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島津保次郎

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隣の八重ちゃん となりのやえちゃん
監督 島津保次郎
公開年 1934年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『隣の八重ちゃん』を観た。昭和九年(1934)の作品。

 女学生の服部八重子(逢初夢子)は、父と母(飯田蝶子)と郊外の家で三人暮らし。お隣の新海家とは家族ぐるみの付き合いをしていて、特に帝大生の長男・恵太郎(大日向傳)と仲が良かった。ある日、姉の京子(岡田嘉子)が嫁ぎ先から帰ってきて、恵太郎に興味を示すので、八重子は気が気でなく……。

 島津監督の代表作とされる作品。原作・脚色も島津保次郎となっている。また、助監督の中に豊田四郎・吉村公三郎、撮影助手の中に木下恵介が名を連ねていて、結果として超豪華スタッフの作品となっている。
 近所付き合いも本当に家族同様で、お隣で酒を飲んだり平気で上がりこんで食事させてもらったりするのは、今ではちょっと考えられない。もちろん、理想化された世界が描かれているのだとは思うが、当時は全く無いことでもなかったのだろう。
 松竹蒲田調の小市民映画と言われているが、実に自然な演技と演出で作り物くささがほとんど無いのにはちょっと驚いた。大日向傳も逢初夢子も、“熱演”とは異なる種類の上手さがある。島津監督の作品は初めてだけど、島津作品は皆こういう演出と作風なのだろうか。(2002/04/15)

春琴抄 お琴と佐助 しゅんきんしょうおこととさすけ
監督 島津保次郎
公開年 1935年
評点[B]
感想  今日は、島津保次郎監督の『春琴抄 お琴と佐助』を観た。昭和十年(1935)の作品。

 明治初期。大阪の薬種問屋の次女・春琴(田中絹代)は盲目だが琴・三味線の芸道に打ち込み、それで身を立てるほどになっていた。気位が高く気難しい彼女は丁稚の佐助(高田浩吉)しかそばに近づけない。そんな彼女の美貌に惹かれ、大店の若旦那(斎藤達雄)がしきりに接近してくる。

 何度も映画化されている谷崎潤一郎の原作の初映画化(脚本:島津保次郎)。助監督の中に豊田四郎と吉村公三郎、撮影助手の中に木下恵介の名があり、今の目で見ると非常に豪華なスタッフによる作品になっている(当時は三人も名監督になるとは誰も予想できなかったと思うが)。
 全5本の『春琴抄』ものの中で私が観たのはこれでまだ三本目だが、今までのところこれが最も明治時代らしい作品だと思う。一番古い作品だけあって全体から明治的な雰囲気が漂ってきて、それがなんともいい感じ。
 若い高田浩吉は細くて顔も小さいのでちょっと驚いたが、上方出身だけあって自然な関西弁と丁稚らしいおどおどした様子をよく演じていた。対する田中絹代もまだ若くて可憐だが、近寄りがたい美人というのとはちと違うかも……という感じ。決して悪くはないのだけれども。
 全体の雰囲気や、春琴の両親と佐助の父といった古風なキャラクターはおそらく『春琴抄』ものの中では最も明治時代の香りがあると思うが、製作された時代の制約のためか谷崎作品らしい妖しい雰囲気は乏しい。もう少し春琴と佐助の微妙な関係を突っ込んで描いて欲しかった(戦後の伊藤大輔監督の『春琴物語』はあからさまに描きすぎだったけど)。
 ただし、トーキー初期であるのに琴・三味線の音や小鳥の鳴声を自然に使い、映像も完全にトーキー映画の文法にのっとっている島津監督の手腕はさすがだとも思ったが。
 身長180cmを超える斎藤達雄が着流しの和服で若旦那役を演ずるのが面白かった。若旦那の腰ぎんちゃくである手代を坂本武が演じていて、彼の中年おやじではない若者の役は初めて観た。(2005/11/13)

家族会議(家族會議) かぞくかいぎ
監督 島津保次郎
公開年 1936年
評点[C]
感想  今日は、島津保次郎監督の『家族会議』を観た。昭和十一年(1936)の作品。

 兜町の株屋・重住高之(佐分利信)は大阪に住む仁礼泰子(及川道子)と好き合っていたが、高之の父が泰子の父のために破産して自殺した経緯があるので、二人の友人の池島忍(高杉早苗)がハッパをかけても一歩を踏み出せなかった。そんな折、再び泰子の父が番頭の京極練太郎(高田浩吉)に命じて仕手戦を仕掛けてくる。

 横光利一の原作の映画化(脚本:池田忠雄)。題名はファミリードラマのようだが、実際はドラマティックなメロドラマ。
 まず、高之が妙に消極的な男性に見え、なぜあんなに女性たちに好かれるのがよくわからないし、対して泰子以外の女性キャラの行動は非常に積極的でビックリする。特に、高之に恋する梶原清子(桑野通子)というキャラの行動には唖然。さらに大げさ過ぎる音楽で驚かされる。
 現存しているのはかなり切り刻まれた短縮版らしいので(オープニングのキャスト紹介に名があっても姿を現わさなかった俳優が何人もいる)、キャラの心理がよく見えずエキセントリックに感じられてしまうのは仕方ないようだが。ただし、それでもアップの多用やモンタージュ(?)など島津監督にしては大げさな演出が目立つ。洋画の影響を受けたのだろうか。蒲田から移転した松竹大船撮影所の第一作だそうなので、多少の力みがあったのかもしれない。
 ちょっと心境のわかりづらい登場人物たちの中でも、忍と練太郎二人の大阪人は比較的わかりやすく、好感を持てた。特に忍は自動車を運転したりゴルフをしたり、さらには今の目で見るとヘンテコな派手なドレスを着たり、当世風の金持ちのお嬢様風に派手に振舞ってみせるキャラを生き生きと演じている。(2005/05/02)

男性対女性 だんせいたいじょせい
監督 島津保次郎
公開年 1936年
評点[B]
感想  今日は、島津保次郎監督の『男性対女性』を観た。昭和十一年(1936)の作品。

 実業家・渥美恭平(藤野秀夫)の次男・哲也(上原謙)はフランスで演劇を学び、劇場のレビューの演出を任されて好評を得るが、予算のことで劇場経営者の藤村(水島亮太郎)と対立する。哲也の兄・行雄(佐分利信)は人類学者で堅物だが、藤村の娘・時子(田中絹代)と仲が良い。しかし、藤村は登紀子を政略結婚させようとして……。

 上映時間が2時間10分を超える、当時としては大作映画。吉川満子や桑野通子も出演して、松竹大船のスターが数多く顔を出している。レビューの舞台にかなり時間を割かれていて、戦前の舞台芸術のレベルが低くはなかったことがわかる。序盤で上原謙が上海に立ち寄るシーンは合成がバレバレだが、異国情緒を見せるためのサービスだったのだろうか。
 渥美家の会社の経営危機や行雄と時子の恋愛、時子の弟(磯野秋雄)と女中(大塚君代)の話など、複数のエピソードを同時進行させて破綻なく進行させている脚本と演出は巧み。ただ、全体にテンポが遅く、レビューシーンの量もあまり興味のない人間にとっては少々多いように感じられ、映画全体が実際の上映時間よりもちょっと長めに感じた。現在では、当時の最新流行・風俗を見ることのできる資料的価値もあるかも。(2003/05/31))

婚約三羽烏 こんやくさんばがらす
監督 島津保次郎
公開年 1937年
評点[B]
感想  今日は、島津保次郎監督の『婚約三羽烏』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 長らく失業していた加村週二(佐野周二)は、やっと繊維会社のサービス・ステーション(今で言うショールーム)の従業員として採用され、一緒に採用されたバンカラ風の三木信(佐分利信)と優男の谷山健(上原謙)と友人になる。加村には同棲していたカフェーの女(三宅邦子)、三木と谷山には婚約者がいるにもかかわらず、社長の美しい令嬢・玲子(高峰三枝子)に夢中になってしまう。

 “松竹三羽烏”と高峰三枝子が顔を合わせた超豪華キャストの作品。この4人のスケジュールを合わせるのは至難の技だったそうで、尺の長さは1時間5分ほどの小品。内容も他愛ないラブコメだが、テンポ良い展開と、くどくないアッサリとした喜劇的な演出で、そこそこ楽しめる娯楽作にはなっていると思う。(2002/11/21)

浅草の灯(淺草の灯) あさくさのひ
監督 島津保次郎
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『浅草の灯』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 時は大正、浅草オペラの華やかなりし頃。可憐なコーラスガール麗子(高峰三枝子)は、世話になっている夫婦や師匠から、浅草の実力者の妾になるよう強いられていた。ペラゴロ(オペラ+ゴロツキ=浅草オペラマニアの意)のボカ長(夏川大二郎)や劇団の二枚目・山上七郎(上原謙)ら仲間たちは彼女を救おうとする。

 関東大震災で大打撃を受けるまで隆盛していた浅草オペラを舞台とした作品(原作:浜本浩/脚本:池田忠雄)。
 高峰三枝子は美人タイプなので少女と呼ぶにはどうしても大人っぽいが、その他ちょっとやくざっぽい二枚目の上原謙・のんきなオペラファンの夏川大二郎・山上を密かに慕う射的場の女を演じた吉川満子など個性豊かでユニークなキャラクターが揃い、俳優たちも巧みに演じている。笠智衆がインテリ風の演劇青年を演じているのが印象的。しかし中でも、弟子の麗子にきつく当たるプリマ女優を演じた杉村春子の迫力が凄い。昭和十二年ではまだ28歳かそこらなのに……この頃からこういう役をやっていたんだ(笑)。
 主人公の境遇やラストの決着のつけ方はちょっと古典的だけれども、堅気の世界からはみ出した極道者だが仲間のためには一肌脱ごうという演劇人たちの心意気が主題で、観ていて気持ちの良い作品だった。
 古き良き時代の浅草がよく再現されていて(撮影:生方敏夫 /美術考証:金須孝・浜田辰雄)、エノケン(榎本健一)や清水金一・左卜全など後の映画界の人材を産んだ浅草オペラの世界の雰囲気を知ることができて大変興味深かった。

 残念なのは音声状態が悪いのと、現存版は公開当時のプリントよりかなり短くなってしまっていること。欠落はあまり気にはならないが、ちょっと急に展開するような感じのところがある。(2005/02/12)

兄とその妹 あにとそのいもうと
監督 島津保次郎
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『兄とその妹』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 会社員の間宮敬介(佐分利信)は妻あき子(三宅邦子)と妹の文子(桑野通子)と三人暮らし。夫婦仲むつまじく、妻と妹の仲も良い。平和な家庭生活と、間宮の会社で起こった事件。

 島津保次郎監督の代表作の一つで、島津監督のオリジナル脚本。松竹伝統のホームドラマ作品である。
 家庭と会社での会話のシーンが多いが、会話の一つ一つが出演者の細かな演技でいかにもありそうなリアル感を持っている。監督の演出と松竹俳優陣の上手さだろう。間宮の足を引っ張ろうとする同僚の一人を演じた河村黎吉のセコさや間宮を慕う同僚を演じた小林十九二の頼りなさは、いかにもサラリーマン的な雰囲気を出していて、別にギャグがあるわけではないのに笑いを滲み出させている。
 今で言うキャリアウーマン(英語を理解できるステノグラファー〔英文速記者〕)を演じた桑野通子と専業主婦の三宅邦子はハマリ役で、三宅邦子が間宮や文子を見つめながら何か物思うような無言の演技が特に良かった。佐分利信も、ちょっと鈍いところのある硬派の男はもちろんハマっている。
 内容とは関係ないけど、文子が自宅に友人を招いて誕生日会を催した場面で皆が「♪国を出てから幾月ぞ」の 『愛馬進軍歌』を歌ったのにはちょっと驚いた。誕生パーティーで歌うには不自然で。検閲対策で入れたのだろうか。(2004/11/5)

嫁ぐ日まで とつぐひまで
監督 島津保次郎
公開年 1940年
評点[B]
感想  今日は、島津保次郎監督の『嫁ぐ日まで』を観た。昭和十五年(1940)の作品。

 好子(原節子)と浅子(矢口陽子)の姉妹は母を失い、父(汐見洋)と三人暮らしをしていた。好子が婚期を迎えていることもあって、父が後添え(沢村貞子)をもらうことになったが、特に浅子は複雑な気分であった。

 島津監督のオリジナル脚本の作品。東宝に移って2作目だが、松竹時代を思わせるホームドラマ。
 ストーリーはシンプルでドラマ性は薄く、至極あっさりした印象の作品になっている。ただし、家庭の雰囲気や各出演者の演技は実に自然で、いかにもありそうな家庭を描き出すことには成功していると思う。
 個人的に目に付いたのは、原節子の役がのちの小津作品で演じた役の設定を彷彿とさせること。小津監督は、この作品を観たことがあるのだろうか。もう一つ、終盤に父親が浅子を叱る場面でBGMとしてジャズ(?)が流れ、いわゆる対位法的な音楽の使われ方がされていること。成瀬巳喜男監督の『妻よ薔薇のやうに』でも登場人物の一人が歌う『いなかの四季』が対位法的な効果になっていたし、一般に戦後の『酔いどれ天使』が先駆者とされている対位法的な音楽の使い方は、戦前にさかのぼるのではないだろうか。(2005/08/17)

二人の世界 ふたりのせかい
監督 島津保次郎
公開年 1940年
評点[A]
感想  今日は、島津保次郎監督の『二人の世界』を観た。昭和十五年(1940)の作品。

 工作機械を製造している関東精機の技術部部長・戸塚(丸山定夫)は、研究費の増額を要求する部下の技術者たちと経費削減を求める重役陣の板ばさみになって苦悩していた。戸塚の娘さち子(原節子)は、研究費増額を求める技術者の急先鋒である家村(藤田進)に反感を抱く。

 島津作品への原節子の出演3本目の作品だという。この次の『兄の花嫁』同様、原節子はスーツ姿のモダンな女性を演じている。
 冒頭に、工作機械は軍需機材生産のために重要である云々の字幕が出るが、内容は戦時下とか国策映画といった臭いは皆無で、会社の人間関係・戸塚と家村の家庭・さち子と家村の関係の三要素が巧みに描かれた、サラリーマン映画にしてホームドラマであり、しかも恋愛の要素も加わった作品になっている。脚本(山形雄策・塚本靖)も良いと思うが、島津監督の演出手腕は見事というほかない。
 出演者の演技も伸び伸びしていて、一人で小柄な体躯に苦悩を背負う丸山定夫には同情を禁じえない。この作品では、登場人物の視線が重要な要素になっていて、のちの成瀬巳喜男作品を彷彿とさせるものを感じた。
 作品中に描かれる戦前社会の風俗も興味深く、ちょっとソフトな映像(撮影:鈴木博)で描かれる銀座の街並みやラジオ付きの電蓄(レコードプレーヤー)や応接セットのある家庭など、非常にモダンに感じる。戸塚家は大企業の部長で上流階級と言ってもいいクラスであることを考えなければならないだろうが。さち子の髪にはパーマがかけられているので、昭和十五年の段階ではまだ女性の服装・髪型に制限がなかったことがわかる。

 冒頭の字幕は単なるエクスキューズで完全に島津監督が描きたいものを撮った映画で、検閲担当者も完成度が高いので見逃してしまったのかな?(笑)(2005/02/10)

兄の花嫁 あにのはなよめ
監督 島津保次郎
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『兄の花嫁』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 モダンなキャリアウーマン原田昌子(原節子)の兄・浩(高田稔)が見合い結婚した。妻・春枝(山田五十鈴)の実家が格式にうるさい旧家であることを見た昌子は、浩を心配して二人の新婚生活を観察する。

 松竹時代以来の島津監督らしい夫婦生活を描いたホームドラマ。登場人物たちの何気ない会話の端々に洒落たユーモアを感じさせる味があり、観ていて思わず微笑してしまう(原案:島津保次郎/脚本:山形雄策)。春枝の実家の人々も多少は類型化しているが、過度に戯画化していないのが良い。
 原節子を始めとする登場人物たちの演技も、しっかりと小市民の演技をしながら大変自然。何か一つ突出したものがあるというわけではなく、全体にバランスがとれた佳作。原節子も高田稔も昌子の叔母役の清川玉枝も皆良いが、あまり登場シーンの多くない江川宇礼雄も印象に残る。
 押し付けがましさが全くなく派手な展開もないのに惹きつけられるものがある佳作。(2005/02/06)

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