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昭和二十一年(1946)
殴られたお殿様(毆られたお殿樣) なぐられたおとのさま
監督 丸根賛太郎
公開年 1946年
評点[C]
感想  今日は、市川右太衛門主演の『殴られたお殿様』を観た。監督は丸根賛太郎で、昭和二十一年(1946)の作品。

 旅芝居の一座がつぶれて路頭に迷った中村三津蔵(羅門光三郎)と東家勘平(原健作)は金持ちの御隠居と従者に化けて無銭宿泊をしようと図る。そんな彼らとたまたま連れになった渡世人の夕立金左衛門(市川右太衛門)は圧政に苦しむ農民たちのため一肌脱ごうとするが、たちまち三人は牢にぶちこまれてしまう。しかし、幕府の巡察使が町人姿で領内に近づいているという知らせが届き……。

 終戦直後の時代劇なのでチャンバラはない。それだけではなく、民主主義を啓蒙するメッセージ性が非常に強く、いわゆる“アイデア・ピクチャー”と呼ばれたものの一つなのだろうか。
 なんというか、藩の役人は全員悪人で愚か者のようにカリカチュアライズされていて藩主は事なかれ主義、対する農民町人は虐げられている被害者と、見事なまでにステレオタイプ化されている上に、右太衛門は藩主や役人たちを面罵し農民町人をアジってオルグしてしまうという、お定まりのストーリー。
 現在の視点から観て楽しめという方が無理だと思うが、原作・脚本も担当した丸根監督はどういう思いで作ったのだろうか。思い切り内容をステレオタイプ化し、キャラをカリカチュアライズしたことで皮肉っているのかな……どうもわからない。類似の画面をリフレインする手法は面白かった。(2004/08/11)

幸運の仲間 こううんのなかま
監督 佐伯清
公開年 1946年
評点[C]
感想  今日は、エノケン&シミキン主演の『幸運の仲間』を観た。監督は佐伯清で、昭和二十一年(1946)の作品。

 失業中の啓一(榎本健一)と勘太(清水金一)の二人はおっちょこちょいの臆病者。幼なじみの食堂カロリー軒の娘お新(山根寿子)が励ますが、何をやっても長続きしない。そんな二人の前に謎の娘・幸子(池眞理子)が現れると、二人は俄然はりきりだすが……。

 浅草オペラ出身の喜劇役者である榎本健一と清水金一が顔合わせした作品。
 終戦の翌年の作品で、序盤に民主選挙をPRするようなエピソードがあり、それに加えて全体のテーマは失業者あふれる中で仕事を選ばず働こうという勤労のメッセージのようだ。ただし、喜劇仕立てなので序盤の選挙のエピソードを除けばお説教臭さは薄い。
 しかし、二人が見せるギャグはサイレント時代のスラップスティック調でいかにも古くてテンポも悪く、会話もあまり面白くない。二人と女性二人の関係もお定まりの人情噺風。脚本(山下与志一)と演出の双方に責任があると思う。大物喜劇俳優の二人が主人公なので、対等に描くため気を使いすぎたのかな。
 中盤に二人が歌う民謡メドレーは芸達者さの片鱗を見せてくれる。序盤の選挙エピソードで候補者として高勢実乗が登場するのが戦後映画としては珍しかった。いつもの持ちネタ「アーノネ、オッサン、ワシャカナワンヨ」に似た台詞も言う。(2005/11/14)

女性の勝利 じょせいのしょうり
監督 溝口健二
公開年 1946年
評点[B]
感想  今日は、溝口健二監督の『女性の勝利』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。脚本家の一人に、小津作品で有名な野田高梧が名を連ねている(もう一人は新藤兼人)。

 終戦直後、思想犯・政治犯の釈放によって、弁護士・細川ひろ子(田中絹代)の婚約者だった山岡敬太(徳大寺伸)も出獄することになった。実は、ひろ子の姉みち子(桑野通子)の夫である河野検事(松本克平)が山岡を告訴したという因縁があり、みち子と河野は自らの保身を考えて、ひろ子に山岡と復縁しないよう圧力をかける。その上、嬰児殺し事件の法廷で、ひろ子と河野が対峙することになった。

 溝口健二監督の戦後第1作。終戦とそれによる日本社会の価値観の変動が溝口監督に与えた影響を如実に示している作品。虐げられた女性を描くのは溝口お得意のテーマだが、田中絹代が封建的な社会を告発する演説をしたり、ひろ子の母役の高橋とよが妙に物わかりが良すぎるのが不自然に見える。
 女性を虐げる封建的社会の代表たる男(河野)・自由と民主主義を訴える男(山岡)・封建的社会に従っている女(みち子)・それに抗う女(ひろ子)という、わかりやすい図式のお説教映画。当時としては、こういう作品が求められていたのかもしれないが。ただし、嬰児殺しの女性(三浦光子)を描いている部分は、溝口健二らしい粘っこさを観ることができた。

 まだ旧憲法・旧刑法下の法廷を描いているため、判事・検事・弁護士が古めかしい法衣と法冠ををつけているのを観られるので、資料として貴重かもしれない。映像は所々美しいが(撮影:生方敏夫)、音声の状態が悪いのが残念。(2002/03/12)

天下の御意見番を意見する男 てんかのごいけんばんをいけんするおとこ
監督 木村恵吾
公開年 1946年
評点[C]
感想  今日は、木村恵吾監督の『天下の御意見番を意見する男』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。

 天下の御意見番を自認する大久保彦左衛門(山本礼三郎)は自分の知行地で出会った若者・太助(大友柳太郎〔大友柳太朗〕)が気に入り、江戸の屋敷に連れて帰る。太助は大久保家の中間として働き始めるが、愚直な彼は様々な事件を引き起こす。

 戦地から復員した大友柳太朗の戦後第一作として企画された作品だという。ただし、おなじみの大久保彦左衛門&一心太助ものとはいっても、のちの中村錦之助主演のシリーズなどとは全く印象が異なる作品になっている。
 普通は生きのいい江戸っ子という設定の太助が、前半では世間知らずの田舎者ということになっている。それは良いとしても、妙に武士に対して批判的なのが不自然に感じられる。
 戦後まだ一年も経っていないうちに製作された作品なので、封建制度批判のメッセージ性が強いお説教映画になっている。これも“アイデア・ピクチャー”というやつの一本だろうか。それだけでは済まさないようにコミカルな場面もいくつか作っているが、滑り気味。脚本の依田義賢は戦前の若い頃に思想的なことで特高の取調べを受けたことがある人なので、単に迎合しただけではないとは思うが、お世辞にも成功作とはいえないと思う。
 また、後半になるといきなり太助が江戸っ子っぽくなってしまうのも違和感がある。朴訥な前半は大友柳太朗の柄に合っているが、後半はちょっと無理があるような気がした。(2005/10/05)

或る夜の殿様 あるよのとのさま
監督 衣笠貞之助
公開年 1946年
評点[A’]
感想  衣笠貞之助監督の『或る夜の殿様』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。

 時は明治十九年、鉄道の利権をめぐって商人たちが江本逓信大臣(大河内伝次郎)の滞在する箱根の高級旅館に押しかけていた。そのうちの一人で最も強欲な越後屋喜助(進藤英太郎)を陥れるため、他の商人たちは宿の女中おみつ(山田五十鈴)が見つけた書生風の優男(長谷川一夫)を名家の失踪していた跡取りに仕立てあげた。

 戦後、チョンマゲの時代劇をあまり作ることができなくなっていた時期に長谷川一夫が主演した、明治時代を舞台としたコメディ作。観客には長谷川一夫演ずる書生の正体は丸わかりだから、倒叙形式の推理劇と同じで予定調和を面白く見せる手腕が必要だが、衣笠監督と出演者たちはそれに成功していると思う。お約束の展開も明るく笑える明朗劇。
 長谷川一夫がトランペットを吹くのが有名だが、下手な書生節をがなりたてる藤田進の珍演も面白い。越後屋の娘・妙子を演じたのは高峰秀子で、クラシカルなフリフリのドレスも意外と似合って可愛い。越後屋の妻おくまは飯田蝶子。越後屋をだます男の一人に志村喬。(2001/12/31)

お光の縁談 おみつのえんだん
監督 池田忠雄・中村登
公開年 1946年
評点[C]
感想  今日は、池田忠雄・中村登両監督の『お光の縁談』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。

 銀座裏の食堂「喜太八」の娘お光(水戸光子)は出歩いてばかりの父(河村黎吉)に代わって板前の友吉(佐野周二)と一緒に店を切り盛りしているが、お互い気の強い二人は喧嘩ばかり。そんなところに、結婚して家を出ていた妹(高山八百子)夫婦がやってきたり姉(久慈行子)夫婦も外地から引き揚げてきたりで大忙し。それに加えてお光の縁談まで持ち込まれる。

 戦後まだ1年少々の時期の作品で、1時間2分ほどの短編。それでも共同監督になっているのは早撮りだったのか、あるいは池田忠雄も中村登もまだ演出経験が浅かったからだろうか? 銀座といってもセットは簡単なもので、頑張って撮っている雰囲気が伝わってくる(撮影:生方敏夫/照明:加藤政雄/美術:濱田辰雄)。
 あまりに距離が近いために好き合っている二人が素直になれない……というよくある展開だが、農家になろうとして上手くいかなかった妹夫婦や姉の夫の就職問題など、戦争直後の問題を絡ませている。戦前は二枚目だった佐野周二がねじり鉢巻で板前を演ずるのが意外だが、結構合っていた。水戸光子の気の強い娘も雰囲気に合っているし、河村黎吉の勝手な親父や坂本武の気のいい隣家の親父もお手の物。
 しかし、後半の展開にはどうしても無理があるように思えてしまった。ここだけ戦前っぽい展開というか。のちに大家になった脚本家の新藤兼人も、まだ若書きの感がある。人情噺の中に社会問題を盛り込んだ真面目な脚本であるが。(2004/11/21)

わが青春に悔なし わがせいしゅんにくいなし
監督 黒澤明
公開年 1946年
評点[B]
感想
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黒澤明
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 今日も黒澤明監督の『わが青春に悔なし』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。

 京大法学部の八木原教授(大河内傳次郎)の娘・幸枝(原節子)は学生たちと仲がよく、特に野毛(藤田進)と糸川(河野秋武)と親しかった。昭和八年の思想弾圧で八木原は大学を辞し、野毛は左翼運動に身を投じて投獄され、糸川は学生運動から脱落して検事への道を進み、幸枝は野毛の後を追って苦難の道を歩む。

 京大の“滝川事件”と“ゾルゲ事件”を基にした作品(脚本:久板栄二郎)で、終戦直後の作品らしく、自由と民主主義と女性の自立を謳った作品。
 登場人物の描き方は、“転向”した糸川が、いかにもな悪役になってしまい、幸枝が理想化されすぎた感じで、やはり戦後映画だな、という印象が残る。作品のテーマ的なところよりも、むしろ幸枝が野毛に激しく愛情の告白をするようなシーンに原節子の魅力が出ているように感じた。あと、終盤に原節子が泥の中で田植えをするシーンには、のちの『七人の侍』を彷彿とさせる黒澤作品らしい力強さがあった。(2002/09/02)

歌麿をめぐる五人の女 うたまろをめぐるごにんのおんな
監督 溝口健二
公開年 1946年
評点[A’]
感想
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歌麿をめぐる五人の女
歌麿をめぐる五人の女

 今日は、溝口健二監督の『歌麿をめぐる五人の女』を観た。昭和二十一年(1946)の作品。主演は坂東蓑助。のちの八代目坂東三津五郎で、博学で知られたがフグにあたって亡くなった人だ。

 時は江戸時代の文化文政期。喜多川歌麿は世の通人たちと交わりながら、美しい女を描いて活躍している。彼の絵は男も女も惹きつけて止まず、気性の激しい水茶屋の女おきた(田中絹代)や、狩野派を侮辱されたと怒鳴り込んできたものの逆に歌麿に弟子入りした小出勢之助(坂東好太郎)などによって、様々な人間模様が繰り広げられる…。
 戦後、溝口がテーマに迷っていた時期の作品で必ずしも評価の高い作品ではないが、これが実は面白かった。意外な掘り出し物かも。確かに、主人公の歌麿のキャラが立っておらず周りの登場人物の方が活躍しているが、やはり溝口の女性の描き方は面白い。田中絹代も、進歩的な舞台女優や女壮士を演ずるよりも、この作品での恋に身を焦がす女の方がハマり役では。
 この作品は、女性を描く絵師が主人公なので、どことなく溝口自身が投影されているような気がする。原作者の邦枝完二がこの作品を新聞で批判したら、普段は絶対に雑文を書いたりしない溝口が自分で原稿を書いてラジオで反論したそうだ。のちになっても「これはもっとゆっくり時間をかけて作りたかった写真です」と言っているので、結構思い入れがあるのかもしれない。

 歌麿という名が何を想像させるのか、『歌麿をめぐる五人の女』(Utamaro and His Five Women)は『祇園囃子』(A Geisha)と並んで英語版ビデオの価格が他の作品より高いから面白い。(2000/09/04)

昭和二十一年(1946)
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