他、一人が歌を唄いだすと他の人々がそれに和するというシーンがいくつかあり、ちょっとミュージカル映画的な要素もある。
 当時の大阪の生活ぶりが丹念に映し出されているのも資料として興味深い(撮影:山崎一雄)。特に、人力で引っ張るリヤカー式の散水車が面白かった。(2006/02/07)

化粧雪 けしょうゆき
監督 石田民三
公開年 1940年
評点[B]
感想  今日は、石田民三監督の『化粧雪』を観た。昭和十五年(1940)の作品。

 東京は木場の近くにある寄席「喜楽亭」はラジオに押されている上に主人(汐見洋)が長く病の床にあり、経営は苦しい。放蕩息子(大川平八郎)が家を出てしまっている中、娘の勝子(山田五十鈴)と下足番の善さん(藤原釜足)は何とかして寄席を盛り返そうとするのだが……。

 原作が成瀬巳喜男で脚本が岸松雄という顔ぶれ。戦前の成瀬作品に時々見られる、大衆芸能の世界を扱った作品になっている。
 他の大衆芸能を扱った成瀬作品同様、それらは滅びゆくもの・廃れゆくものとして描かれ、ラジオのある電器店に群がる人々と閑古鳥が鳴く寄席とを対比させる冒頭からして、滅びへの道はどうやっても抗えない宿命であることを示している。
 ストーリーはシンプルでキャラクターもいささか類型的であり、ちょっと地味な作品という印象になる。しかし、寄席や付近の街並みを捉える映像が美しく、台詞ではなく映像で言わんとすることをわからせてくれる部分も多い(撮影:山崎一雄/装置:久保一雄)。古い邦画にあまり興味のない人には少々退屈かもしれないが……戦前邦画が好きな人は雰囲気だけでも楽しめると思う。
 出演者では、寄席のために奔走する善さんの藤原釜足が実にすばらしく、その妻を演じた清川虹子も良い。もちろん、和服と日本髪の山田五十鈴はいつもながら美しく上手い。

 ただし、作中“軍需景気”や工場建設云々という台詞が出てきて、そういった世の中の動きに取り残された人々を描こうという多少の社会批判の意図が、もしかしたら原作者や脚本家にあったのかもしれない。
 まさか翌年に太平洋戦争が始まることを予想できていたはずはないから、明確に体制を否定する意図があったわけではないと思うが。(2005/08/14)

エノケン・虎造の春風千里 えのけんとらぞうのしゅんぷうせんり
監督 石田民三
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、石田民三監督の『エノケン・虎造の春風千里』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 時は幕末。板前の与之吉(榎本健一)は、自分の育ての親でもある料亭の主人に大怪我を負わせたやくざの親分を殺してしまう。主人とその娘お豊(梅園かほる)の勧めで、せめて実の父親に一目会ってから自訴しようと思った与之吉は旅に出るが、なぜかお調子者の男(中村是好)や謎の浪曲師(広沢虎造)や門付け女(三益愛子)が与之吉にまとわりついてきて……。

 当時人気絶大だったエノケンと浪曲師の広沢虎造が顔合わせした作品(原作:荻原四朗/脚本:岸松雄・山崎謙太・大和田九三)。
 笠がくるくる回るオープニングタイトルが洒落ていて、保存状態が良くて名キャメラマン唐沢弘光の撮影による映像が美しいので、冒頭からちょっと期待させられる。実際観てみると、街道筋の風景がかもし出す戦前映画らしいのんびりした雰囲気がいい感じ。
 ただし、エノケン主演のコメディ映画としては少々テンポが遅すぎるような気がする。今の目で観ると、虎造の浪曲をたっぷりサービスしているのがテンポを損ねた一因だと思う。公開当時の虎造ファンは喜んだかもしれないが。また、落ち着いた石田演出はエノケン映画とは相性が今ひとつなのかもしれない。水準以上の作品ではあるし、浪花節好きの人にとっては佳作だと思うが。(2006/02/06)

浪曲忠臣蔵(元禄あばれ笠) ろうきょくちゅうしんぐら
監督 石田民三
公開年 1943年
評点[B]
感想  今日は、石田民三監督の『浪曲忠臣蔵』を観た。昭和十八年(1943)の作品。

 かつて浅野内匠頭の怒りを買って浅野家を辞した浪人・不破数右衛門(坂東好太郎)は大石内蔵助(月形龍之介)の計略も知らず、江戸で町人と化したような旧浅野家家臣をののしってしまう。一方、腕が評判の槍の師範・俵星玄藩(黒川弥太郎)の元には吉良家からの仕官の誘いがきていた。

 題名にあるように、所々ナレーションのように浪曲が流される(浪曲:廣澤虎造・梅中軒鶯童・壽々木米若)。廣澤虎造は不破数右衛門の隣人として出演もしている。もう一人の隣人として柳家金語楼も出演。俵星玄蕃の妹役に山根寿子、内匠頭未亡人・瑤泉院の役で花井蘭子が出演。
 内容も浪曲的な創作性の強い逸話を繋ぎ合わせ、不破メインの「天の巻」・俵星が主役の「地の巻」・“南部坂雪の別れ”から討入り後までの「人の巻」の三部構成(脚本:加戸野恩児=石田民三の筆名)。
 やはり構成に多少の無理があるが、講談ネタを基にしながらキャラクターの設定を脚色して各エピソードをまたがる人物を登場させ一本の作品にしようとしている工夫は感じられる。エピソードが上手く繋がっていないように見えるのは、製作当時は上映時間70分以上だったのに戦後の再公開版(『元禄あばれ笠』に改題)では57分ほどになってしまっているのが一因かもしれないが。
 出演者で最も印象に残ったのは、主役級の阪東好太郎でも黒川弥太郎でもなく、コミックリリーフの廣澤虎造でも柳家金語楼でもなく、大石内蔵助の月形龍之介。これ以外の作品の大石内蔵助像は“威厳ある家老”あるいは“頼りない昼あんどん”の二つに大別されるか、またはその二つを併せ持つものだった。しかし月形の内蔵助は、この俳優の個性のためか“南部坂雪の別れ”に至るまで徹底的に心底を隠して何を考えているかわからない怖さがある。他にない異色の内蔵助像だと思う。

 戦中の製作のためか四十七士が勢ぞろいするような大規模な場面は全くなく、苦労したようだ。ただし、討入りシーンはないものの雪が降り積もった江戸の町の遠景が登場する。これは円谷英二によるミニチュア特撮らしい。カメラワークも時々印象的なものがある(撮影:山崎一雄)。アラはあるが悪条件下で工夫した努力が見える作品。(2004/12/14)

石田民三
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