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昭和十八年(1943)

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秘めたる覚悟(秘めたる覺悟) ひめたるかくご
監督 滝沢英輔
公開年 1943年
評点[B]
感想  今日は、滝沢英輔監督の『秘めたる覚悟』を観た。昭和十八年(1943)の作品。

 銀座の洋食屋の娘おしず(山田五十鈴)は、母を早く亡くし父(志村喬)を助けて実質的に店を切り盛りしていた。妹(羽島敏子)に縁談が持ち上がる中、父はおしずのことを心配し、彼女も幼なじみの阿部文雄(長谷川一夫)に思いを寄せていたのだが、家のことを考えると気持ちを表に出せず……。

 成瀬巳喜男・山形雄策・滝沢英輔・岸松雄の四人が“成山英一”の名義で脚本を書いた作品。
 この作品は、冒頭からおしずが代用食を工夫した献立を考案したり、国民服を着ている男性がいたり、阿部などの銀座の会社員が背広を着ていても頭は七三分けのポマードべったりではなく坊主頭だったり、かなり戦時色が濃くなっている。
 滝沢監督の日常生活を写した細やかな演出と山田五十鈴の巧みな演技によって、主題は主人公おしずの阿部に対する“秘めたる想い”であることは、うかがうことができる。しかし、脚本家たちや監督の真意がどうであるにしろ、今観ると登場人物が“良い子”ばかりで体制協力色が強いのが気になってしまうのは、いたし方ないと思う。
 昭和十八年も後半になると、よほど恋愛映画は検閲を通りづらくなっていたのだろうか。ユーモアを感じさせる部分もあるので、丸っきりの大政翼賛映画という印象からはぎりぎり逃れられてはいるが。
 現存プリントの状態が良く、小原譲治の撮影によってまだ若々しい山田五十鈴が生き生きと描かれていて、何よりも彼女の印象が圧倒的な作品になっている。志村喬も悪くないが。(2005/07/28)

海軍 かいぐん
監督 田坂具隆
公開年 1943年
評点[B]
感想  今日は、田坂具隆監督の『海軍』を観た。昭和十八年(1943)の作品。

 昭和九年。鹿児島で中学校(旧制)に通う商家の息子の谷真人(山内明)は、大の海軍好きである親友の牟田口隆夫(志村久)に誘われ、海軍士官になるため海軍兵学校への進学を志す。牟田口は目が悪いため体格検査を通れず挫折してしまうが、谷は見事入学して卒業。特殊潜航艇の乗組員に抜擢され真珠湾を目指す。

 朝日新聞に連載された岩田豊雄(獅子文六)の原作の映画化(脚本:澤村勉・田坂具隆)。松竹が製作した“情報局国民映画”の一本で海軍が協力し、開戦二周年記念の日に公開されている。
 純然たる国策映画のためか、主人公は糞真面目を絵に描いたような人物で、他の男性の登場人物も同様にコチコチなキャラ。真面目ゆえの美しさというものはあるけれども、それ以外の人間的魅力には少々乏しい男性陣に対して、主人公の母(滝花久子)や姉(風見章子)そして牟田口の妹(青山和子)といった女性キャラは自然に描けているのが印象的だった。
 姉と妹たちは感情をあらわにするし、主人公の母も理想化されてはいるものの息子が兵学校に行きたいといった時や開戦の報を聞いたときに一種不安げな表情をするのが印象的。終盤で再び描かれる食事の場面も感動的だ。
 序盤から中盤にかけては、鹿児島にある海軍に関する名所旧跡(東郷平八郎出生の地や墓所など)の紹介のようなシーンが続いて、いささか退屈。中盤は兵学校でのカッター訓練の躍動感が見事で兵学校の実写映像も興味深いが、訓練シーンがもっと欲しかったと思う。終盤は、特殊潜航艇の訓練風景などが見られると思ったら、ほとんどなくて期待はずれ。機密保持のためか。特撮も東宝の『ハワイ・マレー沖海戦』などに比べると今ひとつ。
 また、フィルムがアメリカに接収されたときに切られてしまったとのことで、尻切れトンボになっているのも残念。

 主役級の三人(谷・牟田口・牟田口の妹)は新人ながらも自然な演技で、女性キャラクターの描写や主人公と母親との触れ合い、兵学校での訓練シーンなど光るものがあるだけに、やはり制約が映画を硬くしてしまっているようで惜しい気がする。監督としては挫折した牟田口の方も、もっと突っ込んで描きたかったのではないだろうか。(2005/03/04)

浪曲忠臣蔵(元禄あばれ笠) ろうきょくちゅうしんぐら
監督 石田民三
公開年 1943年
評点[B]
感想  今日は、石田民三監督の『浪曲忠臣蔵』を観た。昭和十八年(1943)の作品。

 かつて浅野内匠頭の怒りを買って浅野家を辞した浪人・不破数右衛門(坂東好太郎)は大石内蔵助(月形龍之介)の計略も知らず、江戸で町人と化したような旧浅野家家臣をののしってしまう。一方、腕が評判の槍の師範・俵星玄藩(黒川弥太郎)の元には吉良家からの仕官の誘いがきていた。

 題名にあるように、所々ナレーションのように浪曲が流される(浪曲:廣澤虎造・梅中軒鶯童・壽々木米若)。廣澤虎造は不破数右衛門の隣人として出演もしている。もう一人の隣人として柳家金語楼も出演。俵星玄蕃の妹役に山根寿子、内匠頭未亡人・瑤泉院の役で花井蘭子が出演。
 内容も浪曲的な創作性の強い逸話を繋ぎ合わせ、不破メインの「天の巻」・俵星が主役の「地の巻」・“南部坂雪の別れ”から討入り後までの「人の巻」の三部構成(脚本:加戸野恩児=石田民三の筆名)。
 やはり構成に多少の無理があるが、講談ネタを基にしながらキャラクターの設定を脚色して各エピソードをまたがる人物を登場させ一本の作品にしようとしている工夫は感じられる。エピソードが上手く繋がっていないように見えるのは、製作当時は上映時間70分以上だったのに戦後の再公開版(『元禄あばれ笠』に改題)では57分ほどになってしまっているのが一因かもしれないが。
 出演者で最も印象に残ったのは、主役級の阪東好太郎でも黒川弥太郎でもなく、コミックリリーフの廣澤虎造でも柳家金語楼でもなく、大石内蔵助の月形龍之介。これ以外の作品の大石内蔵助像は“威厳ある家老”あるいは“頼りない昼あんどん”の二つに大別されるか、またはその二つを併せ持つものだった。しかし月形の内蔵助は、この俳優の個性のためか“南部坂雪の別れ”に至るまで徹底的に心底を隠して何を考えているかわからない怖さがある。他にない異色の内蔵助像だと思う。

 戦中の製作のためか四十七士が勢ぞろいするような大規模な場面は全くなく、苦労したようだ。ただし、討入りシーンはないものの雪が降り積もった江戸の町の遠景が登場する。これは円谷英二によるミニチュア特撮らしい。カメラワークも時々印象的なものがある(撮影:山崎一雄)。アラはあるが悪条件下で工夫した努力が見える作品。(2004/12/14)

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