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昭和八年(1933)
花嫁の寝言 はなよめのねごと
監督 五所平之助
公開年 1933年
評点[A’]
感想  今日は、田中絹代主演の『花嫁の寝言』を観た。監督は五所平之助で、昭和八年(1933)の作品。

 会社員の小村(小林十九二)は、自分だけ卒業・就職し、なおかつ可愛い奥さん(田中絹代)と結婚までしたため、大学に留年した同級生(江川宇礼雄・大山健二・谷麗光)たちに酷くからまれる。その上、新妻が面白い寝言を言うというので、悪友どもは家にまで押しかけてきて……。

 一時間弱の小品だが、その間中、ずっとコントみたいな会話のやり取りが続く……というか、登場人物どうしが部屋の中でしゃべっているだけの作品(笑)。
 ストーリーらしいストーリーは無いし、他愛ないといえばその通りだが、出演者の演技は皆巧みで所々笑いを漏らしたくなる部分もあり、楽しめる作品。田中絹代もまだ若くてかわいいし、それ以上に小林十九二の“芸”にビックリ。また、和風の小村家と和服の新妻と、ハイカラ趣味の学生たちのアパートとの対比も、今の目で観ると面白い。(2004/03/12)

応援団長の恋(應援団長の恋/應援團長の戀) おうえんだんちょうのこい
監督 野村浩将
公開年 1933年
評点[A’]
感想  今日は、野村浩将監督の『応援団長の恋』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 ヒゲ面を誇る文化大学応援団長の塚本(岡譲二)は自他共に認める蛮カラ男。だが、野球部エース宮島(江川宇礼雄)の妹(若水照子)の友人であるアヤ子(逢初夢子)が彼のことを好きだと聞かされると、一発で舞い上がってしまう。そんな塚本の様子に、彼の下宿の娘お美津(田中絹代)は気が気でない。

 サイレント時代からのカレッジものの一作(脚本:野田高梧)。この設定と冒頭の展開からすぐに小津安二郎監督の『淑女と髯』を連想した。戦前の大学や旧制高校の蛮カラ世界VS洋装の女性を中心としたモダン文化の対立の構図。宮島の家は金持ちで、妹の友人たちは洋装だが妹本人は和装なのは、宮島は階層は異なっても心情的には塚本の世界に共感していることを表しているのだろうか。
 冒頭から中盤まではコミカルタッチで、サイレントの名残を残しているような岡譲二のちょっとオーバーな演技や応援の音頭を取る身ぶりが滑稽で、主人公と他の登場人物とのやりとりも楽しい。“与太者トリオ”もチョイ役で顔を見せたりしている。田中絹代は、まだ娘の演技。
 終盤は一転してシリアスな展開になるのが『淑女と髯』と大きく異なる。ちょっと展開が唐突過ぎる気もしないではないが、主人公の活躍を見せるためには悪くないかもしれない。
 野村監督の演出は細かく、サイレントの経験が豊富なことをうかがわせ、なおかつ違和感のないトーキー作品になっているところに技量を感じさせた。これが初のトーキー作らしい。(2005/04/23)

島の娘 しまのむすめ
監督 野村芳亭
公開年 1933年
評点[A’]
感想  今日は、野村芳亭監督の『島の娘』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 伊豆大島の旅館「寺川屋」の娘お絹(吉川満子)は、家業が傾き東京に売られることになっていた。お絹と将来を誓いあっていた船員・月山一郎(江川宇礼雄)は彼女のためになんとかしてやろうとするが果たせず、心を残しながら航海に出る。そんな折、寺川屋に泊まった学生・大河(竹内良一)が絹子の境遇に興味を示す。

 松竹映画創生期からの巨匠で松竹蒲田撮影所所長だった野村芳亭監督作品(原作:長田幹彦/脚本:柳井隆雄)。小唄勝太郎という人が唄った当時のヒット曲『島の娘』を基にして作られた“小唄映画”らしい。数社で競作になったようだ。
 本当に大島にロケもしたのか(撮影:長井信一)、観光地でありながらどこかうらぶれた物悲しいような風情がある。吉川満子は小津作品などでは人妻や母親役が定番であるが、さすがにこの頃は若く娘役が合っている。大河に声をかける酌婦おしまを演じた若水絹子という女優も雰囲気が良い。
 流行歌を基にした商業映画であるが、ラストシークエンスも味わい深く心に残る。野村芳太郎監督の父でもある野村芳亭の作品は、何本くらい残されているのだろうか。(2005/02/07)

君と別れて きみとわかれて
監督 成瀬巳喜男
公開年 1933年
評点[B]
感想  今日は、成瀬巳喜男監督の『君と別れて』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 芸者の菊江(吉川満子)は女手一つで息子の義雄(磯野秋雄)を育てて中学(旧制)にまで通わせていたが、義雄は母の仕事を嫌って不良と付き合うようになってしまう。そんな彼を菊江の妹分の照菊(水久保澄子)は心配するのであった。

 成瀬巳喜男自身の原作・脚本によるオリジナル作品で、1時間ちょっとの中編。
 この作品も以前観た『腰弁頑張れ』同様に音楽・弁士なしの完全サイレントだが、映像の作り方が巧みで説明不足のところは全くわかりやすい。俳優たちの演技もサイレント特有の誇張されたアクションはほとんどなく、ナチュラルに近い。サイレント末期の完成度とトーキー時代の予感を併せ持つ作品という感じだろうか。
 ただ、作中何度も登場する、トラック・アップ(ズームのように見えるが当時はズームレンズはなかったのでカメラを動かしたのだと思う)で登場人物の表情を捉える演出は少々くどい。また、ストーリーも今の目で観てしまうと少々類型的で展開の予想がついてしまう。当時としてはリアルな社会問題を扱った作品だったのかもしれないが。(2006/01/22)

非常線の女 ひじょうせんのおんな
監督 小津安二郎
公開年 1933年
評点[A’]
感想
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小津安二郎 DVD-BOX 第四集
小津安二郎
DVD-BOX
第四集

 今日は、小津安二郎監督の『非常線の女』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 社長の息子(南條康雄)に求婚されている可憐なタイピスト時子(田中絹代)。しかし彼女は、付近の与太者のボス襄二(岡譲二)の情婦という裏の顔も持っていた。元ボクサーの襄二に憧れて若い宏(三井秀夫)が子分になり、弟を心配して宏の姉・和子(水久保澄子)が会いに来たことから時子と襄二の関係はきしみ始め……。

 小津監督のサイレント作で、原案はゼームス・槇(小津の筆名)のオリジナル(脚本:池田忠雄)。モダン趣味が強い小津の戦前作の中でも、徹底して洋風の雰囲気に貫かれた異色の一本。
 舞台設定はよくわからないが(銀座・有楽町か横浜?)、襄二と時子の住まいが洋風アパートなのは良いとして、学生である宏と姉の和子の家までアパート。主な舞台のボクシングジムや時子の会社も大変モダンな作り。ただし、登場人物の行動原理は日本人的なのだが。
 まだ少女のような田中絹代がモダンなドレスやコートを着、後半ではアクション(というと大げさだが)を演ずるのも彼女の柄に合っていないので、「ギャングごっこ」なんて酷評を見かけたこともある(笑)。そこまで酷いとは思わないが……。一方、ソフト帽と背広で決めた岡譲二の雰囲気はまずまず。
 映像面は、規則的に並んだ静物を映したり一度に登場した複数の人物が同じ動作をしたり小津の個性を強く感じさせる一方、追って来る警官を影で表現するなど洋画の影響を強く受けた表現もある。
 特筆すべきはフィルムの保存状態の良さ。当時のレンズや照明のために被写体深度が浅い条件下で、一つ一つのカットにおいて主題となるものにはピタリとピントが合い、その他のものはソフトにうっすらぼやける映像になる茂原英朗キャメラマンの技巧を楽しめる。また、各カットが一枚の写真として成立するような構図で、静的な美しさのある映像になっている。

 小津監督は、この作品を当時の日本ではなく近未来(当時から見て)あるいは架空の街を舞台とした一種のファンタジー作品として作ったのかもしれない。そのくらいの洒落っ気はあった人だろう。
 名作や傑作と言えるかどうかわからないが、美しい映像と当時の日本人が現在でも無いような洋風な空間で行動している奇妙な感覚も味わえるユニークな一本。(2004/12/25)

瀧の白糸(滝の白糸) たきのしらいと
監督 溝口健二
公開年 1933年
評点[A’]
感想  今日は、溝口健二監督の『滝の白糸』を観たですぅ。昭和八年(1933)の製作だから、うちの両親が産まれた年より前の作品だ。すげぇ〜!(笑)
 さすがに無声映画なので、古さを感じるし、楽しむには多少の訓練がいるというか観慣れないと厳しい面もあるかも。それにやはり画像が酷く劣化しているし…。でも、名作の片鱗をうかがうことは出来ると思う。
 そうそう、アポロンのビデオ版はフィルムが尻切れトンボなんだよな。フィルムセンター所蔵版も完全ではないけれども、もう少しラストの部分が残っているそうなので、それも観たいなぁ…。

 主演の入江たか子(1911-1995)は、なるほど美人だ。化粧を変えれば現在でも通用するタイプかも。背も明治生まれとしては異例に大きい162cmもあったそうだし。しかし、昔はホントの美人タイプの人が女優になったんだろうな。美容整形手術とかも無かったしぃ…って、そんなこと言っちゃいかんか(爆)。(2000/04/08)

ほろよひ人生(音楽喜劇 ほろよひ人生) ほろよいじんせい
監督 木村荘十二
公開年 1933年
評点[C]
感想  今日は、木村荘十二監督の『ほろよひ人生』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 “ようよう駅”でアイスクリームを売るトク吉(藤原釜足)は、ヱビスビールを売っているエミ子(千葉早智子)にぞっこん。だが、エミ子の方は毎日ビールを買いに来る音楽学校の学生アサオ(大川平八郎)が好きで、二人は既に付き合っている。アサオの作品が初めてレコード化された歌謡曲『恋は魔術師』が大ヒットしたことで、三人の運命は大きく変わり……。

 東映の前身であるP.C.L.の第一回作品。トーキーを売りにしていたので、歌と音楽がたっぷりのミュージカル的作品。副題に“音楽喜劇”とある。
 副題どおりストーリーは、おとぎ話調。トーキー初期で、しかもP.C.L.の初作品であるためか、演技・演出・編集など今ひとつ、こなれていないように見えた。ヒロインのエミ子の演技は気になった……。
 内容は明るいので楽しむことはできる。当時の最先端の流行が描かれているのも興味深い。(2002/06/24)

出来ごころ できごころ
監督 小津安二郎
公開年 1933年
評点[B]
感想
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小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
DVD-BOX
第三集

 今日は、小津安二郎監督の『出来ごころ』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 下町に住む喜八(坂本武)は息子の富夫(突貫小僧)と長屋で二人暮らし。同じ長屋に住む工場の同僚の次郎(大日向傳)や近所で食堂を営む“かあやん”(飯田蝶子)とは家族同然だ。喜八は、ふとしたことから助けてやった春江(伏見信子)という若い女に年甲斐もなく夢中になってしまうが、彼女は次郎のことが好きになり……。

 小津監督の人情ものシリーズ“喜八もの”のハシリの作品。それまでの学生や会社員の生活を舞台にした作品から、下町の長屋に場所を移している。
 前半、春江にちょっかいだす喜八はデレデレしていて、人情話というよりもちょっとセクハラっぽい感じさえしたが、春江の心が自分にないことを知る中盤以降は、雰囲気が出てくる。
 息子の富夫という役名は突貫小僧の本名(青木富夫)から。次郎役のヒゲを生やした大日向傳は苦みばしっていてカッコイイ。(2002/04/22)

大學の若旦那(大学の若旦那) だいがくのわかだんな
監督 清水宏
公開年 1933年
評点[A’]
感想  今日は、清水宏監督の『大學の若旦那』を観た。昭和八年(1933)の作品。

 醤油問屋“丸藤”の若旦那・藤井実(藤井貢)は大学のラグビー部の花形選手だったが、遊びの方も派手で半玉の星千代(光川京子)との仲を皆に知られて退部させられてしまう。ラグビー嫌いの父親(武田春郎)は喜んだが、ラグビー部の後輩(三井秀男)の姉たき子(逢初夢子)がレビューガールだったため、レビューに足しげく通うようになり……。

 戦後の若大将シリーズの原型といわれる『若旦那』シリーズの第一作。藤井貢の初主演作でもあるらしい。
 映画がトーキーになりつつある時代の作品で、音楽と効果音などが録音され台詞だけがタイトル画面で出る“サウンド版”。音質も比較的良いし拍手などの効果音や大学の校歌までタイミングにあった録音がされているので台詞も録音できるのでは? と思ったが、そう簡単には行かなかったのだろうか。
 主演の藤井貢は茫洋とした感じで若旦那らしかったが、まだ素人っぽい感じがする。のちの東宝の『泣蟲小僧』の小説家役はなかなか良かったけど。若旦那だから上手くなくて良いのかもしれないが、若旦那の叔父役の坂井武や若旦那の妹の婿役の斎藤達雄など脇に芸達者が揃っていたので、そちらの巧みさが目立ってしまったのも否めない。三井秀男や逢初夢子も好演。
 また、現在の目から見るとお気楽な若旦那の行動にはあまり好感を抱けないが、大学に行けるのは数%しかいなかった戦前の人々は、大学生に対して今の人間より鷹揚だったのだろうか。
 しかし、上記のように脇役の上手さが光るし、サイレント特有の俳優の動きのギャグや映像のつなぎ方で時間の省略を表現する清水監督の演出も巧み。レビューのシーンや、たき子の部屋の装飾に清水監督のモダン好みの趣味がうかがえる。(2004/07/10)

韋駄天数右衛門(韋駄天數右衛門/韋駄天數右衞門) いだてんかずえもん
監督 後藤岱山
公開年 1933年
評点[B]
感想  今日は、羅門光三郎主演の『韋駄天数右衛門』を観た。監督は後藤岱山で、昭和八年(1933)の作品。

 赤穂藩士の不破数右衛門(羅門光三郎)は主君・浅野内匠頭に寵愛されている実直で腕の立つ武士だが、途方もない粗忽者で殿の月代を剃ったときも他家に使者に出たときも失敗ばかり。あるとき数右衛門は、旅姿の兄妹の仇討を助太刀しようとして、誤って次席家老・大野九郎兵衛の息子に深手を負わせてしまう。

 赤穂四十七士のうち、堀部安兵衛や赤垣源蔵(赤埴源蔵)と並んで人気の高い不破数右衛門を主人公にした作品。不破は松之廊下刃傷事件の頃は浪人していたため、粗忽者(うっかり者)ゆえに主家を辞したという話が作られたらしいが、浅野内匠頭の月代を剃って失敗したり使者に行く家を間違えたりするエピソードは同じく四十七士である武林唯七のものという伝承もある。
 史実とはほとんど関係ない講談調のストーリーだが、サイレント特有のパントマイム的な演技やギャグが面白い。52分ほどの短編なので展開もスピーディー。もうちょっと続きを観たいという感じもあるが。
 羅門光三郎は阪妻・大河内より一段下がるB級的存在ながら、ちょっと珍しい槍の殺陣も見せてくれて楽しめた。庶民や少年たちに人気があったというのもうなづける。忠臣蔵の義士外伝であるが、重いところは全く無く娯楽に徹した一作。(2005/01/24)

昭和八年(1933)
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