Return to監督別邦画備忘録Top pageHOME PAGE
衣笠貞之助
川中島合戦(川中島合戰) かわなかじまかっせん
監督 衣笠貞之助
公開年 1941年
評点[A]
感想  今日は、衣笠貞之助監督の『川中島合戦』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 永禄四年。上杉謙信(市川猿之助、のち市川猿翁)と武田信玄(大河内傳次郎)は、また信州の川中島付近で闘うことになった。上杉勢の大荷駄(輸送隊)の組頭・貝賀孫九郎(市川猿之助、二役)は百蔵(長谷川一夫)ら小者を率いて物資輸送のため奮闘する。

 溝口健二監督の『元禄忠臣蔵』と同じく、国民のナショナリズムを高揚させるためチャンバラ時代劇ではないリアルな歴史映画を作ろうという政策のもとに作られた作品の一つ。脚本は棟田博と衣笠貞之助。棟田博は『拝啓天皇陛下様』などの兵隊小説で有名な作家だが、確か長谷川伸の門下にあった人なので時代小説・歴史小説の造詣もあるのだろう。
 しかしながら、この題名や製作事情から大スペクタクル戦国合戦絵巻と思っていたら大違い。出世コースから外れてしまい輸送部隊に回されながらも忠義一途に働く人情篤き組頭と士分にも入らない小者たちが主役で、終盤までは合戦場に至るまでの行軍シーンがほとんどを占める。
 組頭と百蔵らが苦闘する行軍の過程はドキュメンタリータッチと言っていいほどリアルで、彼らにたっぷりと感情移入したあとに訪れる黒澤映画もびっくりの大合戦シーンは時間的には短いものの、それがかえって効果的。非常にアッサリとしているが、ダラダラ流すよりもよほど印象に残る。
 なんといっても人情家の組頭と威厳ある謙信を演じた猿之助が良い。素朴な若者を演じた長谷川一夫や信玄の大河内傳次郎も悪くない。百蔵たちに助けられる旅の女お篠(山田五十鈴)というキャラクターは途中までは余計に思えたが、ラストシーンで良いスパイスになっている。
 それにしても、今から観るととても戦意高揚には繋がらない作品なので、よく検閲を通ったものだと思うが、“滅私奉公”の精神を描いたものとして評価されたのだろうか。娯楽性はちょっと低いかもしれないけれども静かな迫力を感じさせる、現在でも価値を失わない一作。

 昔の映画の夜間シーンは何をやっているのかわからないこともあるが、この作品ではシャープに上手く表現していて、作品の価値を高めることに貢献している(撮影:三浦光雄)。保存状態が良く欠落もないのが嬉しい。(2004/11/23)

或る夜の殿様 あるよのとのさま
監督 衣笠貞之助
公開年 1946年
評点[A’]
感想  衣笠貞之助監督の『或る夜の殿様』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。

 時は明治十九年、鉄道の利権をめぐって商人たちが江本逓信大臣(大河内伝次郎)の滞在する箱根の高級旅館に押しかけていた。そのうちの一人で最も強欲な越後屋喜助(進藤英太郎)を陥れるため、他の商人たちは宿の女中おみつ(山田五十鈴)が見つけた書生風の優男(長谷川一夫)を名家の失踪していた跡取りに仕立てあげた。

 戦後、チョンマゲの時代劇をあまり作ることができなくなっていた時期に長谷川一夫が主演した、明治時代を舞台としたコメディ作。観客には長谷川一夫演ずる書生の正体は丸わかりだから、倒叙形式の推理劇と同じで予定調和を面白く見せる手腕が必要だが、衣笠監督と出演者たちはそれに成功していると思う。お約束の展開も明るく笑える明朗劇。
 長谷川一夫がトランペットを吹くのが有名だが、下手な書生節をがなりたてる藤田進の珍演も面白い。越後屋の娘・妙子を演じたのは高峰秀子で、クラシカルなフリフリのドレスも意外と似合って可愛い。越後屋の妻おくまは飯田蝶子。越後屋をだます男の一人に志村喬。(2001/12/31)

四つの恋の物語 よっつのこいのものがたり
監督 豊田四郎・成瀬巳喜男・山本嘉次郎・衣笠貞之助
公開年 1947年
評点[C]
感想  今日は、『四つの恋の物語』を観た。四人の監督によるオムニバスで、昭和二十二年(1947)の作品。

 第一話は豊田四郎監督の「初恋」。脚本は黒澤明。父(志村喬)と母(杉村春子)と三人暮らしの高校生・正雄(池部良)の家に、父の知り合いの娘・由紀子(久我美子)が預けられてくる。彼女によって正雄の生活はすっかり変わり、母親はそれを心配する。まだ蛮カラを気取る気風の残っていた高校生とその家族が若い娘の登場に惑わされるという、戦後らしい作品。黒澤脚本だが、それらしいところは無く、舞台が家を出ないのでホームドラマの小品といった感じ。
 第二話は成瀬巳喜男監督の「別れも愉し」。脚本は小国英雄。離婚歴のある年上の女(木暮美千代)が、男(沼崎勲)に若い恋人(竹久千恵子)ができたと知り、身を引こうとする。これも部屋を出ることなく、ほとんど男と女の会話のみで終始する。正直言って古臭いメロドラマで、成瀬作品として観ると、かなり出来の悪い方ではないだろうか。
 第三話は山本嘉次郎監督の「恋はやさし」。脚本は山崎謙太。ある劇団の下っぱ役者・金ちゃん(榎本健一)は、同じ劇団のナミちゃん(若山セツコ)が劇団を辞めて大阪へ行くと聞いて気が気ではない。だが、金ちゃんは劇に出番があって彼女を見送りに行くこともできず……。エノケンが劇中劇の『ボッカチオ』を演じていて、その歌はいかにも昔の日本の翻訳劇っぽいが、エノケンだけに巧みで面白い。
 第四話は衣笠貞之助監督の「恋のサーカス」。脚本は八住利雄。あるサーカス団で、空中ブランコの最中に富蔵(河野秋武)という男がわざと手を離して仲間を落とすという殺人事件が起こった。刑事や検事たちが立ち会っての実況検証の最中、そのサーカス団の女まり子(浜田百合子)を中心とした複雑な人間関係が浮かび上がってくる。これもサーカスのテントの中が舞台。昔のサーカス団の貧乏くさい雰囲気が出ている。全体に、出演者の演技がちょっと過剰気味に見えた。

 監督に豪華な顔ぶれを揃えたせいか、皆一つの部屋やセットを舞台とした会話中心の物語で、低予算作品という感じがした。また、全体に時代を感じさせられるストーリー。中では、エノケン出演の第三話が、彼の芸の片鱗をかいま見ることが出来て面白いと思った。(2000/02/16)

女優 じょゆう
監督 衣笠貞之助
公開年 1947年
評点[B]
感想  今日は、山田五十鈴主演の『女優』を観た。監督は衣笠貞之助で昭和二十二年(1959)の作品。

 日本で近代演劇を上演するため、芸術協会を設立した島村抱月(土方与志)。そこへ女優志願の松井須磨子(山田五十鈴)がやって来る。教養は無いものの魅力あふれる彼女に引かれる抱月。彼女との関係が問題になり独立して芸術座を旗揚げするが、奔放な須磨子を当時の人間は理解できない。

 同年に溝口健二監督の『女優須磨子の恋』が作られ、競作として話題となった。私は溝口ファンだが、この衣笠貞之助作品の方が、周囲との葛藤などを通して松井須磨子の姿をよく描き出されているように感じた。映像的にもこちらの方が工夫されている印象がある。純日本的な顔立ちの山田五十鈴が新劇女優を演ずるのは、ちょっとイメージが違うような気がしたが、さすがに上手いし若い頃の彼女は魅力的。
 ただし、『女優須磨子の恋』よりも島村抱月の死後の部分が長いので、ちょっと重くなった感じ。それと、島村抱月は『女優須磨子の恋』の山村聡の方が存在感があった。(2001/12/23)

地獄門 じごくもん
監督 衣笠貞之助
公開年 1953年
評点[B]
感想  今日、衣笠貞之助監督の『地獄門』を観た。昭和二十八年(1953)の作品。

 時は平治の乱の頃。合戦の中で助けた人妻の袈裟(京マチ子)に横恋慕した粗野な遠藤武者の盛遠(長谷川一夫)が、自分のものにならなければ夫(山形勲)や伯母を皆殺しにすると袈裟を脅すと、彼女はうなづいたが…。
 この作品はカンヌ国際映画祭のグランプリを獲ったが、ネット上で検索してみると意外と評価は高くない。私も以前から観たかったのだけれども、実際鑑賞するとその評価もうなづけた。ストーリーと、オチもちょっとね。衣笠貞之助作品を観るのは初めてだが、溝口健二なんかと比べるのはキツイかな。
 でも、衣装やセットは本当に超豪華なので観て損した気はしなかった。出演者も立ち居ふるまいが美しいし、今のNHK大河ドラマあたりよりはずっとレベルは高いから、名作とまでは行かなくとも記憶に残すべき作品か。(2000/05/19)

白鷺 しらさぎ
監督 衣笠貞之助
公開年 1958年
評点[A’]
感想  今日は、衣笠貞之助監督の『白鷺』を観た。昭和三十五年(1960)の作品。

 明治四十年代、ある老舗の料亭が破産し、そこの娘お篠(山本富士子)は、かつて料亭の女中だった女主人が経営する待合で働き出す。彼女はそこで、若き日本画家・稲木順一(川崎敬三)と知り合い、互いに惹かれあったが、お篠は芸者になり五坂の御前(佐野周二)に気に入られて……。

 原作は泉鏡花(脚本:衣笠貞之助・相良準)。映像が実に美しく、芸者姿の山本富士子も作り物のように綺麗。ストーリーは“新派大悲劇”といった感じで、描かれている女性像も今では古臭いかもしれないが、とにかく美しさに圧倒される。山本富士子が所作や微妙な表情で感情を表現しているのが良いが、これは女形出身の衣笠監督の演技指導のおかげかな? 助平な旦那に扮した佐野周二の極悪っぷりも見事。(2002/12/14)

歌行燈 うたあんどん
監督 衣笠貞之助
公開年 1960年
評点[A’]
感想  今日は、市川雷蔵・山本富士子主演の『歌行燈』を観た。監督は衣笠貞之助で、昭和三十五年(1960)の作品。

 明治三十年代、伊勢に招かれた観世流家元・恩地源三郎(柳永二郎)の嫡子・喜多八(市川雷蔵)は、彼らの陰口を言いふらした地元の謡曲の師匠・宗山(荒木忍)を若気の至りからさんざん辱め、思わぬ重大な結果を引き起こしてしまう。その後、喜多八は宗山の娘お袖(山本富士子)と意外な形で再会する。

 雷蔵・富士子コンビの泉鏡花原作作品の第一作だという(脚本:衣笠貞之助・相良準)。
 衣笠監督の美意識を感じさせる美しい作品。“総天然色映画”が売りになっていた時代の作品らしく色彩感を強調した絵作りで、少々誇張しすぎているように感じられるところもあったが、実に美しい。明治時代を再現したセットもリアルで、明治時代に対する監督の思い入れが感じられる。また、横長すぎるネマスコープサイズを上手くトリミングしたような構図も良い(撮影:渡辺公夫)。
 演技陣も、山本富士子が実に美しい。この作品のテーマも、芸の道の厳しさ、それと同時に全てを包み込む奥の深さをも見せてくれる。全体として充実した作品だと思う。(2002/12/13)

衣笠貞之助
掲示板 Return to監督別邦画備忘録Top pageHOME PAGE