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小津安二郎

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淑女は何を忘れたか しゅくじょはなにをわすれたか
監督 小津安二郎
公開年 1937年
評点[A’]
感想
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
DVD-BOX
第三集

 今日は、小津安二郎監督の『淑女は何を忘れたか』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 麹町に住む大学医学部の教授“ドクトル”こと小宮(斎藤達雄)は妻の時子(栗島すみ子)の尻に敷かれていて、時子は同じく有閑マダムの千代子(飯田蝶子)・光子(吉川満子)らと好き勝手にふるまっていた。だがある日、大阪から小宮の姪・節子(桑野通子)が訪ねてきて、時子以上に奔放にふるまって時子を悩ませると、夫婦の関係に変化が生ずる。

 小津監督のトーキー第二作。よく指摘されているように、アメリカ映画の影響がうかがえるが、登場人物たちの軽妙な会話が楽しい佳作。特に、前半の有閑夫人たちが繰り広げる珍問答が素晴らしい。昭和十二年の作品ではあるが、日中戦争の前なので(この年の七月七日に盧溝橋事件勃発)、まだ暗い影は全く無い。
 この作品での会話シーンは、戦後のいわゆる小津スタイルが確立したあとの作品よりも自然に見える。野田高梧の参加した脚本に比べると台詞がブツ切れではなく繰り返しも少ないし、俳優があまり萎縮していないようだ。画面も、戦後作品の撮影監督となる厚田雄春が撮影監督の茂原英雄と並んで顔を出すが、まだ戦後作品ほどの厳格な構図ではなく、ナチュラルに見える。

 時子たちが劇場のロビーで煙草をプカプカ吹かしながら「あれ大船の上原じゃない?」と言うシーンで、まさに一瞬だけ上原健が登場する。たまたま小津組の撮影に顔を出して、即興で出演したのか?

 倦怠期になりかかった夫婦の間に姪が現れて波風を立てるという作品は、成瀬巳喜男監督の『めし』や川島雄三監督の『女であること』など、いくつかある。一つの類型化しているようだが、何か文学作品にでも元ネタがあるのだろうか。
 妻が勝手気ままにふるまっている夫婦が、夫が強く出ると妻の方がそれに圧倒される、というのは『お茶漬の味』をちょっと彷彿とさせる。あまり一般的とも思われないので、小津独特の夫婦観だろうか。(2002/04/03)

戸田家の兄妹 とだけのきょうだい
監督 小津安二郎
公開年 1941年
評点[A]
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
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第三集

 今日は、小津安二郎監督の『戸田家の兄妹』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 資産家の戸田進太郎(藤野秀夫)が急逝すると、とたんに家は傾き、邸宅や家財道具一切を手放すことになった。気ままに暮らしていた次男・昌二郎(佐分利信)は中国の天津に渡ることを決意する。未亡人(葛城文子)と嫁入り前の三女・節子(高峰三枝子)は既に独立している長男(斎藤達雄)や長女(吉川満子)・次女(坪内美子)のところに世話になろうとするが、うまくいかない。

 戦地から帰還した小津監督の、『淑女は何を忘れたか』(昭和十二年)以来の作品。松竹オールスターキャストで小津作品としては初めて大衆的にウケた一本だというが、内容の方は小津の人間を見る冷徹な視線が反映されており、シリアス。かなり厳しい作品と言っていいのではないだろうか。
 ものの本によるとアメリカ映画の古典『オーバー・ザ・ヒル』に影響を受けているというが、吉川満子の役柄や台詞は『東京物語』の杉村春子を彷彿とさせるものがあり、粗筋自体も『東京物語』を連想させる。まだ独特なリズムの会話やバストアップの切り返しなどはないが、テーマ的には戦後の小津作品に通ずるものを確立した作品と言える。
 また、昌二郎と安二郎のアナグラムも指摘されていて、兄嫁とうまくいかない母と同居していた小津監督自身の生活もかなり強く影を落としているのかもしれない。なにかと“大人”の小津監督は決して言動に表すことは無かったが、生涯独身だったことといい、相当こたえたのだろうか。(2003/05/10)

父ありき ちちありき
監督 小津安二郎
公開年 1942年
評点[超A]
感想
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
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第三集

 昨日、ひさしぶりにビデオを借りてきて、小津安二郎監督の『父ありき』を観た。ぐおー!いい映画観ちゃったなぁ…。平凡に、しかし誠実に生きようとする父親(笠智衆)と息子(佐野周二)。明治生まれの男の、なんと立派だったことよ…。
 こーゆーの嫌いな人もいるかもしれないけど、あたしゃこの父親とか『めぞん』の五代くん(笑)みたいなキャラには弱いっす。地味に、着実に生きる男たち…。彼らにも、めったに表に出そうとしないが、それなりの欲や不満もあって、それに耐えつつ生きているというのが、ただの“聖人”のようなキャラとは違うところ。
 しかし、この作品は保存状態が悪い!音が酷すぎますぅ〜。戦時中の作品なので、当時まだ品質の悪かった国産フィルムを使わざるを得なかったうえに、保存中にサウンドトラックにカビが生えていたとか…。
 ロシアで状態の良いプリントが見付かって、東京大学の研究室か何かが買うという話もあったけど、交渉が上手くいかなくて立ち消えになったそうな…。松竹、いや、国のフィルムセンターが買えばいいのに!(補注:東京国立近代美術館フィルムセンターが取得して、平成十二年度は日本には完全なオリジナルプリントが現存しない『父ありき』や内田吐夢の『土』など5作品が持ち帰られることになったそうだhere)(2000/04/07)

長屋紳士録 ながやしんしろく
監督 小津安二郎
公開年 1947年
評点[A]
感想
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
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第三集

 今日は、小津安二郎監督の『長屋紳士録』を観た。昭和二十二年(1947)年の作品。

 東京の下町の長屋に住む、辻占いの易者(笠智衆)が父親にはぐれた子供(青木放屁)を拾ってくる。生活に苦しい長屋の住人は互いに押しつけ合い、“かあやん”と呼ばれる、おたねおばさん(飯田蝶子)が面倒を見ることになってしまう。
 いやぁ、ええ話や。全体に小津流の淡々とした演出でベタベタしたところは無いのだが、しっかり胸に響いてくる。全然可愛くないガキや口では邪険なことを言う大人たちなどが独得のリアルさを生み出している。さすが小津だ。
 ドナルド・リチーが『小津安二郎の美学』(社会思想社 現代教養文庫1993年)でこの作品に与えた批判は誤解に基づくものだと思う。彼の記憶違いか、深読みのしすぎか、あるいは英語字幕のせいか。

 笠智衆の隠し芸の“のぞきからくり”の口上も最高。活字で読んで、どんなのかと思っていたが、ああいうのだったのか。(2000/10/14)

風の中の牝鷄(風の中の牝鶏) かぜのなかのめんどり
監督 小津安二郎
公開年 1948年
評点[C]
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
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第三集

 今日は、小津安二郎監督の『風の中の牝鷄』を観た。昭和二十三年(1948)の作品。

 人妻の雨宮時子(田中絹代)は、出征して未だ帰ってこない夫・雨宮修一(佐野周二)を息子とともにひたすら待ちつづけていた。家財を売りながらの苦しい生活の中、息子が急病で入院し医療費に窮した時子は、身体を売ってしまう。その直後、修一が帰ってきて……。

 小津監督の戦後第2作目。前作の『長屋紳士録』も戦後の社会情勢を背景にしたものだったが、『風の中の牝鷄』は、さらに社会派的な作品になっている。
 この作品は、時子はまだしも修一の行動や心情に共感できない。妻の行為に傷つくのは当然だとしても、あまりにも妻への態度が酷い。今で言うDV(ドメスティック・バイオレンスをやらかしてしまうし。有名な階段落ちも、ちょっとやりすぎではないだろうか。
 この作品が失敗作だと言われるのは、メッセージ性の強い作風が小津監督に向いていなかったことに加えて(戦前も社会派的な作品はあったがユーモアが交えられていた)、生涯独身を通した小津監督の夫婦観にも一因があるのかもしれない。『お茶漬の味』や『早春』の夫婦も、どこかヘンテコだし。(2002/03/09)

晩春 ばんしゅん
監督 小津安二郎
公開年 1949年
評点[A]
感想
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晩春
晩春
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小津安二郎 DVD-BOX 第二集
小津安二郎
DVD-BOX
第二集

 今日は小津安二郎監督の『晩春』を観たっす。父一人娘一人で、娘が婚期を逸しかけているのを心配する父親。例によって笠智衆&原節子の組み合わせ。

 昭和二十四年(1949)の作品だから、さすがに画質音質とも鑑賞に不都合ないレベルになっている。しかし、当時27歳で結婚してないと行き遅れ(イヤな言葉だが)扱いされたのかなぁ。それと、この年代にしては主人公たちはプチブルっぽい何不自由ない生活をしていたが、これは当時の観客に夢を見せるためなのだろうか。
 戦前の女性は十代で結婚するのが当たり前だったが、戦中戦後は多くの男性が出征・戦死したから婚期は相当遅くなったと思われるけど、昭和二十年代で27歳というのは…現在なら27歳でも適齢期中の適齢期だな(笑)。
 この27歳の女性も、生きているとすれば今年で78歳の立派な婆さんか!昭和は遠くなりにけり…。父親は56歳という設定だったから、今年107歳か。さすがにこれは日本でも数人しかいないような年齢だ…。
 それにしても、笠智衆が実年齢(まだ40代だった)よりも枯れた感じの人で本当に良かった。娘の結婚前、最後に2人で旅行して旅館の一つ部屋に泊まるシーンでは、原節子がむやみに色っぽいので、あぶらぎった雰囲気のおやじだったら大変なことになっていました(爆)。

 全体にイイ雰囲気の作品だ。ただし、私個人的にはもうちっとドラマがあっても良かったかも、とも思った。やっぱり長く感じたし。すぐ居眠りするタイプの人が観るときは、前日は早寝をしておくこと(笑)。(2000/04/10)

宗方姉妹 むなかたきょうだい
監督 小津安二郎
公開年 1950年
評点[C]
感想
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宗方姉妹
宗方姉妹

 今日は、小津安二郎監督の『宗方姉妹』を観た。昭和二十五年(1950)の作品。

 父・宗方忠親(笠智衆)を京都に残して娘の節子(田中絹代)は東京でバーを経営し、妹の満里子(高峰秀子)と共に暮らしている。節子の夫・三村亮助(山村聡)は失業中で夫婦仲は冷え切っており、かつて節子と交際していた田代宏(上原謙)が再び節子たちの前に現れたことも、満里子と三村の心をかき乱す。

 小津監督の戦後4本目の作品。小津作品には珍しい原作もの(原作:大仏次郎)。これは他社作品(新東宝)であることも影響しているのか、のちの『東京暮色』を彷彿とさせるシリアスで暗い雰囲気の作品になっている。
 節子と満里子の行動原理が今ひとつ掴めず、特に三村が非常に暗いキャラクターで何を考えているのか理解できない。これらは原作のためかもしれないが、満里子がたびたび舌を出したり徳川夢声の真似のような口調で話す演出は正直言って寒かった。満里子のその他の言動も共感できないように見えてしまうので、今ひとつ高峰秀子を活かせていないように思える。
 小津監督は前年の『晩春』で“小津スタイル”を確立したといわれているが、まだ試行錯誤の段階でもあったのだろうか。また、『風の中の牝鶏』や『東京暮色』で観られるように、暗い雰囲気の作品では小津監督の人間に対するクールな視線が生で出すぎるようだ。(2003/10/19)

麦秋 ばくしゅう
監督 小津安二郎
公開年 1951年
評点[A]
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麦秋
麦秋
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小津安二郎 DVD-BOX 第二集
小津安二郎
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第二集

 今日は、小津安二郎監督の『麦秋』を観たです。昭和二十六年(1951)の作品。

 先週は一本も映画を観てなかったので「こりゃ遺憾!」(←マイブーム?)と思った…というわけでもないのだけれども、映画感想は間が空いた。
 この映画は、確かに高橋治が言うように『東京物語』(1953)のプロトタイプ的な作品だ。『晩春』(1949)に比べると家族構成が複雑になっていて、それぞれのキャラクターの性格づけが面白い。単に娘(原節子)が家族に相談せず勝手に結婚相手を決めてしまったことだけが風波を起こすのではなく、高橋治の言うように高給取りだった娘が結婚して家族全体の収入が減る問題をからませたのが深いと思う。
 この作品では笠智衆は老け役でない年相応のキャラを演じていて、見かけによらずすぐカッとなるのが面白かった。その他の役者も、みんな上手いっすね。やはり杉村春子がピカイチ。原節子は決して大根ではないけれども、どちらかと言えば役に入るのではなく自分の個性で魅せるタイプの役者かな。

 私はどっちかといえば小津よりも溝口健二だが、『麦秋』や『東京物語』の緻密な完成度は認めざるを得ないっす。でもやはり、小津作品は上映時間が長く感じちゃうんだよなぁ。
それと、私が借りたビデオテープの状態が悪かった。伸びてたんぢゃないかな。何本もあったのに悪いのを選んでしまうなんて、なんて間の悪いヤツなんだろう(爆)。(2000/06/07)

お茶漬の味 おちゃづけのあじ
監督 小津安二郎
公開年 1952年
評点[B]
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お茶漬の味
お茶漬の味
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小津安二郎 DVD-BOX 第二集
小津安二郎
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第二集

 今日は、小津安二郎監督の『お茶漬の味』を観た。昭和二十七年(1952)の作品。

 庶民階級出身の男(佐分利信)と資産家のお嬢様(木暮実千代)の夫婦間の、すれ違いと和解の物語。私は未見だが、戦前の『淑女は何を忘れたか』の流れに連なる作品かな。夫婦ものとしては『早春』もこのカテゴリに入るか。
 この作品の初稿は戦前に書かれていたが検閲に引っかかり、戦後になって大幅に改稿して製作された。よく指摘されているように登場人物が、夫の出征を控えた若夫婦から、倦怠期の中年夫婦になってしまったので、ちょっと妻の嫌味なところが鼻につくかな。最後に救いはあるにしても。最後、一見ダラダラした描写のようだったが、それが徐々に効果的に見えてきた。それが職人技だろうか。でも少々長いけど(笑)。
 鶴田浩二が出演している。当時二枚目としてトップクラスの人気だった彼も、ロケに遅刻した際、さすがに“巨匠”の小津には怒鳴られて、あとで口惜しがったとか。笠智衆は、のちの作品からすると意外な役。(2000/10/08)

東京物語 とうきょうものがたり
監督 小津安二郎
公開年 1953年
評点[超A]
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東京物語
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小津安二郎 DVD-BOX 第一集
小津安二郎
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第一集

 小津安二郎監督の『東京物語』は昭和二十八年(1953)の作品。小津ワールドの金字塔。

 尾道に住む平山周吉(笠智衆)・とみ(東山千栄子)の老夫婦は、東京に住む子供たちに会いに行く。物見遊山の旅のようだが、老夫婦には「今のうちに会っておかんと」という切実な思いがある。しかし、それは子供たちには伝わらない。当初歓待してくれたものの、既に中年を過ぎて家庭を持つ子供たちには彼らの世界があって、老夫婦は決してその中へ入れないことに気づくのであった。
 子供たちは老夫婦の気持ちを思いやることなく、老人たちもそれを受け入れる。新たな命を産み育て次代へ伝えていくという生物の本能なのか。仕方が無いのだろうか。そんな中で唯一の安らぎは、戦死した次男の嫁(原節子)だった。

 小津作品の中でも特に完璧な構成のこの作品。“伏線”などというワザとらしいものではなく、登場人物の全ての行動・台詞が、あとのシーンに繋がっていく。小津と野田高梧の脚本と、小津による絵作り、全てが完璧。溝口ファンの私も、この作品の完成度は認めざるを得ない。

 もし、数時間と数百円の余裕があるならば、レンタルビデオ屋に足を運んで全ての人に観てほしい。そして、記号化されたものではない本物の感動を味わってほしい。これぞ映画、これぞ邦画。昔の日本映画って本当に凄かったんスよ。
 ヴィム・ヴェンダースが言うように、人はこの中に自分の家族の誰かと将来の自分自身の姿を見いだす。絶対観て!(2000/09/16)

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