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昭和十四年(1939)

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樋口一葉 ひぐちいちよう
監督 並木鏡太郎
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、山田五十鈴主演の『樋口一葉』を観た。監督は並木鏡太郎で、昭和十四年(1939)の作品。

 明治時代初期、樋口一葉(山田五十鈴)は文才を半井桃水(高田稔)に認められ作品を文芸誌に発表するまでになっていたが、周囲に彼との仲を噂され交際を絶ってしまう。生活に窮した一葉一家は吉原裏の長屋で荒物屋を開き、そこで下町の貧しい人々の生活を目の当たりにする。

 文字通り夭折の文人一葉の半生を描いた作品だが、彼女の伝記的事実に代表作の『たけくらべ』『十三夜』『大つごもり』の一部を組み合わせている。各作品のエピソードを小分けして組替えて各々を同時進行的に一葉自身が体験したように描いている。構成・展開に無理がない脚本は巧み(脚本:八住利雄)。
 面長で古風な顔立ちの山田五十鈴は、まさに一葉そのもの。細かい表情の演技が実に良い。桃水の高田稔も、一葉を受け止める懐の大きい男性という雰囲気を出していた。実際の半井桃水は、さほどの人間ではなかったようだが……。『たけくらべ』の美登利に相当する役として、まだ少女の高峰秀子も出演。花魁(おいらん)のなんたるかを知らぬ無邪気さが哀しい。
 明治時代の建物など風俗がリアルに再現されていて、それを捉える撮影が良い(撮影:伊藤武夫)。雨や雪の雰囲気が良く、日本式家屋のガラス障子が巧みに演出に用いられていた。終盤、一葉が桃水の家から出てきたあたりで大きな音量の音楽が流れてちょっとビックリしてしまった。少々大げさすぎる。
 上映時間が83分ほどで大作ではないが、丁寧な演出と巧みな脚本と演技とが揃っている佳作だった。個人的には今井正監督の『にごりえ』より好き。(2004/06/24)

五人の兄妹 ごにんのきょうだい
監督 吉村公三郎
公開年 1939年
評点[B]
感想  今日は、吉村公三郎監督の『五人の兄妹』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 マッチ工場を経営していた北川徳太郎 (藤野秀夫)は、選挙違反を犯した上に自殺してしまう。残された五人の兄妹のうち、長男の健一郎(笠智衆)は父親代わりとなって、次男要二(日守新一)・三男良三(伊東光一)・四男四郎(磯野秋雄)・長女すえ子(大塚君代)を育てていく。

 かなり若い頃の笠智衆が年齢相応の役を演じている。生真面目すぎて、内容も日中戦争が激化して戦時体制下になりつつあることを反映していて、今で言うと文部省推薦映画のような堅苦しいところもある。しかし、木下恵介の脚本(これが第一作)の兄弟の争いと防空演習を重ね合わせたシーンや、割れた野球ボールの使い方は上手いと思った。また、描かれている戦前の庶民の生活は美しいし、資料的価値もあるかも。
 ただ、最後の一シーンは蛇足のような。ハッピーエンドだかそうでないのだか、よくわからない。(2001/10/21)

まごころ まごころ
監督 成瀬巳喜男
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、成瀬巳喜男監督の『まごころ』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 小学生の長谷山富子(加藤照子)と浅田信子(悦っちゃん)は大の仲良し。信子の成績が下がったことから母親(村瀬幸子)と父親(高田稔)が口論となり、信子は自分の父親と富子の母親(入江たか子)が昔つきあっていたことを知ってしまう。

 石坂洋次郎の原作の映画化(脚本:成瀬巳喜男)。子供二人が主人公で、子役の演技はなかなか。大人の方では、入江たか子が凄く綺麗な母親なのが印象的。これでは信子の母親も嫉妬するだろう。
 自分の親の意外な一面を知って不安になる子供の心理がよく描き出されていて、親に気を使う姿は胸を打つ。一方、大人の方の描写がちょっと薄味な印象もないではない。終盤がいきなり昭和十四年当時の“時局”を反映したものになっていて、ちょっと「あらら」という感もあるが、この程度なら許せるかもしれない。いわば、ちょっとだけ小津の『お茶漬の味』(特に戦中の第一稿の脚本)に似た解決の仕方かな?(2003/03/01)

エノケンの頑張り戦術 えのけんのがんばりせんじゅつ
監督 中川信夫
公開年 1939年
評点[B]
感想  今日は、エノケン主演の『エノケンの頑張り戦術』を観た。監督は中川信夫で、昭和十四年(1939)の作品。

 お隣どうしの稲田(榎本健一)と三田(如月寛多)は「防弾チョッキ株式会社」の同僚でもあるが、意地っ張り同士で仲が悪く、両家の妻(宏川光子・渋谷正代)は困っていた。両家族は夏休みに海へ旅行に行き、金があるわけでもないのに見栄を張り合って旅館の最高級の部屋に泊まってしまうが……。

 題名どおりエノケン主演の一本だが、彼が背広を着て口ひげ生やしてポマードで髪を撫で付けたサラリーマンを演ずるのはちょっと珍しいと思った(脚本:小国英雄)。それとも、私がまだ観ていないだけなのだろうか。
 サラリーマンものといっても、エノケンと如月寛多がすぐ喧嘩したり旅行先でも大立ち回りがあったり、アクションが多い。ただし、エピソードは色々工夫されているが、ドタバタが多すぎて少々まとまりに欠け、今で言う放送禁止ネタもあまり愉快でない部分がある。しかし、有名な「防弾チョッキテスト」のシーンなど面白いところもあった。
 また、防弾チョッキテストの前に「巷間、ややもすればこの防弾チョッキをつけることは卑怯なることと卑しむ風がありますが(引用中略)戦いはただいたずらに死ぬことだけが勇敢なることではありますまい(下略)」という台詞があってちょっと驚く。日中戦争中なのに、これほどあからさまな風刺ネタが許されていたとは。公開がまだ映画法の施行前だったからだろうか。もう少し遅れると引っかかったかも。
 それと、オープニングクレジットに「関東水上スキー連盟」という団体の名が出るが、今の水上スキーとは全く異なるものであるのが面白い。(2005/09/17)

残菊物語(殘菊物語) ざんきくものがたり
監督 溝口健二
公開年 1939年
評点[超A]
感想
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残菊物語
残菊物語

 今日もまた溝口健二監督作品の『残菊物語』を観る。う〜ん、超大作。道を歩いている様子を仰角かけて撮るのは、道端に溝を掘ればできるけど、船を水面からの角度で見上げたようなのはどうやって撮ったんだ?ラストの道頓堀船乗り込みが圧巻。
 長屋とか芝居小屋も大セットを組んで撮っていて、今の邦画が貧相に見えるっす。これもまた60年以上前の作品(1939)。もちっと画質・音質が良ければな〜。(2000/01/25)

その前夜 そのぜんや
監督 萩原遼
公開年 1939年
評点[A]
感想  今日は、萩原遼監督の『その前夜』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 時は幕末。池田屋の斜め前にある大原屋は、大繁盛のお向かいに引きかえ逗留客は絵師の滝川(河原崎長十郎)ただ一人。それなのに主人の彦兵衛(助高屋助蔵)は池田屋の主人と将棋三昧の日々を送り、せがれの彦太郎(中村翫右衛門)が友禅染職人、長女お咲(山田五十鈴)が芸妓となって家を支えていた。そんなある日、滝川のもとを武家の奥方風の女性・芳江(千葉早智子)が訪ねてくる。

 昭和十三年に中国大陸で戦病死した山中貞雄の遺稿『木屋町三條』を、山中も一員だったグループ“梶原金八”名義で脚本とし、同じくグループの一員だった萩原監督が演出、『人情紙風船』に主演した前進座総出演で映画化した作品。
 大原屋一家や滝川を狂言回しとして新選組や池田屋騒動を描く作品かと思っていたら、まさに大原屋の面々が主人公と言って良い作品だったのが意外だった。新選組側も、平隊士の安田(橘小三郎)・松永(市川扇升)・茂木(市川莚司、のち加東大介)がメインで、歴史の流れに翻弄され、なす術(すべ)ない一個人の姿を克明に描いている。歴史の動きを知らず日々の暮らしを過ごす庶民、時代の潮流を薄々察しながら何もできない滝川、各個人では人間らしく生きようと望みながらも組織に従わざるを得ない新選組隊士……と、それぞれの描写が丹念。市井の人々を描こうとした山中貞雄の原案を生かそうとした仲間たちの思い入れが伝わって来る。
 表面ではいがみ合いながらも、心の底では家族を思っている大原屋一家の描き方が実に良い。抜け目ない商人風の中村翫右衛門も面白いが、芸妓お咲の山田五十鈴が圧巻。滝川らと絡む時の表情の演技が素晴らしい。新選組の松永と淡い想いを交わす次女役に高峰秀子。

 映像(撮影:河崎喜久三)は、江戸時代の家の中の暗さがよく再現されていて、昼間の映像は時々意外なほどシャープなものがあったが、所々暗すぎるところもあった。現存フィルムは、まずまずな映像の状態に対して音が今ひとつなのが残念。(2004/01/18)

花つみ日記 はなつみにっき
監督 石田民三
公開年 1939年
評点[A’]
感想  今日は、高峰秀子主演の『花つみ日記』を観た。監督は石田民三で、昭和十四年(1939)の作品。

 東京から大阪に引っ越してきた佐田みつる(清水美佐子)は転入した女学校で篠原栄子(高峰秀子)に声をかけられ、たちまち親友同士になる。二人は女生徒たちの憧れの的である梶山先生(葦原邦子)にも目をかけられるようになるが、ふとしたことから気持ちの行き違いが生じ……。

 吉屋信子の少女小説の映画化(脚本:鈴木紀子)。オープニングに別格扱いで「高峰秀子 主役」と出たのに続いて「葦原邦子 特別出演」とあったので誰かと思って検索してみたら、戦前の宝塚を代表する女優の一人だった人らしい。知らんかった。
 冒頭で女学生たちが一斉に歌を歌いながら掃除するシーンで、彼女たちが頭に幅広の白い鉢巻をしているのが見事なアクセントになっているのに始まって、全体に女学生に対する愛情に満ち溢れた描写で一貫している。今風に言えば女学生“萌え”映画ということにでもなろうか(笑)。
 少女たちの同性愛的な友情(実際、男女間の恋愛の代償でもあったろう)や先生への思慕が、見ている方がちょっと恥ずかしくなるくらい非常にストレートに描写されていて、昔の日本人はなんとナイーブだったことよと思わされるが、その描写の細やかさは、石田監督の力量だろう。その他、一人が歌を唄いだすと他の人々がそれに和するというシーンがいくつかあり、ちょっとミュージカル映画的な要素もある。
 当時の大阪の生活ぶりが丹念に映し出されているのも資料として興味深い(撮影:山崎一雄)。特に、人力で引っ張るリヤカー式の散水車が面白かった。(2006/02/07)

暖流 だんりゅう
監督 吉村公三郎
公開年 1939年
評点[A]
感想  今日、横浜のとある映画館で「さよなら松竹大船撮影所」とかいう企画ものの2本立て上映を観てきた。古い松竹作品なので、観客は年寄りばっか(笑)。

 『暖流』は昭和14年(1939)の古〜い作品。ノモンハン事変の年だ。

 経営が悪化している大病院に改革のメスを入れるため、院長によって抜擢された剛直な青年実業家(佐分利信)とその腹心となって病院の内部を探る看護婦(水戸光子)、今までに見たことの無いたくましい男性の佐分利信に惹かれる院長令嬢(高峰三枝子)と看護婦に手を出していながら令嬢を狙うエリート外科医(徳大寺伸)等々…の人物が繰り広げる人間模様といった感じで、病院ものの元祖ですな。
 なんかキザなオ写真(活動写真)で、お嬢サマの高峰三枝子は「…でございます」とか「ごめんあそばせ」とか言ったりする(笑)。カメラワークなども、手や足をクローズアップしたり、カメラを90度以上パンさせたり、当時としては新しいテクニックがこれでもかというほど用いられていた。そういえば何かの本で、これが初監督だった吉村公三郎は「この作品ほど酔っぱらって撮ったものは無い」という意味のことを言った、と書かれていたなぁ。
 現在の映画の手法は1930年代に確立されていた事実を再確認。多少人物造形の古さやテクニック過剰な部分が目につくところもあるが、映像表現は今でも通用するし、特に俳優の立ち居ふるまいが美しい。戦後2度リメイクされたそうだ。
 これで映像や音がもっと良ければなぁ…。若い頃の佐分利信の台詞回しはイマイチで聞き取りづらかった(笑)。それに、本来は前編と後編に分かれた全180分の大作だったのに、現在残されているのは127分の総集編だけっていうからしょうもない話だ。一日で前編後編を観るのもキツイけど(笑)。(2000/03/31)

義士外伝 忠僕直助(義士外傳 忠僕直助) ぎしがいでんちゅうぼくなおすけ
監督 国木田三郎
公開年 1939年
評点[B]
感想  今日は、国木田三郎監督の『義士外伝 忠僕直助』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 のちに四十七士の一人となる岡島八十右衛門(尾上菊太郎)が城中で大野九郎兵衛(瀬川路三郎)に恥をかかされると、岡島に仕える中間〔ちゅうげん〕の直助(原健作〔健策〕)は大野に復讐しようとして止められる。怒りを抑えられない直助は岡島のところから出奔して大坂へ行き、思わぬ行動に出る。

 忠僕の代表とされている直助を主人公としたオリジナルストーリー(原作・脚本:江戸川浩二)。
 下僕がこれほどまでに主人に尽くす強い“忠義心”や主従の関係というものやは現代人、特に戦後の人間には理解しづらいものがあるかもしれないが、原健作の真面目な演技にも助けられ、その志は美しいものであると思わされる。岡島のところから出奔してしまった直助の行動のアイデアも面白い。
 ただし、原健作にはあまり華がなく、ストーリーには意外性がなくトントン拍子で進んでしまうため、全体に少々アッサリしすぎていて地味な印象の作品。ラストシーンはちょっと良いが。(2005/11/03)

鴛鴦歌合戦 おしどりうたがっせん
監督 マキノ正博(雅弘)
公開年 1939年
評点[A]
感想
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 鴛鴦歌合戦 コレクターズ・エディション
鴛鴦歌合戦
コレクターズ・エディション



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鴛鴦歌合戦
鴛鴦歌合戦

 今日は、マキノ正博(雅弘)監督の『鴛鴦歌合戦』を観た。昭和十四年(1939)の作品。

 木刀を作って暮らしている浪人・浅井礼三郎(片岡千恵蔵)は、隣の日傘作りの浪人・志村狂斎(志村喬)の娘お春(市川春代)と仲がいい。しかし、礼三郎は近くに別邸がある大商人の娘おとみ(服部富子)や、かつての同僚の娘・藤尾(深水藤子)にも好かれていてモテモテ王国状態。そんな時、狂斎と同じく骨董品マニアの殿様・峰沢丹波守(ディック・ミネ)が、お富やお春に興味を示したことから騒動が持ち上がり……。

 チョンマゲつけた登場人物の演ずる喜劇をミュージカル仕立てで描いた“時代劇オペレッタ”として名高い作品。ディック・ミネはもちろん、志村喬や片岡千恵蔵まで唄ってくれるのだからたまらない。ただ、マキノ監督の証言によると千恵蔵はちゃんと歌を唄えず(唄おうとせず?)、彼の部分だけは吹き替えだったという。志村喬はかなり上手い。♪さーて さてさて この茶碗〜 ちゃんちゃん ちゃわんと音(ね)も響く〜♪
 脚本家として江戸川浩二という名が記されているが、架空の人物で、その場のノリで撮っていったものだという。昭和十四年という時代は俗に言われているほど暗黒時代ではなく、映画も溝口健二監督の『残菊物語』や吉村公三郎監督の『暖流』などの傑作を輩出した年なのだが、それにしても戦前にこんな楽しい作品が作られているとは感心する。
 映像的にも、日傘が効果的に使われていて楽しい。モノクロだが時には色を感じさせるほど。所々画質が劣化しているのが惜しいが。

 「♪日傘さす人作る人〜 とかくこの世はままならぬ〜」
(2002/06/22)

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