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昭和十六年(1941)

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維新前夜 いしんぜんや
監督 渡辺邦男
公開年 1941年
評点[C]
感想  今日は、渡辺邦男監督の『維新前夜』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 水戸斉昭(高堂国典)のブレーンで尊皇攘夷論者の代表である学者の藤田東湖(月形龍之介)が襲われた。弟子の小谷虎之助(黒川弥太郎)が刺客を捕らえると、それは千葉周作(岡譲二)の娘・千葉真葛(桜町弘子)だった。その裏には、大奥で将軍を押さえている歌橋の局(沢村貞子)と筆頭老中・阿部伊勢守正弘(江川宇礼雄)の政争があった。

 題名通り幕末、黒船来航直後の混乱する江戸が舞台の作品(原作:貴司山治/脚本:渡辺邦男)。しかし、主役が藤田東湖か阿部正弘か千葉真葛なのか、どれも描写が中途半端ではっきりしないし、彼らが結局のところ何をやりたいのかよくわからないのでストーリーも不明瞭。なんだか皆が真面目にお国のために働こうとしているというのはわかるのだが。
 真葛の出生の秘密というのもストーリーの柱だが、それもあまり上手く料理されていないので娯楽性を得ることにも成功していない。今だったら真葛中心の脚本になるところだが、この作品の製作当時では、それは難しかったのだろうか。(2005/05/29)

巷に雨の降る如く ちまたにあめのふるごとく
監督 山本嘉次郎
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、エノケン主演の『巷に雨の降る如く』を観た。監督・脚本は山本嘉次郎で、昭和十六年(1941)の作品。

 紙芝居屋の金ちゃん(榎本健一)と同じアパートに住む流しのアコーディオン弾きの碌さん(月田一郎)は親友同士。ある日、金ちゃんはワケあり風のカフェーの女みどり(山根寿子)を助けて世話するうちに、彼女が好きになってしまう。

 カラカラ回る風車(?)から洗濯物を映すファーストシーンからちょっと洒落た感じで、洋画っぽい雰囲気がした。粗筋はあまり目新しいところのない人情噺だが、映像に漂うモダンな雰囲気が過度に湿っぽくなることから免れさせているのかもしれない。題名通り雨の降るシーンが多く、しばしば雨が流れる地面が映し出されるのが印象的。黒澤明作品の雨の描写は、師匠の影響を受けたのだろうか。
 エノケン主演だが、この作品ではコメディ色は一切なく、シリアスに徹している。しかし、終盤に見せる身体を張ったアクションシーンに凄みを感じさせられた。一切スタント無しのように見えるので。
 ストーリーは少々ありきたりな感があるが、映像(撮影:唐沢弘光)とエノケンの演技で魅せてくれる佳作。山本監督の堅実な演出の手腕もあるだろうか。また、アパートの住民たちの描写も面白い。

 戦前の作品としては絵も音も非常に状態が良いので観やすい作品だった。(2003/12/06)

 かんざし
監督 清水宏
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、清水宏監督の『簪』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 ある湯治場の旅館に、足の悪い納村(笠智衆)と気難しい学者先生(斎藤達雄)と商家の若夫婦(日守新一・三村秀子)、そして老人(河原侃二)と孫二人(横山準・大塚正義)の計四組の長逗留客がいた。学者先生は退屈しのぎに宿や他の客に文句をつけてばかり。あるとき、簪(かんざし)が縁で、その持ち主である若い女(田中絹代)が納村をたずねてくる。

 井伏鱒二の『四つの湯槽』が原作だというが、完全に『有りがたうさん』や『按摩と女』といった清水監督の湯治場ものの雰囲気に沿った作品になっている。昭和十六年の作品だが、まだ戦時色はゼロ。太平洋戦争開戦前だから当然かもしれないけど、納村が傷痍軍人(戦争で負傷して後遺症が残った元軍人)ということも、解説なしで観たら全く気づかないだろう。
 斎藤達雄の演ずる学者先生のキャラが実に強烈で、一緒に出るシーンでは笠智衆を完全に食ってしまっている。しかし、学者先生や商家の若旦那(日守新一)などが繰り広げるコントのような会話が、あまりしつこくなく、湯治場ののんびりした雰囲気を崩さない程度で押さえられているのが良い。児童映画でも有名な清水監督らしく、子供キャラの使い方も上手い。
 清水作品らしく作中のキャラ同士の人間関係が実にアッサリしているが、後味のよさが残る作品。丸木橋や石段などの風景の使い方も巧み。(2003/09/15)

赤い手の娘達 あかいてのむすめたち
監督 小田基義
公開年 1941年
評点[B]
感想  今日は、小田基義監督の『赤い手の娘達』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 ある漁師町の娘お浜(櫻町公子)は家族を漁の事故で失ったため、紹介されて東京の槇博士(汐見洋)の家に女中奉公に出た。田舎者丸出しのお浜は周囲との摩擦が絶えないが、画家の島田(月田一郎)や女中の同僚など、彼女の真価を認める者たちもいた。

 山出し(この作品は海だが)の娘が都会のブルジョアの家に奉公して、その純朴さに周囲が戸惑い、やがて感化されるという女中もの(お手伝いさんもの)の一作。展開は予想通りで目新しいものはないが、主人公の演技がわざとらしくなく、また田舎者をことさら滑稽に描いているわけでもないため、抵抗なく観ることができた。櫻町公子という人は出演作は少ないが、この一作を見た限りでは結構いい女優だと思う。上映時間が1時間強で、小品の佳作といった印象。
 太平洋戦争直前の作品だが、それらしい匂いは一度だけ「時局」という台詞が出てきたのと、子供たちが合唱する歌にそれを感じたくらい。(2003/08/26)

エノケンの爆弾児(エノケンの爆彈兒) えのけんのばくだんじ
監督 岡田敬
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、エノケン主演の『エノケンの爆弾児』を観た。監督は岡田敬で、昭和十六年(1941)の作品。

 かんしゃく持ちの健吉(榎本健一)は、決して短気を起こすなと瀕死の父(榎本健一)に戒められ、都会に出て大きな骨董屋に奉公した。その店では、番頭(柳田貞一)と易者(中村是好)が組んで御隠居の婆さん(榎本健一)に取り入っていた。

 予備知識が全くなかったので、この題名は“時局”を反映したものかと思っていたら、かんしゃく持ちという意味だった。
 エノケンが一人三役を演じて大活躍。キャラがそれぞれ立っており、全体の展開もドタバタ的でなく、いくつか大きなアクションシーンがあるという感じでメリハリがある。ところどころチャップリン映画からの影響というかパクリに近いシーンがあるが、それもまた楽しい。
 占いや迷信を否定して科学を推奨するというテーマは、当時の時代風潮に合わせているのだが(「科学する心」という台詞が出てくる)体制協力的な雰囲気はなく、最先端の病院に巨大な正体不明の医療機器があったりして、その科学も戯画化されている。
 爆発力はあまりないが脚本の巧みさとエノケンの芸達者ぶりを感じさせる一本(脚本:山崎謙太・志村敏夫)。(2005/10/24)

秀子の車掌さん ひでこのしゃしょうさん
監督 成瀬巳喜男
公開年 1941年
評点[A]
感想  今日は、成瀬巳喜男監督の『秀子の車掌さん』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 甲府を走る甲北乗合自動車には、運転手の園田(藤原鶏太〔釜足〕)と車掌おこま(高峰秀子)が走らせるおんぼろバスが一台きり。とてもライバル会社にはかなわず、おこまはバスガイドとして乗客に名所旧跡の案内をすることを思いつく。その文案を会社の近所の旅館に逗留している作家の井川(夏川大二郎)に頼むと、すぐさま書いてくれたが……。

 原作は井伏鱒二の 『おこまさん』(脚本:成瀬巳喜男)。高峰秀子の成瀬作品初出演だという。成瀬監督と高峰秀子は縁が深いイメージがあるので、昭和十六年の段階まで出演していなかったのが意外だ。
 55分ほどの小品だが、顔が真ん丸でまだ少女っぽい高峰秀子と人の良さそうな藤原釜足、浮世離れしているような小説家を演じた夏川大二郎とバス会社のセコい社長を演じた勝見庸太郎、皆良い。監督の細かい演出によって各キャラクターも各々の行動で的確に性格を表現されている。
 田舎道をバスが走る風景から最初の方は清水宏作品を一瞬連想したが、成瀬監督だけあって市井の庶民をちょっと皮肉な視点からリアルに描いている。かといって嫌味なのではなく、この作品ではキャラのセコさが愛嬌になっているように見えた。ラムネかけかき氷、美味そう。
 しかし、終盤では一転してドラマティックな(?)展開。『流れる』に似ているという説を見かけたことがあるが、そうかもしれない。だが私は、おこまと園田なら大丈夫だろう、と思った。
 原作のおかげでもあるのかもしれないが、非常に密度の高い短編の良作。原作も読みたくなった。(2005/04/12)

指導物語 しどうものがたり
監督 熊谷久虎
公開年 1941年
評点[A’]
感想  今日は、熊谷久虎監督の『指導物語』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 国鉄の老機関士・瀬木(丸山定夫)は、定年を数年後に控えた自分が窓際に追いやられているような疎外感を覚えていたが、久しぶりに陸軍の鉄道部隊の新兵・佐川新太郎(藤田進)の指導を任されたので大いに喜ぶ。瀬木は同僚の田町機関士(藤輪欣司)と彼が指導するインテリ兵士の草野(中村彰)に対抗意識を燃やしながら、佐川を厳しく鍛えていく。

 当時の鉄道省と陸軍省が協力して作られた作品だという(原作:上田広/脚色:沢村勉)。それだけに、実物の線路や蒸気機関車を存分に使って作られていて、蒸気機関車の力強さ・重量感は素晴らしい。ただ撮るだけではなく様々なアングルが工夫されていて、撮影監督の宮島義勇(義男)の技量を感じさせる。
 まず映像の素晴らしさが先に立つ作品だが、内容的にも主人公の瀬木のキャラクターが面白い。“師弟もの”の範疇に入る作品だけれども、瀬木は機関車の運転のことしか頭にない。頑固というか、むしろ作品の中で最も大人気〔おとなげ〕なく子供っぽい性格になっている。かといって不快なキャラになっているわけではなく、彼が誠実に職務を果たしているのであり、佐川を思っているということも充分に伝わってくる。
 しかしながら、国策映画として作られたため、その部分が今の目で観ると気になってしまうほど多いのが惜しい。それも、申しわけ程度で体制協力的メッセージを入れたというのではなく、監督自身が国粋主義団体を主宰していたほどなので、出征場面が何度も挿入されたり、果ては瀬木の娘の一人が寝言で軍国歌謡を唄うのは明らかにやりすぎ。インテリ批判・反教養的な部分も目につく。
 『阿部一族』などの傑作を作ったり、この作品も観るべきところが多いので、熊谷監督がもっと自分自身を強く持っていれば大成して映画史に残る巨匠になったんだろうな……と思うと残念。この作品では生真面目なテーマの中にユーモアさえ感じさせてくれる部分もあったので、才能のある人だったと思うのだが……。
 瀬木の長女として原節子が出演。主演級ではないが、印象は強い。(2005/07/08)

川中島合戦(川中島合戰) かわなかじまかっせん
監督 衣笠貞之助
公開年 1941年
評点[A]
感想  今日は、衣笠貞之助監督の『川中島合戦』を観た。昭和十六年(1941)の作品。

 永禄四年。上杉謙信(市川猿之助、のち市川猿翁)と武田信玄(大河内傳次郎)は、また信州の川中島付近で闘うことになった。上杉勢の大荷駄(輸送隊)の組頭・貝賀孫九郎(市川猿之助、二役)は百蔵(長谷川一夫)ら小者を率いて物資輸送のため奮闘する。

 溝口健二監督の『元禄忠臣蔵』と同じく、国民のナショナリズムを高揚させるためチャンバラ時代劇ではないリアルな歴史映画を作ろうという政策のもとに作られた作品の一つ。脚本は棟田博と衣笠貞之助。棟田博は『拝啓天皇陛下様』などの兵隊小説で有名な作家だが、確か長谷川伸の門下にあった人なので時代小説・歴史小説の造詣もあるのだろう。
 しかしながら、この題名や製作事情から大スペクタクル戦国合戦絵巻と思っていたら大違い。出世コースから外れてしまい輸送部隊に回されながらも忠義一途に働く人情篤き組頭と士分にも入らない小者たちが主役で、終盤までは合戦場に至るまでの行軍シーンがほとんどを占める。
 組頭と百蔵らが苦闘する行軍の過程はドキュメンタリータッチと言っていいほどリアルで、彼らにたっぷりと感情移入したあとに訪れる黒澤映画もびっくりの大合戦シーンは時間的には短いものの、それがかえって効果的。非常にアッサリとしているが、ダラダラ流すよりもよほど印象に残る。
 なんといっても人情家の組頭と威厳ある謙信を演じた猿之助が良い。素朴な若者を演じた長谷川一夫や信玄の大河内傳次郎も悪くない。百蔵たちに助けられる旅の女お篠(山田五十鈴)というキャラクターは途中までは余計に思えたが、ラストシーンで良いスパイスになっている。
 それにしても、今から観るととても戦意高揚には繋がらない作品なので、よく検閲を通ったものだと思うが、“滅私奉公”の精神を描いたものとして評価されたのだろうか。娯楽性はちょっと低いかもしれないけれども静かな迫力を感じさせる、現在でも価値を失わない一作。

 昔の映画の夜間シーンは何をやっているのかわからないこともあるが、この作品ではシャープに上手く表現していて、作品の価値を高めることに貢献している(撮影:三浦光雄)。保存状態が良く欠落もないのが嬉しい。(2004/11/23)

元禄忠臣蔵(元祿忠臣藏) げんろくちゅうしんぐら
監督 溝口健二
公開年 1941年
評点[A’]
感想
Amazon
元禄忠臣蔵(前篇・後篇)
元禄忠臣蔵

 今日は、先日Amazon.comでDVDを買ったThe 47 Roninこと『元禄忠臣蔵』を観た。溝口作品を観たいと思ったので。

 この作品、“原寸大セット”を初めとする厳密な時代考証を語られることが多いが、改めて観直してみると(二度目の鑑賞)、原作の真山青果の戯曲でも演じられることの多い幕の「綱豊卿御浜御殿の場」が面白い。綱豊を演ずる市川右太衛門が良い。
 それと、“討ち入りなしの忠臣蔵”として名高いこの作品で、大石内蔵助(河原崎長十郎)が浅野内匠頭未亡人の瑶泉院(三浦光子)のもとに暇乞いに訪れ、そののち夜半に戸田局(梅村蓉子)が討ち入りを報ずる吉田忠左衛門(助高屋助蔵)の書状を読み上げるまで、なかなか緊迫感が合って良い。ただ、『忠臣蔵』について予備知識
の無い人はワケわからんかも。
 そして討ち入り成就からラストシーンまでは、義士切腹前夜の芸づくしは感動させれるけれども、切腹当日に おみの(高峰三枝子)という人物が現れるのは、なんとかならなかったものか。原作にあったとしても…。

 この作品、大石内蔵助を初めとして武士というものの姿が描けていると思うし、厳密な考証と出演者の押さえ気味な演技でドキュメンタリーフィルムのような雰囲気もあるが、やはり長すぎるのと『忠臣蔵』の予備知識が無いと理解しづらいのが難点か。それと、音質が悪いのが惜しい。(2002/01/01改稿)

蘇州の夜 そしゅうのよる
監督 野村浩将
公開年 1941年
評点[C]
感想  今日は、李香蘭(山口淑子)主演の『蘇州の夜』を観た。監督は野村浩将で、昭和十六年(1941)の作品。

 日本から上海の病院に赴任した医師・加納(佐野周二)は、意欲的に現地の中国人の治療をおこなうが、ある孤児院の日本人嫌いの保母・梅蘭(李香蘭=山口淑子)は彼に反発する。しかし、彼女は加納の真摯な姿勢を見て、次第に彼に惹かれていく。だが、二人の行く道は険しいものであった。

 太平洋戦争勃発直後に公開された、当時の言葉でいう“日支親善”映画。粗筋は、この種の映画のお約束的なもの(原作:川口正太郎/脚色:斎藤良輔)。梅蘭の同僚(葉苓)がド下手な日本語の台詞を喋ったり、梅蘭の婚約者は日本人(高倉彰)が演じていて日本語ペラペラだったり、なんか変なところがある。
 今観ると、むしろ資料的な価値が高いかもしれない。当時の上海市街の実写や郊外の様子を見ることができるので。
 これまで李香蘭こと山口淑子の作品を何作か観て、彼女は演技力よりも現代的な容姿と華やかな雰囲気で魅せる女優だったのかな、と思ったりした。(2002/04/25)

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