Return to年代順邦画備忘録Top pageHOME PAGE
昭和十六年(1941)

[1] [2]

エノケン・虎造の春風千里 えのけんとらぞうのしゅんぷうせんり
監督 石田民三
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、石田民三監督の『エノケン・虎造の春風千里』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 時は幕末。板前の与之吉(榎本健一)は、自分の育ての親でもある料亭の主人に大怪我を負わせたやくざの親分を殺してしまう。主人とその娘お豊(梅園かほる)の勧めで、せめて実の父親に一目会ってから自訴しようと思った与之吉は旅に出るが、なぜかお調子者の男(中村是好)や謎の浪曲師(広沢虎造)や門付け女(三益愛子)が与之吉にまとわりついてきて……。

 当時人気絶大だったエノケンと浪曲師の広沢虎造が顔合わせした作品(原作:荻原四朗/脚本:岸松雄・山崎謙太・大和田九三)。
 笠がくるくる回るオープニングタイトルが洒落ていて、保存状態が良くて名キャメラマン唐沢弘光の撮影による映像が美しいので、冒頭からちょっと期待させられる。実際観てみると、街道筋の風景がかもし出す戦前映画らしいのんびりした雰囲気がいい感じ。
 ただし、エノケン主演のコメディ映画としては少々テンポが遅すぎるような気がする。今の目で観ると、虎造の浪曲をたっぷりサービスしているのがテンポを損ねた一因だと思う。公開当時の虎造ファンは喜んだかもしれないが。また、落ち着いた石田演出はエノケン映画とは相性が今ひとつなのかもしれない。水準以上の作品ではあるし、浪花節好きの人にとっては佳作だと思うが。(2006/02/06)

昨日消えた男 きのうきえたおとこ
監督 マキノ正博(雅弘)
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、マキノ正博(雅弘)監督の『昨日消えた男』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 江戸は本所のある裏長屋で、大家で金貸しでもある勘兵衛(杉寛)が殺された。彼をやってやると冗談で公言していた文吉(長谷川一夫)・借金のかたとして娘お京(高峰秀子)を取られそうになっていた浪人の篠崎源左衛門(徳川夢声)・挙動不審な居合抜き芸人の松下(鬼頭善一郎)・近ごろ金回りの良くなった錠前師の太三郎(清川荘司)など容疑者があまたあるなか、第二の事件が起こる。

 時代劇推理ドラマといった独特の作品。外国作品にヒントがあるらしいが、私は未読。文吉のケンカ友達の芸者・小富を山田五十鈴が演じていて、長谷川一夫・山田五十鈴主演と最初にタイトルが出る。
 他にあまり類を見ない作品で、長谷川一夫が演ずる文吉のお調子者っぷりが楽しく、徳川夢声などの長屋の住人の人間模様も見事だが、もう少し展開のテンポが速いと良いと思った。また、真犯人は、反則ではないかな? 世評の高い作品だったので、ちょっと期待が大きすぎたのかも。
 個人的には翌年の『待って居た男』の方が好きかな。(2002/11/07)

兄の花嫁 あにのはなよめ
監督 島津保次郎
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、島津保次郎監督の『兄の花嫁』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 モダンなキャリアウーマン原田昌子(原節子)の兄・浩(高田稔)が見合い結婚した。妻・春枝(山田五十鈴)の実家が格式にうるさい旧家であることを見た昌子は、浩を心配して二人の新婚生活を観察する。

 松竹時代以来の島津監督らしい夫婦生活を描いたホームドラマ。登場人物たちの何気ない会話の端々に洒落たユーモアを感じさせる味があり、観ていて思わず微笑してしまう(原案:島津保次郎/脚本:山形雄策)。春枝の実家の人々も多少は類型化しているが、過度に戯画化していないのが良い。
 原節子を始めとする登場人物たちの演技も、しっかりと小市民の演技をしながら大変自然。何か一つ突出したものがあるというわけではなく、全体にバランスがとれた佳作。原節子も高田稔も昌子の叔母役の清川玉枝も皆良いが、あまり登場シーンの多くない江川宇礼雄も印象に残る。
 押し付けがましさが全くなく派手な展開もないのに惹きつけられるものがある佳作。(2005/02/06)

柘榴一角 ざくろいっかく
監督 白井戦太郎
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、白井戦太郎監督の『柘榴一角』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 年老いた浪人・柘榴権太夫(阿部九州男)は、実は公儀の隠密。彼は江戸市中に蔓延する贋金を作っている播磨萬心(大瀬恵三郎)とその黒幕を追っていた。自分の身の危険を悟った権太夫は息子の一角(阿部九州男、二役)に初めて正体を打ち明けて仕事を手伝わせるが、権太夫を仇と狙う若侍・宇家田輝雪(近衛十四郎)が現れて……。

 『富士に立つ影』の白井喬二原作の映画化(脚本:湊邦三)で、戦前に存在した大都映画の現存する数少ない一本。近衛十四郎が主役かと思っていたら、戦後は主に東映で脇役を演っていた阿部九州男が一人二役で大活躍する主人公そのものだったので、ちょっと驚いた。戦後にテレビで人気者になった近衛十四郎もまだこのころは若手俳優の一人だったのか。
 阿部九州男が演ずる好々爺風の老人とのんきな若者は双方ともユーモラスで、一角の妹お鴇(琴糸路)もいかにも世間知らずのお嬢さんという感じで楽しい。宇家田輝雪の近衛十四郎も、堅物のようでいて戦後の作品で見せたユーモラスな雰囲気も漏らしている。対する敵方のキャラがあまりはっきりせず、悪役としての魅力にも欠ける。脚本で描かれていないのか、フィルムに欠落があるのか……。
 序盤から中盤にかけてはちょっと展開がもたついているが、中盤に宇家田輝雪が登場してからは話が生き生きと動き始める。映像も時々凝ったところがあり(撮影:広川朝次郎)、殺陣も時々コマ落としが混じるものの全体にスピーディー。

 惜しむらくは、現存プリントは台詞が聞き取れないところがあるくらい音声の状態が最低なこと。観る側がストーリーや設定を類推せねばならないところがあるほどで、音声の状態が良かったら、ユーモラスな雰囲気とアクションの双方を楽しめる娯楽作として、より高く評価できるのだが……。(2005/06/28)

みかへりの塔(みかえりの塔) みかえりのとう
監督 清水宏
公開年 1941年
評点[A’]
感想
Amazon
みかへりの塔
みかへりの塔

 今日は、清水宏監督の『みかへりの塔』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 若き日の笠智衆が主演。盗癖・虚言癖・放浪癖・不良行為など問題行為のある児童を預かって、家庭の形をとった集団生活と労働で更正させる山の中の学園の物語。そこに送られてきた金持ちの娘と彼女に振り回される保母(三宅邦子)や、虚言癖とイタズラが改まらない悪ガキと教員(笠智衆)などを中心としてストーリーは進む。
 今観ると“いい話”過ぎてチョット困ってしまうような所もあるけれど、全体として極めて真面目に作られた作品。身体障害者などを単にネタとして使う昨今のテレビドラマとは志が違うやね。(2000/05/15)

戸田家の兄妹 とだけのきょうだい
監督 小津安二郎
公開年 1941年
評点[A]
感想
Amazon
小津安二郎 DVD-BOX 第三集
小津安二郎
DVD-BOX
第三集

 今日は、小津安二郎監督の『戸田家の兄妹』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 資産家の戸田進太郎(藤野秀夫)が急逝すると、とたんに家は傾き、邸宅や家財道具一切を手放すことになった。気ままに暮らしていた次男・昌二郎(佐分利信)は中国の天津に渡ることを決意する。未亡人(葛城文子)と嫁入り前の三女・節子(高峰三枝子)は既に独立している長男(斎藤達雄)や長女(吉川満子)・次女(坪内美子)のところに世話になろうとするが、うまくいかない。

 戦地から帰還した小津監督の、『淑女は何を忘れたか』(昭和十二年)以来の作品。松竹オールスターキャストで小津作品としては初めて大衆的にウケた一本だというが、内容の方は小津の人間を見る冷徹な視線が反映されており、シリアス。かなり厳しい作品と言っていいのではないだろうか。
 ものの本によるとアメリカ映画の古典『オーバー・ザ・ヒル』に影響を受けているというが、吉川満子の役柄や台詞は『東京物語』の杉村春子を彷彿とさせるものがあり、粗筋自体も『東京物語』を連想させる。まだ独特なリズムの会話やバストアップの切り返しなどはないが、テーマ的には戦後の小津作品に通ずるものを確立した作品と言える。
 また、昌二郎と安二郎のアナグラムも指摘されていて、兄嫁とうまくいかない母と同居していた小津監督自身の生活もかなり強く影を落としているのかもしれない。なにかと“大人”の小津監督は決して言動に表すことは無かったが、生涯独身だったことといい、相当こたえたのだろうか。(2003/05/10)

 うま
監督 山本嘉次郎
公開年 1941年
評点[A]
感想  今日は、山本嘉次郎監督の『馬』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 岩手の農家・小野田家では、長女いね(高峰秀子)の懇願で馬を飼うことになった。当初、乗り気ではなかった父(藤原鶏太〔釜足〕)や母(竹久千恵子)、弟(平田武)たちも、次第に馬の魅力に惹きつけられていった。そして、訪れた別れの時。

 山本監督の代表作の一つだが、“製作主任”(東宝でのファースト助監督の呼称)として黒澤明が名を連ねていることで有名。野外での馬の放牧シーンを担当したといわれている。
 主演の高峰秀子が、ただ可愛いだけでなく、どこか頑(かたく)ななところのある少女像を好演している。父や母、祖母(二葉かほる)も良い。馬の出産を直接撮らず、見守る家族の表情の変化で間接的に表現するシーンでは、みんな非常に巧みな演技をしている。
 それ以上に、撮影に一年以上かけた長編大作なので、カメラが捉えた戦前の農家の生活や岩手の自然の描写が素晴らしい。撮影者は複数だが(春:唐沢弘光・夏:三村明・秋:鈴木博・冬:伊藤武夫・セット:三村明)、やはり夏とセットの三村明の撮影が素晴らしい。特に暗い農家の中を表現するのは、当時は難しかったと思う。
 冒頭に“東條陸軍大臣”の言葉「飼養者の心からなる慈しみによってのみ優良馬―将来益々必要なる我が活兵器―が造られるのである」という字幕が出て驚かされるが、それ以外は太平洋戦争が始まる年(昭和十六年三月公開)の作品とは思えない、叙情あふれる予想以上の傑作。(2001/12/24)

家光と彦左 いえみつとひこざ
監督 マキノ正博(雅弘)
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、長谷川一夫&古川緑波(ロッパ)主演の『家光と彦左』を観た。昭和十六年(1941)の作品で、監督はマキノ正博(雅弘)。

 徳川家康(鳥羽陽之助)から秀忠(佐伯秀男)、そして家光(長谷川一夫)までの三代に仕えた大久保彦左衛門(古川緑波)。頑固一徹の彦左は、太平の世になって活躍の場を失ったかに見えたが、そんな彼を家光は温かい目で見ていた。

 大久保彦左衛門は江戸幕府の“御意見番”として知られているが、この作品では頑固者としてではなく、時代の流れに取り残された老人という面を強調して描いている。家光が気を使ったりするので、敬老映画みたいに見える部分もあるかも。しかし、お守り役の彦左と「じい」と慕う家光のやりとりは、何か感じさせられるものもある。
 有名な“宇都宮城吊り天井”の場面では、大がかりな建物のセットを爆破して迫力があるので、当時としてはかなりの大作だったのだろう。長谷川一夫は一人二役で踊るシーンも二つあり、これも見もの。
 ただ、画面が暗く解像度が低いので、何をやっているかわかりづらい部分があるのが惜しい。それと、全体に少々テンポが遅めに感じた。(2002/01/03)

元氣で行かうよ(元気で行かうよ/元気で行こうよ) げんきでいこうよ
監督 野村浩将
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、野村浩将監督の『元氣で行かうよ』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 鉱山技師の今井周二(佐野周二)と青木謙(上原謙)は仲の良い同僚で、青木は周二の妹・三枝子(高峰三枝子)と婚約していた。今井は、会社の給仕の少年が金をちょろまかしていたので強く叱ったが、給仕の父親(河村黎吉)が少年とその姉・絹代(田中絹代)に苦労をかけてばかりいることを知る。

 佐野周二と上原謙の上司として佐分利信、その妻として桑野通子まで出演し、脇役も河村黎吉のほか坂本武・笠智衆・飯田蝶子・小林十九二と、おなじみのメンバーが揃っている。役名も俳優の名を用いていることが示すように、松竹オリジナルのオールスター映画(脚本:野村高梧・野村浩将)。
 三羽烏などおなじみの顔合わせで、役名が俳優の芸名なんてちょっと楽屋オチっぽい気がする。しかし、このような作品では俳優の演技や脚本・演出などの安定感があり、佐野周二と上原謙の息の合ったやり取りは観ていて楽しいし、脇役に至るまで演技の稚拙さを感じさせる俳優はいない。会社や家庭のお茶の間をとらえた映像も安定感がある。さすがホームドラマの松竹だと思う。新鮮さや冒険を感じさせてくれる作品ではないが……。
 ただし、笠智衆の役柄が珍しいので、それはちょっと見もの。(2002/05/22)

暁の合唱 あかつきのがっしょう
監督 清水宏
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、清水宏監督の『暁の合唱』を観た。昭和十六年の作品(1941)。

 高等女学校を出た斎村朋子(木暮実千代)は女子専門学校への進学をやめ、なんと運転士志望でバス会社に就職する。しかし、まずは車掌をやらされ、そこで様々な小事件に遭遇したり、彼女を見守る会社の浮田兼輔 (佐分利信)や彼の友人の小出三郎(近衛敏明)などの人々と出会う。

 石坂洋次郎の原作(脚本:斎藤良輔)。戦後、同じ原作で2本作られているようだ。
 私が今まで観たことのある木暮実千代の出演作は全て戦後のものだったので、彼女はお色気たっぷりの年増女というイメージしかなかったが、さすがに戦前作だと若々しい少女。それでも、田舎の十代の少女にしては、どこか華やかな印象をのぞかせているような気がする。
 清水宏監督のバスものというと、代表作の一つ『有りがたうさん』が思い出される。バスの乗客の群像を描いている点ではそれに似た雰囲気があり、純朴そうに見せかけていながら小ずるい老婆(飯田蝶子)や花嫁さんなどのエピソードが面白い。
 しかし、バスの外のエピソードも多く、会社の中での人間関係や、主人公と浮田と小出たちとの微妙な関係も、極端さを避けた淡々とした筆致だが細やかに描かれていて、心に残る。観賞後の後味の良さは他の清水作品に共通するところ。(2004/02/05)

[1] [2]

昭和十六年(1941)
掲示板 Return to年代順邦画備忘録Top pageHOME PAGE