Apr.15,97

若き獅子の最期

WBCジュニアフェザー級タイトルマッチ ダニエル・サラゴサVS辰吉丈一郎戦のコト。

 辰吉との第一戦を前に、ダニエル・サラゴサは「老いた獅子と若い獅子の戦いになるだろう。」と語った。そして一年あまりが過ぎた1997年4月14日もまた老いた獅子と若い獅子の戦いになった。 しかし、悲しむべきことに、老いた獅子が衰え、若い獅子は溌剌としているはずだという当然予想されるべき前提が、この試合には当てはまらなかったのである…。

 第一ラウンド、若い獅子は初戦とはうって変わって足を使い、左へ左へと回り続ける。まだキバと爪をむき出しにするようなことはせず、軽く速い左を多く突いて、老いた獅子の様子を探ろうとする。
 サウスポースタイルの老いた獅子は第一戦では、第一ラウンドにいきなりの左ストレートで若い獅子に深手を負わせたのであるが、若い獅子が前回とは異なることを十分知っており、慎重にプレッシャーをかけながら相手の様子を見る。
 第二ラウンドも若い獅子は、かつて見られなかった高いガードの構えから左を突き、左に回るフットワークを使い続ける。老いた獅子は右リードからの左を狙うが、辰吉が左に回ってよけるため、しばしばミスする。

 ここまで見て、若い獅子に喝采を送る人々は安堵したことだろう。

 だが、老いた獅子がこのままで終わるはずがない。一・二ラウンドが終わると、辰吉の左回りのフットワークを読んだサラゴサは、強い右を、回り込もうとする辰吉の顔面に突きつけ始めた。 それによって辰吉の動きが止まると、すかさず左を飛ばす。その左を辰吉はよけきれない。第一戦ほどには真っ正面からもらわないものの、横っ面や側頭部をしばしば弾かれる。
 辰吉は思い切って踏み込んで右を当てようとする。サラゴサはクリンチで攻撃を寸断し、大降りの左・真っ直ぐな左ストレートを交えて辰吉に叩きつける。 途中、サラゴサが頭部をカットして手負いの獅子となる。辰吉の方は、心配の的である左目の上を小さくカットしたが、大きな腫れもない。
 サラゴサの左は多くヒットするのだが、さほど辰吉にダメージが見られないのは衰えゆえか。しかし辰吉のパンチも時折ヒットするものの、連打を放つことができない。そして何よりも、パンチが当たってもサラゴサの動きを止めることができない。
 サラゴサの巧みなディフェンスとクリンチをを差し引いても、辰吉に対して疑念が残る。すなわち、若き獅子は老いた獅子以上に疲れ、衰えていたのではないか?
 老いた獅子は終盤の十ラウンド以降、目に見えてスローダウンし、パンチを放っては相手に体をあずけてクリンチした。若い獅子は左右アッパーをボディに、右ストレートを顔面へとヒットする。だが、それは十分な効果を生むことはない。

 そしてついに最終回を迎えた。始まってすぐ、二人はもつれ合い、サラゴサが辰吉をすくい投げで転倒させてしまう。レフェリーのアーサー・マーカンテは反則行為と宣言し、サラゴサから減点をとる。
 この時、老いた獅子が咆吼した。自らの疲れと老いを忘れ、昔日のように牙をむいて威嚇したのだ。対する若い獅子はというと、緩慢に立ち上がりながら呆然と相手に視線を向けているだけであった。
 そして最終ゴングが打ち鳴らされた。手際の悪い集計の後のアナウンスは「勝者サラゴサ!」。

 敗者は、無表情のまま判定を受け入れた。ドクターストップに対して悔しさを露わにした昨年とは、全く異なっていた。

 若い獅子はかつての牙も爪も失っていた。老いた獅子以上に戦いに対して疲れていた。若き獅子が体を痛めることなく最期を迎えられたことに、ただ安堵しよう。

12月24日付補遺

 …とまぁ、4月にこんなコトを書いてしまったわけだが、御存知の通り、辰吉丈一郎は11月22日にヨックタイ・シスオーを文句無しのKOで破って王座に復帰した。獅子は蘇った。天使の翼は折れていなかったのだ。ただただ私の不明を恥じ入るほか無い。自分の誤りを隠す気はないので、この文章は残す。ただ最後に一言。辰吉選手よ、グレート金山のことを忘れずにいてくれてありがとう。試合後のインタビューを聞いて、初めて心から貴方のファンになったような気がします。

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