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昭和十二年(1937)

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新選組 しんせんぐみ
監督 木村荘十二
公開年 1937年
評点[A]
感想  今日は、木村荘十二監督の『新選組』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 鳥羽伏見の戦いで敗れた新選組は船で江戸に戻ったが、時勢は日増しに幕府に不利となった。将軍慶喜は朝廷に対して恭順を表明し、勝海舟(中村鶴蔵)の策により新選組は“甲陽鎮撫隊”として甲府城に向かわされた。いまだ意気軒昂な近藤勇(河原崎長十郎)と、どこか不安げな土方歳三(中村翫右衛門)。

 まず、いきなり新選組の敗走から描き始めるのが珍しい。かといって新選組を悲劇のヒーローとして描くのではなく、“朝敵”の悪役としてでもない。我々は歴史の結果を知っているので、彼らは自分たちが時勢の流れに翻弄されていることに気づかない、愚かな、またそれゆえに憐れむべき人間として見える。こういうとらえ方ができる作品は珍しいのではないだろうか。
 河原崎長十郎の近藤勇は、一見単純な性格のように描かれていて史実の近藤勇ファンにとっては物足りないかもしれないが、歴史に名を残したものの歴史の流れを変えるには至らなかった近藤勇の限界が表現されていたような気がした。沖田総司(嵐芳三郎)とその姉(山岸しづ江)や恋人(山懸直代)のエピソードも、良いアクセントになっている。
 この作品は、戦前映画としては登場人物の台詞回しが早口なのにちょっと驚いた。木村監督の演出なのだろうか。登場人物の行動や会話が終わってすぐ次のカットへ行く早いテンポも独特。それらの演出によって追い詰められた新選組の緊迫感を表現しようとしたのだろうか。(2004/01/26)

將軍を狙う女 「東海美女傳」より(将軍を狙う女 「東海美女伝」より) しょうぐんをねらうおんなとうかいびじょでんより
監督 石田民三
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、石田民三監督の『將軍を狙う女 「東海美女傳」より』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 小西行長の遺臣・磧田與四郎(黒川弥太郎)は徳川家康を狙撃しようとして失敗。山中に逃れて同じく家康を仇と狙う娘お鶴(花井蘭子)と偶然出会い、共に家康を討とうとする。一方、家康は小西行長の遺児でキリシタンである由利(原節子)を捕らえながらも、なぜか何かと目をかけていた。

 村松梢風の原作の映画化(脚本:白浜四郎・加戸野恩児)。1時間強の小品だが、多彩な登場人物とプロットが入り組んでおり、見ごたえを感じた。
 與四郎と鶴・由利は架空あるいは名前だけ借りたキャラだと思うが、それだけでなく、家康や大久保長安(永井柳太郎)・本田佐渡守(深見泰三)といった実在の人物もステレオタイプで描かれておらず、各々人間味を見せたキャラクターになっているのが好ましい。
 與四郎を演じた黒川弥太郎は、まだ若くて演技にもちょっと若さが見えたが、まずまず。由利の原節子は、独特の雰囲気が貴人の娘かつ神秘性を感じさせるキリシタンという役にハマっている。声が、後年の独特のハスキーっぽい声とは全く異なり、まさに若い娘の声だったのが意外だった。
 戦前作としては保存状態も良く撮影自体も比較的シャープなので、ロケ撮影での自然の風景などが楽しめる(撮影:上田勇)。(2004/05/18)

進軍の歌 しんぐんのうた
監督 佐々木康
公開年 1937年
評点[D]
感想  今日は、佐々木康監督の『進軍の歌』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 大陸で戦火が広がり、労働争議を起こして警察の留置場に拘留されていた安藤俊作(佐分利信)のもとにも召集令状が届き、警察署長(奈良真養)は励ましの言葉をかけて釈放した。幼なじみであるが社長の息子でもある遠山次郎(広瀬徹)へのわだかまりは溶けないが、俊作はお国のために戦うことを決意して出征する。

 東京日日新聞と大阪毎日新聞(双方とも現在の毎日新聞の前身)が公募した戦意高揚歌の第一席に選ばれた『進軍の歌』を宣伝するために作られた作品(原作:岩崎栄/脚本:斎藤良輔)で、50分弱の短編。
 労働争議の首謀者が召集令状を受け取ったとたんに改心してお国のために働こう、となる冒頭から始まって、登場人物は芸者(桑野通子)から置屋の主人(河村黎吉)に至るまで皆が皆、お国のためを思う真面目人間ばかり。
 全キャラクターが嘘臭くて偽善的なのは支那事変(日中戦争)勃発直後の宣伝映画だから、一歩譲って仕方がないとしても、他に見所があるかというと特にない。戦闘シーンも、夜襲をかけられた日本軍が逆襲すると、いつの間にか支那軍(中国国民党軍)の背後に回りこんで棒立ちの敵を斬り殺すというコントみたいな展開があったりしてリアリティゼロ。
 さすがの戦前好きの私(笑)でもほとんど長所を見出せない一本。監督以下のスタッフも出演者も、戦後は特になかったことにしたかった作品だったと思う。(2005/11/19)

風の中の子供 かぜのなかのこども
監督 清水宏
公開年 1937年
評点[A]
感想  今日は、清水宏監督の『風の中の子供』を観たっす。昭和十二年(1937)の作品。

 小津安二郎と同い年(1903年生)の清水監督の作品は初めて観た。児童映画の名手とのことで、なかなかの佳作だと思う。子供と動物を出すのは卑怯だし(笑)、途中、結構ベタな人情噺(にんじょうばなし)っぽくなる場面もあったけれども、作りが丁寧で、ラストが良かったです。
 笠智衆がチョイ役で出てたが、老けメイクなしだと若いわ。清水監督の作品に結構出演していて、主演作もあるそうだ。
 笠智衆は、近年ますます小津安二郎監督の評価が高まっているのに清水宏監督のことが全く語られないのが不思議です、というようなことを言っていた。小津監督を尊敬はしていたかもしれないけど、撮影が楽しかったのは清水監督の方だったのかも。小津監督作品では自分の芝居なんてできないから。(2000/04/25)

浅草の灯(淺草の灯) あさくさのひ
監督 島津保次郎
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『浅草の灯』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 時は大正、浅草オペラの華やかなりし頃。可憐なコーラスガール麗子(高峰三枝子)は、世話になっている夫婦や師匠から、浅草の実力者の妾になるよう強いられていた。ペラゴロ(オペラ+ゴロツキ=浅草オペラマニアの意)のボカ長(夏川大二郎)や劇団の二枚目・山上七郎(上原謙)ら仲間たちは彼女を救おうとする。

 関東大震災で大打撃を受けるまで隆盛していた浅草オペラを舞台とした作品(原作:浜本浩/脚本:池田忠雄)。
 高峰三枝子は美人タイプなので少女と呼ぶにはどうしても大人っぽいが、その他ちょっとやくざっぽい二枚目の上原謙・のんきなオペラファンの夏川大二郎・山上を密かに慕う射的場の女を演じた吉川満子など個性豊かでユニークなキャラクターが揃い、俳優たちも巧みに演じている。笠智衆がインテリ風の演劇青年を演じているのが印象的。しかし中でも、弟子の麗子にきつく当たるプリマ女優を演じた杉村春子の迫力が凄い。昭和十二年ではまだ28歳かそこらなのに……この頃からこういう役をやっていたんだ(笑)。
 主人公の境遇やラストの決着のつけ方はちょっと古典的だけれども、堅気の世界からはみ出した極道者だが仲間のためには一肌脱ごうという演劇人たちの心意気が主題で、観ていて気持ちの良い作品だった。
 古き良き時代の浅草がよく再現されていて(撮影:生方敏夫 /美術考証:金須孝・浜田辰雄)、エノケン(榎本健一)や清水金一・左卜全など後の映画界の人材を産んだ浅草オペラの世界の雰囲気を知ることができて大変興味深かった。

 残念なのは音声状態が悪いのと、現存版は公開当時のプリントよりかなり短くなってしまっていること。欠落はあまり気にはならないが、ちょっと急に展開するような感じのところがある。(2005/02/12)

日本一の殿様 にほんいちのとのさま
監督 萩原遼
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、萩原遼監督の『日本一の殿様』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 城内に浪曲師を招いて『水戸黄門漫遊記』を聞いた若殿(小笠原章二郎)は、すっかり感動してしまい自分も名君たらんと思い立ち、城から出させてほしいと大殿(高勢実乗)に頼むが一蹴される。しかし若殿はこっそり城を抜け出して市井の長屋にもぐりこむ。

 ちょうど1時間ほどの小編だが、脚本の巧みさと(原作:小林正/脚本:萩原遼)と映像のテクニックを巧みに用いた演出で楽しませてくれる作品。時間の経過を省略して表現する技法は山中貞雄作品を彷彿とさせるものがあるし、水面の波紋などを象徴的に用いた映像表現も効果的。映像自体も戦前の作品にしてはシャープで、“縦の構図”を用いた捉え方も技巧を感じさせる。撮影の河崎喜久三は『その前夜』も担当した人らしい。
 大殿の高勢実乗は、“アノネのオッサン”式の怪演ではなく押さえた演技で父親役を見事にこなしている。若殿の小笠原章二郎も若々しさがよく出ていた。若殿と仲良くなる町娘の花井蘭子やその他の町の住人たちも良い。(04/06/22)

決闘高田の馬場(血煙高田の馬場) けっとうたかだのばば
監督 マキノ正博(雅弘)・稲垣浩
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、阪東妻三郎主演の『決闘高田の馬場』を観た。昭和十二年(1937)の作品で、監督はマキノ正博(雅弘)と稲垣浩。

 浪人の身の中山安兵衛(阪東妻三郎)は、喧嘩の仲裁を仕事のようにして飲んだくれてばかりいる。ただ一人の親類である叔父・萱野六郎左衛門(香川良介)だけは安兵衛に説教するが、同輩の村上庄左衛門(尾上華丈)の恨みを買い、彼の一味と高田馬場で決闘をすることになってしまう。例によって酔いつぶれていて、それを遅れて知った安兵衛は、“韋駄天走り”で高田馬場へ駆けつけるが…。

 講談で昔の日本人にはおなじみだった“高田馬場の決闘”を元にした作品。阪妻が中山安兵衛(のちの堀部安兵衛)を好演。かなりコミカルなキャラクターで驚いた。こういう役はほとんど初めてだったのではないだろうか。阪妻のオーバーな演技がハマっている。
 監督は二人名義だが、事実上マキノ正博だけが監督していたらしい。コミカルな演出とモブシーンは、さすが。現存している版では50分の小品だが、終始退屈させない佳作。安兵衛と同じ長屋に住む講釈師に志村喬、同じく隣人の大工・熊公を無声映画時代のチャンバラ映画スター市川百々之助が演じている。(2001/11/14)

エノケンの猿飛佐助(総集篇) さるとびさすけそうしゅうへん
監督 岡田敬
公開年 1937年
評点[C]
感想  今日は、エノケン主演の『エノケンの猿飛佐助(総集篇)』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 山の仙人(榎本健一)のもとで忍術の修行をしていた猿飛佐助(榎本健一〔二役〕)は里へ降りて真田幸村(柳田貞一)に仕えることになった。彼は幸村の領地を狙う隣国の城主・志賀綺堂軒(中村是好)が差し向けた間諜たちと戦うが、なぜかその中には綺堂軒の息女・瀧姫(梅園龍子)までもいて……。

 現在残っているのは総集編だけらしいが、本来は昭和十二年の年末に『ありゃりゃの巻』、翌年正月に『どろんどろんの巻』が公開されたらしい(脚本:山本嘉次郎・岡田敬)。
 仙人が霞を食ったり佐助が飛び上がって空を飛んで行く忍術のトリック撮影は面白いが、全体にテンポがゆっくり過ぎて忍術映画らしい躍動感がない。ラブコメ的恋愛話もからむが、どうもリズムがないというか……。
 その戦後映画にはありえないのんびりした雰囲気が好きな人もいるかもしれないが、私個人の好みとしては展開が遅すぎると感じた。本来よりずっと短くなった総集編になって、かえって良かったかもしれない、とさえ思った。岡田監督の作品はまだ数本しか観ていないが、テンポが今ひとつの展開という共通点があるかも……。(2005/10/21)

自来也 忍術三妖伝 じらいやにんじゅつさんようでん
監督 マキノ正博(雅弘)
公開年 1937年
評点[A’]
感想  今日は、マキノ正博(雅弘)監督の『自来也 忍術三妖伝』を観た。昭和十二年(1937)の作品。

 信州の城主・更科輝隆(市川正二郎)は野武士の佐久間正盛(河部五郎)・五十嵐典膳(尾上華丈)・矢尾郡太夫(志村喬)らに殺され、その一子の太郎丸(宗春太郎)は深い土牢に投げ込まれ餓死を待つだけとなった。しかし一夢仙人(香川良介)に助けられて妖術を学び、長じて自来也(片岡千恵蔵)と名乗って佐久間らに復讐の刃を向けた。

 題名通りの忍術映画だが(原作・脚本:比佐芳武)、昭和十二年の段階ではちょっと珍しいネタではないだろうか。
 これでもかとばかりに当時としてもチープに見えたかもしれない特撮が多用されているが、マキノ正博監督の父マキノ省三監督&目玉の松っちゃん(尾上松之助)主演作品の定番ネタだったので、オマージュの意味で作ったのだろうか。特撮の多用も空回りせずなんとも楽しく、千恵蔵もマキノ監督の意図を理解しているようで、いつも以上に重々しくオーバーな演技をしている。
 忍術以外にもラブコメの要素まであり、自来也とは別に佐久間正盛を狙う綱手姫(星玲子)と自来也との掛け合いが楽しく、綱手姫に横恋慕する大蛇丸(瀬川路三郎)というキャラもおかしい。
 57分ほどの短編の中によくまとまった忍術コメディ(?)作品。(2005/03/20)

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