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山本嘉次郎

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エノケンの近藤勇 えのけんのこんどういさみ
監督 山本嘉次郎
公開年 1935年
評点[A’]
感想  今日は、エノケン主演の『エノケンの近藤勇』を観た。監督は山本嘉次郎で、昭和十年(1935)の作品。

 時は幕末。京では近藤勇(榎本健一)率いる新選組が猛威を振るっていたが、一方では坂本龍馬(榎本健一、二役)と中岡慎太郎(柳田貞一)や桂小五郎(二村定二)らの勤皇の志士も王政復古へ向けて活躍していた。

 エノケンがP.C.L.(のち東宝)で撮った一連の喜劇作品の中でも初期のもの。幕末ものだが、もちろんコメディで、様々なパロディや音楽が散りばめられている。
 坂本龍馬の最期は阪妻主演の『坂本龍馬』のパロディだろうか。近藤勇が「桂を斬れ!」「勤皇党を葬れ!」と演説するシーンではプロパガンダ絵画風のポスターが掲げられる。これは戦前の左翼弾圧を諷刺しているように思えたのだが、どうだろうか。映画界や演劇界は“主義者”の逃避の場であったので、その可能性はあると思う。そうだとしたら、山本監督は良い度胸をしているし、昭和十年の段階ではまだこんな表現が許されていたということになる。
 コメディ作品としても、小男のエノケン近藤勇が、あるアイテムを“装備”することによって強くなるという設定は面白いし、音楽の使い方も巧み。『ボレロ』が流れたり、池田屋事件のシーンではラテン音楽が流れ、それに合わせてエノケンが踊るような見事な殺陣を見せる。コメディ仕立てだが、斬られた人が階段落ちしまくって非常に大規模な殺陣。

 それと、特筆しておきたいのは戦前作とは思えないほどの音質・画質の良さ。トーキー初期なのに全く聞き取りづらくないし、画質も戦後作品以上にシャープでピントが合っている(撮影:唐沢弘光 )。欠落も無いようだし、よほど保存状態が良かったのだろう。(2004/10/25)

エノケンのちゃっきり金太 えのけんのちゃっきりきんた
監督 山本嘉次郎
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、エノケン主演の『エノケンのちゃっきり金太』を観た。監督は山本嘉次郎で、昭和十二年(1937)の作品。

 明治維新前夜の江戸。巾着切り(=ちゃっきり)の金太(榎本健一)は彼を追いかける岡っ引の倉吉(中村是好)の目を盗んで薩長の侍ばかり狙ってスリをしていたが、財布と一緒に密書まで盗んでしまい、薩摩の侍・小原(如月寛太)に命を狙われて逃げ回る。

 原作・脚本ともに山本嘉次郎。アメリカ映画の『地下鉄サム』からヒントを得たと言われている。歌やアクションにはエノケンの持ち味が生かされているのだろう。切れ味とテンポが良く楽しい作品。中村是好との息も合っている。
 逃げ回る金太と倉吉がなぜか一緒に旅をするのでロードムービーの趣があり、旅館の中を走り回るアクションも面白い。
 現在残っているのは各々1時間強の前後編を合わせて1時間13分ほどにした総集編なので、所々話がちょっと飛ぶようなところがあるのが惜しい。ただし、そんな総集編だからこそ余計にテンポが良く見えるのかもしれないが……。(2004/10/11)

美しき鷹 うつくしきたか
監督 山本嘉次郎
公開年 1937年
評点[C]
感想  今日は、山本嘉次郎監督の『美しき鷹』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 親を亡くし、華族である親戚の池野家で育てられている安宅弓子(霧立のぼる)は、自由奔放な性格で学校や家庭でトラブルを起こしてばかりいる。池野家の娘・雅子(神田千鶴子)の婚約者であるピアニストの真庭英二(北澤彪)と屈託無く会ったつもりが、雅子と真庭との間に亀裂を生じさせてしまい……。

 菊池寛の原作を映画化した作品(脚本:飯田正美)。戦前の宝塚スターの霧立のぼるが主演。
 菊池寛お得意のブルジョア家庭を舞台にした物語だが、どうにもヒロインには共感できないので困ってしまう。悪気は無いのに男を惑わせてしまう“魔性の女”的な女性だし、本人もそれをある程度自覚して、良いことではないと思ってはいるのだが。それと、オチが唐突。この原作、何度も映画化されているようだが、そんなに人気があったのだろうか?
 出演者の演技は皆まあまあ。霧立のぼるがブリッコ的なのは、役に合わせたのか地なのか。(2003/01/27)

綴方教室 つづりかたきょうしつ
監督 山本嘉次郎
公開年 1938年
評点[A’]
感想  今日は、高峰秀子主演の『綴方教室』を観た。監督は山本嘉次郎で、昭和十三年(1938)の作品。

 葛飾の借家に父(徳川夢声)・母(清川虹子)・弟二人と住む小学生の正子(高峰秀子)は、学校の綴方(作文)の授業で才能を認められ、時には彼女の文章が周囲に波紋を広げながらも、先生(瀧澤修)の励ましを受けながら綴方を書いていく。

 題名どおり、豊田正子の綴方が原作(脚色:木村千依男)。高峰秀子の子役時代の主演作として評価の高い作品。
 正子の綴方が物議をかもすエピソードは日本人の嫌なところを如実に映し出していて、その他の話も貧しい一家の苦しい暮らしが克明に描かれていて、観る前の印象よりもシリアスな作品だったので、ちょっとだけ驚いた。日本映画は貧乏描写がなぜこんなにリアルになるのだろうか。俳優の貧乏暮らしの演技も上手い。徳川夢声のしょぼくれた父親役は、まさにそのもの。もちろん高峰秀子も上手い。小学生にしては背が高い(そう長身でもないのだろうが顔が小さいので高く見える)のは仕方ないのだろう。(2002/12/07)

藤十郎の恋(藤十郎の戀) とうじゅうろうのこい
監督 山本嘉次郎
公開年 1938年
評点[B]
感想  山本嘉次郎監督の『藤十郎の恋』を観た。昭和十三年(1938)の作品。

 元禄時代の京都。当代随一の役者・坂田藤十郎(長谷川一夫)は、新境地を開くべく斬新な脚本を近松門左衛門(滝沢修)に依頼する。これまでにないリアルな作品の役作りに苦心する藤十郎は、芝居茶屋を切り盛りする後家・お梶(入江たか子)に目を止めた……。

 初代藤十郎の実話を基にしたといわれる菊池寛の有名な作品の映画化(脚本:三村伸太郎)。
 林長二郎改メ長谷川一夫の東宝移籍後最初期の作品ということで、当時人気の菊池寛の原作を得、江戸時代の劇場が大規模なセットで再現された大作になっている(元禄頃にしては立派すぎるような気もするが……元禄時分ではまだ江戸より京大坂の方が文化の発信地だったから、それくらいで良いのだろうか)。特に冒頭とラストの芝居小屋回りの雑踏の対比はスケールが大きく効果的になっている。
 菊池寛の原作は非常に有名なので、どう料理されているかと思ったら、短編をそのままあっさりで映画化したという感じで、坂田藤十郎の身勝手ぶりが目に付いてしまうような気がする。サイレント映画的な字幕の挿入や超クローズアップ、すばやいカットの切り返しなど目新しい効果が多用されているが、舞台の描写が存外少なく、歌舞伎の魅力が伝えられていないため、坂田藤十郎の芸の素晴らしさというものが表現されていないのも一因だろう。
 入江たか子は美しいものの顔かたちが整いすぎているためか、未亡人の色気・妖しさというものが感じられず、どうも藤十郎や映画の観客を惹きつける魅力に欠けるような……。(2007/02/01)

エノケンのがっちり時代 えのけんのがっちりじだい
監督 山本嘉次郎
公開年 1939年
評点[C]
感想  今日は、榎本健一主演の『エノケンのがっちり時代』を観た。監督は山本嘉次郎で、昭和十四年(1939)の作品。

 映画界に憧れて東宝撮影所の掃除夫になった健ちゃんこと西澤健二郎(榎本健一)は、撮影現場にもぐりこんでは怒られてばかりいる。あるとき、健ちゃんがキャメラマンになったと信じている母親が上京してきて大あわて。大部屋女優のガールフレンドかすみちゃん(霧立のぼる)と仲間たちが助けようとするが……。

 山本監督オリジナルの原作・脚本による作品。副題が『エノケンのニュースカメラマンNo.2』で、前作の『びっくり人生』とシリーズになっているらしい。
 映画界が舞台なので、戦前の東宝撮影所の内部やロケのシーンがあるのが興味深い。もちろんデフォルメされ単純化されてはいるものの、戦前の映画撮影の雰囲気の片鱗は味わうことができる貴重な作品だと思う。映画撮影シーンでは、“本物”のスターとして入江たか子・高田稔・汐見洋の三人がちょっとだけ特別出演したりしている。
 その他、ストーリーの面では脚本が弱いし、ミュージカル的シーンも少なくエノケンの演技も流した感じで懸命さが見えない。喜劇映画としては今ひとつだが、現在では戦前映画や撮影所に興味のある人向けの資料的価値のある作品になっているといえるかもしれない。(2005/09/02)

 うま
監督 山本嘉次郎
公開年 1941年
評点[A]
感想  今日は、山本嘉次郎監督の『馬』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 岩手の農家・小野田家では、長女いね(高峰秀子)の懇願で馬を飼うことになった。当初、乗り気ではなかった父(藤原鶏太〔釜足〕)や母(竹久千恵子)、弟(平田武)たちも、次第に馬の魅力に惹きつけられていった。そして、訪れた別れの時。

 山本監督の代表作の一つだが、“製作主任”(東宝でのファースト助監督の呼称)として黒澤明が名を連ねていることで有名。野外での馬の放牧シーンを担当したといわれている。
 主演の高峰秀子が、ただ可愛いだけでなく、どこか頑(かたく)ななところのある少女像を好演している。父や母、祖母(二葉かほる)も良い。馬の出産を直接撮らず、見守る家族の表情の変化で間接的に表現するシーンでは、みんな非常に巧みな演技をしている。
 それ以上に、撮影に一年以上かけた長編大作なので、カメラが捉えた戦前の農家の生活や岩手の自然の描写が素晴らしい。撮影者は複数だが(春:唐沢弘光・夏:三村明・秋:鈴木博・冬:伊藤武夫・セット:三村明)、やはり夏とセットの三村明の撮影が素晴らしい。特に暗い農家の中を表現するのは、当時は難しかったと思う。
 冒頭に“東條陸軍大臣”の言葉「飼養者の心からなる慈しみによってのみ優良馬―将来益々必要なる我が活兵器―が造られるのである」という字幕が出て驚かされるが、それ以外は太平洋戦争が始まる年(昭和十六年三月公開)の作品とは思えない、叙情あふれる予想以上の傑作。(2001/12/24)

巷に雨の降る如く ちまたにあめのふるごとく
監督 山本嘉次郎
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、エノケン主演の『巷に雨の降る如く』を観た。監督・脚本は山本嘉次郎で、昭和十六年(1941)の作品。

 紙芝居屋の金ちゃん(榎本健一)と同じアパートに住む流しのアコーディオン弾きの碌さん(月田一郎)は親友同士。ある日、金ちゃんはワケあり風のカフェーの女みどり(山根寿子)を助けて世話するうちに、彼女が好きになってしまう。

 カラカラ回る風車(?)から洗濯物を映すファーストシーンからちょっと洒落た感じで、洋画っぽい雰囲気がした。粗筋はあまり目新しいところのない人情噺だが、映像に漂うモダンな雰囲気が過度に湿っぽくなることから免れさせているのかもしれない。題名通り雨の降るシーンが多く、しばしば雨が流れる地面が映し出されるのが印象的。黒澤明作品の雨の描写は、師匠の影響を受けたのだろうか。
 エノケン主演だが、この作品ではコメディ色は一切なく、シリアスに徹している。しかし、終盤に見せる身体を張ったアクションシーンに凄みを感じさせられた。一切スタント無しのように見えるので。
 ストーリーは少々ありきたりな感があるが、映像(撮影:唐沢弘光)とエノケンの演技で魅せてくれる佳作。山本監督の堅実な演出の手腕もあるだろうか。また、アパートの住民たちの描写も面白い。

 戦前の作品としては絵も音も非常に状態が良いので観やすい作品だった。(2003/12/06)

希望の青空 きぼうのあおぞら
監督 山本嘉次郎
公開年 1942年
評点[A’]
感想  今日は、山本嘉次郎監督の『希望の青空』を観た。昭和十七年(1942)の作品。

 ひょんなことから太田鶴右ヱ門(山本禮三郎)は女学生の成島秀子(高峰秀子)を気に入り、末っ子の務(池部良)の嫁にしようとした。秀子の父・文之進(江川宇礼雄)が鶴右ヱ門の句友だったので話はトントン拍子に進むが、まだ若い二人は乗り気ではなく、務の兄姉たちの結婚生活を見学することになる。果たして二人は“幸福の青い鳥”を見つけられるのか……。

 まだデビュー2作目の池部良が高峰秀子と共演の主役扱いで、東宝が彼にかけた期待の大きさがわかる。この作品では、大根ともいわれる池部良の演技が自然で、2作目とは思えないほど上手いといっていいくらいに見える。山本監督の演出のおかげだろうか。
 戦中の作品ではあるが、まだ戦争勃発直後に製作されたので(公開は昭和十七年の一月)、登場人物の生活は戦前とほとんど変わらない。内容も冒頭からコミカルで“時局”を反映するところは数えるほど。
 務の姉の一人(霧立のぼる)が声楽家(岸井明)に嫁いでいて、そのブルジョア的な暮らしが諷刺されているようだが、夫婦喧嘩がコミカルに描かれて必ずしも反感を覚えさせないし、彼らの豪勢な家のセットなどノリノリで作られたような雰囲気がする。
 彼らの対極として務の別の姉(入江たか子)の、海軍士官の妻としての生活が描かれる。夫が急に出征することになった際には皆が喜びを表すことがなく、妻は多少不安げな表情を見せながらも静かに送り出すのが、かえって感動的だった。このあたり、皆が喜んだり万歳三唱で送り出したりするようなことをしないのは、作り手たちの意図が感じられるような気がするのは考えすぎだろうか(脚本:山崎謙太・小国英雄・山本嘉次郎)。
 原節子も出番は少ないが要所で重要な役として出てきて強い印象を残す。急に結婚という人生の大事に直面させられた若者たちを洒落た演出で描いた快作。(2005/03/24)

ハワイ・マレー沖海戦 はわいまれえおきかいせん
監督 山本嘉次郎
公開年 1942年
評点[B]
感想
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ハワイ・マレー沖海戦
ハワイ・マレー沖海戦

 今日は、山本嘉次郎監督の『ハワイ・マレー沖海戦』を観た。昭和十七年(1942)の作品。

 昭和十一年、海軍の士官候補生を親類に持つ飛行機好きの少年・友田義一(伊藤薫)は海軍航空予科練習部(いわゆる予科練)に志願した。厳しい訓練を経て雷撃機の搭乗員として実戦部隊に配属されると、昭和十六年十二月八日、ついに太平洋戦争が始まる。

 大本営海軍報道部の企画により、開戦一周年記念の日に上映された作品。海軍の協力を得て、予科練
の訓練風景など一部が実写。また、真珠湾攻撃やマレー沖での英戦艦レパルスとプリンス・オブ・ウェールズの撃沈シーンなどは特撮で、むしろ円谷英二が参加した作品として名高い。
 ただし、米軍も実写だと思ったといわれる特撮シーンばかりが有名だが、実際には少年飛行兵の成長を丹念に追った作品で、戦闘シーンに至るまで1時間以上かかる。私は軍隊生活に興味があるので飽きずに観られたが、関心の無い人には退屈かも。展開のテンポは速いとはいえないし。“本物”の海軍の訓練風景を観られる作品として貴重かもしれない。創作部分は妙に教官と少年兵たちが仲良さ過ぎるのが嘘くさいけど。
 特撮シーンは、なかなかリアル。質感の違いがわかりづらいモノクロに助けられた部分もあるとは思うが。(2003/07/31)

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