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豊田四郎
泣蟲小僧(泣虫小僧) なきむしこぞう
監督 豊田四郎
公開年 1938年
評点[A]
感想  今日は、豊田四郎監督の『泣蟲小僧』を観た。昭和十三年(1938)の作品。

 11歳の啓吉(林文雄)は父と死別し母親(栗島すみ子)と妹(若葉喜代子)と暮らしていたが、母親の愛人になつかないため、母親の妹である叔母たち(逢初夢子・梅園竜子・市川春代)のところをたらいまわしされてしまう。叔母の夫の一人(藤井貢)が親切にしてくれたりするものの、どこにも安住の地はなく……。

 林芙美子原作の映画化(脚本:八田尚之)。サイレント時代の大女優・栗島すみ子が“特別出演”しているが、主役は子供である。
 実に主人公・啓吉がかわいそうな映画だが、母親でありながら女を捨てきれない母親と預けられる子供を不憫に思いながらも貧しさゆえに邪険にせざるを得ない親類たちが、一面的でなく綿密に描写されている。
 主役の林文雄の演技は実に見事。子供らしくない暗い感じのキャラクターで難役だと思うが、顔の表情で内面をよく表現していた。監督の演出のためでもあるだろうが。映像の作り方も孤独感を強調していて効果的だと思う(撮影:小倉金弥)。
 また、叔母たちや叔父そして尺八吹きのおじさん(山口勇)や出版社にたむろする作家たちに至るまで各々個性豊かなキャラクターになっている。特に、啓吉と尺八吹きのおじさんとのやりとりは、誰の心にも残るだろう。
 子供を主役とした映画の傑作の一本だと思う。(2004/06/10)

鶯(鴬) うぐいす
監督 豊田四郎
公開年 1938年
評点[A’]
感想  今日は、豊田四郎監督の『鶯』を観た。昭和十三年(1938)の作品。

 駅に急行も止まらぬ小さな町の警察署。一見すると平和なようで、そこには生き別れた娘を探す老婆(藤間房子)や母(清川虹子)の金を盗んだ娘(霧立のぼる)や鶏泥棒(藤輪欣司)や無免許の産婆(杉村春子)や鶯売り(堤真佐子)など様々な人々が集い、署長(勝見庸太郎)以下の警察官たちの仕事は充分にあった。

 豊田四郎の東京発声(J.O.)時代の代表作の一つ(原作:伊藤永之助/脚本:八田尚之)。
 グランド・ホテル形式というのか一箇所に集う人々の群像劇で、私は未見だが『警察日記』など戦後の警察署ものの元祖的作品になるのだろうか。一貫したストーリーはなく、多くのエピソードを順番に描いていく形だが、常に東北らしいしゃべり方の台詞が一つのリズムとなって、のどかな良い雰囲気を作っている。
 各エピソードもユーモアを感じさせる一方で、戦前の東北の農村の生活の厳しさをかすかにうかがわせるところもある。最後の締めのエピソードも、見事に幕引きしてくれて好ましい印象を残す。
 冒頭にフィルムセンター所蔵プリントという表示が出るが、状態は意外に良好。フィルムの傷や欠落はほとんどなく、解像度はあまり高くないもののコントラストのハッキリした画面。戦前の映画を同時代に観るとこういう感じだったのかな、という気がする。(2005/10/19)

小島の春 こじまのはる
監督 豊田四郎
公開年 1940年
評点[A’]
感想  今日は、豊田四郎監督の『小島の春』を観た。昭和十五年(1940)の作品。

 ハンセン病療養所・長島愛生園の医官である小山正子(夏川静江〔静枝〕)は、ハンセン病の検診と患者に療養所への入院を勧めるため、瀬戸内の小島を訪れていた。病気に対する島民の偏見は強く、世間の目を忍んで生きる横川(菅井一郎)ら患者たちも入院を拒む者が多かったが、小山は彼らを諄々と諭して治療を受けさせようとするのであった。

 ハンセン病(当時の呼称は癩〔らい〕病)対策に生涯を捧げた(激務によって昭和十四年に結核になり十八年に死去)小山正子による同名原作の映画化(脚本:八木保太郎)。
 美しい瀬戸内の海と山を背景として、若い女医が患者たちのもとを訪ね歩く様子が全体として淡々とした客観的な画面で描かれるのだが、所々で主人公ほかの登場人物そして観ている側の感情が高揚してくると、それを反映した描写が挿入される。
 患者たちやその家族はもちろん、隔離を進める側の医師の小山正子も村長(勝見庸太郎)も巡査(小森敏)も全て心やさしく、ステロタイプ的な体制側の人間は存在しない。なんというか、昔の日本人は皆ナイーブだったのだなぁ、なんて思ったりした。
 全体に理想化されているかもしれないし、少々感傷的ではあるが、哀しみを帯びた美しさを持つ作品という印象を抱いた。
 主人公はハンセン病が遺伝病であるという偏見を解こうとしているし、患者を家族のもとから引き離すことに忸怩たる思いを抱いていることは充分に表現されている。
 しかしながら、療養所に収容された患者たちが家族と再会することは恐らくなかったわけで、今の目で観てしまうと、人間の善意もまた人を不幸にすることがあるという事実も感じずにはいられない。

 ただし、隔離政策推進の作品ということで現在での評価は急降下してしまっているが、この作品の描写の限りでは、小山正子がおこなったことはハンセン病への偏見を解き未治療の患者を隔離し治療を受けさせようとしたことであり、伝染病の恐怖をあおってしまっている面もあるものの、当時の日本の医学界での常識を背景にした作品として、現在の視点から断罪して全く無価値な映画とするのは正当ではないと思う。(2005/12/07)

四つの恋の物語 よっつのこいのものがたり
監督 豊田四郎・成瀬巳喜男・山本嘉次郎・衣笠貞之助
公開年 1947年
評点[C]
感想  今日は、『四つの恋の物語』を観た。四人の監督によるオムニバスで、昭和二十二年(1947)の作品。

 第一話は豊田四郎監督の「初恋」。脚本は黒澤明。父(志村喬)と母(杉村春子)と三人暮らしの高校生・正雄(池部良)の家に、父の知り合いの娘・由紀子(久我美子)が預けられてくる。彼女によって正雄の生活はすっかり変わり、母親はそれを心配する。まだ蛮カラを気取る気風の残っていた高校生とその家族が若い娘の登場に惑わされるという、戦後らしい作品。黒澤脚本だが、それらしいところは無く、舞台が家を出ないのでホームドラマの小品といった感じ。
 第二話は成瀬巳喜男監督の「別れも愉し」。脚本は小国英雄。離婚歴のある年上の女(木暮美千代)が、男(沼崎勲)に若い恋人(竹久千恵子)ができたと知り、身を引こうとする。これも部屋を出ることなく、ほとんど男と女の会話のみで終始する。正直言って古臭いメロドラマで、成瀬作品として観ると、かなり出来の悪い方ではないだろうか。
 第三話は山本嘉次郎監督の「恋はやさし」。脚本は山崎謙太。ある劇団の下っぱ役者・金ちゃん(榎本健一)は、同じ劇団のナミちゃん(若山セツコ)が劇団を辞めて大阪へ行くと聞いて気が気ではない。だが、金ちゃんは劇に出番があって彼女を見送りに行くこともできず……。エノケンが劇中劇の『ボッカチオ』を演じていて、その歌はいかにも昔の日本の翻訳劇っぽいが、エノケンだけに巧みで面白い。
 第四話は衣笠貞之助監督の「恋のサーカス」。脚本は八住利雄。あるサーカス団で、空中ブランコの最中に富蔵(河野秋武)という男がわざと手を離して仲間を落とすという殺人事件が起こった。刑事や検事たちが立ち会っての実況検証の最中、そのサーカス団の女まり子(浜田百合子)を中心とした複雑な人間関係が浮かび上がってくる。これもサーカスのテントの中が舞台。昔のサーカス団の貧乏くさい雰囲気が出ている。全体に、出演者の演技がちょっと過剰気味に見えた。

 監督に豪華な顔ぶれを揃えたせいか、皆一つの部屋やセットを舞台とした会話中心の物語で、低予算作品という感じがした。また、全体に時代を感じさせられるストーリー。中では、エノケン出演の第三話が、彼の芸の片鱗をかいま見ることが出来て面白いと思った。(2000/02/16)

豊田四郎
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