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並木鏡太郎
南国太平記(南國太平記) なんごくたいへいき
監督 並木鏡太郎
公開年 1937年
評点[C]
感想  今日は、大河内傳次郎主演の『南国太平記』を観た。監督は並木鏡太郎で、昭和十二年(1937)の作品。

 幕末、薩摩の島津家は跡継ぎ問題で揺れていた。益満休之助(大河内傳次郎)ら若者は開明的な斉彬(大河内傳次郎・二役)を推し、対する保守派は主君の側室お由羅(五月潤子)の子・久光(沢村昌之助)を世子にしようと図っていた。益満たちは斉彬を調伏(ちょうぶく)しているという牧仲太郎(進藤英太郎)やお由羅を討とうとするが……。

 勤皇の志士・益満休之助が主人公の直木三十五の同題小説を原作とした作品(脚本:三村伸太郎)。大河内傳次郎の東宝入社第一作とのことで、二役を演じている。
 どうしても現代人の目で観ると調伏(呪術で人を呪い殺すこと)云々で真面目に騒いでいるのが奇妙に思えてしまうし、恋愛話などとの噛み合せが上手くいっていないように感じた。後半に益満が尊王倒幕運動に目覚めるのも唐突。むしろ、映画では最初からお家騒動ではなく尊王倒幕運動をメインに据えた方が良かったのではないだろうか。また、音声の状態が悪いので会話がよく聞き取れないのも不利な材料。
 益満の同志として黒川弥太郎、その妹として花井蘭子と桜町公子が出演。(2004/05/31)

山茶花街道(三味線侍) さざんかかいどう
監督 並木鏡太郎
公開年 1938年
評点[A’]
感想  今日は、並木鏡太郎監督の『山茶花街道(三味線侍)』を観た。昭和十三年(1938)の作品。

 江戸の大身の旗本の若様(黒川弥太郎)が、放蕩息子には旅をさせよということで用人(進藤英太郎)と小者の二人だけの従者と共に旅に出された。しかし、若様と用人たちははぐれてしまい、若様は食い逃げをやらかしたり旅芝居の一座の娘と知り合ったりする。

 脚本は“鏡二郎”名義で、おそらく監督のペンネーム。『三味線侍』は戦後の再映時の改題らしい。
 粗筋は世間知らずの若様が色々やらかすパターンの物語だが、黒川弥太郎の若様は気品を感じさせてなかなか合っているし、若様の行動は世間知らずではあっても類型的なバカ殿のようなものではなく嫌味がない。展開のテンポが良く、若様の叔父を演じた徳川夢声との掛け合いもベタなギャグではなく洒落たコメディという感じで楽しい、小品(現存版は50分弱)の佳作。玉井正夫の撮影も美しい。(2005/04/10)

長曽禰虎徹(長曾禰虎徹) ながそねこてつ
監督 並木鏡太郎
公開年 1938年
評点[A’]
感想  今日は、並木鏡太郎監督の『長曽禰虎徹』を観た。昭和十三年(1938)の作品

 大名の松平加賀守(大崎時一郎)は大の武具マニア。あるとき、名人が作った刀と兜(かぶと)はどちらが強いかと悩み、据え物斬りで雌雄を決することにした。兜師の長曽禰虎徹(丸山定夫)と刀鍛冶の陀羅尼善九郎勝久(高堂国典)との勝負は世間の好奇心を集め、虎徹の心は穏やかではなく……。

 「新刀なれども長曽禰虎徹」や「今宵の虎徹は血に飢えている……」の名台詞で有名な長曽禰虎徹の映画(原作:岡本綺堂 )。脚本は“鏡二郎”という名義だが、並木監督の筆名だろうか?
 溝口健二監督の『名刀美女丸』と同じく刀匠が主人公の作品なので、いわゆる芸道ものに分類される生真面目な作品だと思っていたが、いざ観てみると当の職人以外の連中は好奇心をあらわに勝負を煽ったり賭けをするなど、コメディ的な味や諷刺色もある一作になっている。
 66分ほどの上映時間の中にぎっしりエピソードが詰め込まれていてちょっとまとまりに欠け、また展開がちょっとお約束的なので意外性が欲しい気もするが、刀鍛冶という硬い題材から娯楽性を引き出すことには成功していると思う。原作は未読だが、脚本・演出の功績も大きいような気がする。
 途中、かなりの時間を割いて刀作りの工程が描写されていて興味深い(刀剣鍛錬指導:月山貞光/撮影:河崎喜久三)。頑固な職人という役作りのためだとは思うが、丸山定夫の演技は少々硬いような感じもした。(2004/12/29)

樋口一葉 ひぐちいちよう
監督 並木鏡太郎
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、山田五十鈴主演の『樋口一葉』を観た。監督は並木鏡太郎で、昭和十四年(1939)の作品。

 明治時代初期、樋口一葉(山田五十鈴)は文才を半井桃水(高田稔)に認められ作品を文芸誌に発表するまでになっていたが、周囲に彼との仲を噂され交際を絶ってしまう。生活に窮した一葉一家は吉原裏の長屋で荒物屋を開き、そこで下町の貧しい人々の生活を目の当たりにする。

 文字通り夭折の文人一葉の半生を描いた作品だが、彼女の伝記的事実に代表作の『たけくらべ』『十三夜』『大つごもり』の一部を組み合わせている。各作品のエピソードを小分けして組替えて各々を同時進行的に一葉自身が体験したように描いている。構成・展開に無理がない脚本は巧み(脚本:八住利雄)。
 面長で古風な顔立ちの山田五十鈴は、まさに一葉そのもの。細かい表情の演技が実に良い。桃水の高田稔も、一葉を受け止める懐の大きい男性という雰囲気を出していた。実際の半井桃水は、さほどの人間ではなかったようだが……。『たけくらべ』の美登利に相当する役として、まだ少女の高峰秀子も出演。花魁(おいらん)のなんたるかを知らぬ無邪気さが哀しい。
 明治時代の建物など風俗がリアルに再現されていて、それを捉える撮影が良い(撮影:伊藤武夫)。雨や雪の雰囲気が良く、日本式家屋のガラス障子が巧みに演出に用いられていた。終盤、一葉が桃水の家から出てきたあたりで大きな音量の音楽が流れてちょっとビックリしてしまった。少々大げさすぎる。
 上映時間が83分ほどで大作ではないが、丁寧な演出と巧みな脚本と演技とが揃っている佳作だった。個人的には今井正監督の『にごりえ』より好き。(2004/06/24)

並木鏡太郎
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