Since Jul.15,97

らくが記 340*110 10KB

2001年8月18日:『包丁無宿』――漂泊の料理人・暮流助
「漂泊の料理人」

漂泊の料理人 320*240 18.9KB

フルサイズ 480×640 68.8KB

spacer
spacer
 一年ぶりの「らくが記」更新…。

 最近、 たがわ靖之『包丁無宿』(日本文芸社・全45巻、続編もあるらしい)にハマっている。 この作品は掲載誌が『漫画ゴラク』という、 おやじ向け雑誌だったため、 あまり広く知られていない。 そのあらすじは、 以下の通りである(登場人物は←左のイラストを参照)。

 東京築地の料亭「桐の家」で働いていた板前・暮流助は、 “大日本料理会”が3年に一度主催する料理人の競技会“本膳祭” に「桐の家」主人和木茂十の助板として参加したが、 控室で刺傷事件を起こし大日本料理会を除名され、 師匠の和木茂十も監督責任を問われて職人を抱えることを禁止され、 「桐の家」は閉店同然となってしまった。
 実は、 刺傷事件の相手が大日本料理会会長・ 歌川繁蔵の一人息子である歌川静児であったことから、 歌川繁蔵が兄弟子にあたる和木茂十を失脚させるために仕組んだ罠だったとも言われている。
 「桐の家」を出た暮流介は流れ板となり、 将来を誓い合った和木茂十の一人娘・加代子との再会と 「桐の家」再興を誓って日本全国の料理屋を渡り歩いて旅しつづけている。
 …と、大筋を見るとシリアスなのだが、 和木茂十と暮流助にイヤガラセ(倒すのではなく)をすることが目的としか思えない 歌川繁蔵が差し向ける追手や、 歌川繁蔵と和木茂十の双方を憎んでいる 黒田味右衛門率いる“黒包丁”の刺客(といっても殺し屋ではない) たちと暮流助が繰り広げる料理勝負は時に奇妙キテレツなものがあるために、 稀に『包丁無宿』が話題にされるときでも、 “別の意味”で面白い作品として扱われることが多い。
 例えば、その勝負にはこんなのがある。
  • 崖っぷちに丸太で足場を組み、その上で料理をする。バランスを崩せば転落!
  • 海上に頭を出している小岩の上で料理をする。潮が満ちてくるまでに料理を完成させないと死!
  • なぜか祭で大勢の若者たちが担ぐ神輿(みこし)の上で料理を作る。転落したり料理の材料を落としたりしたら失格!
 その他、 池でタライ舟に乗って料理を作ったり、 地上15メートルの塔の上で料理したり…と色々な料理勝負がある。
 また、作者のワルノリ(?)全開のパロディネタも印象に残る。以下はその一部。
  • 不味いと難癖をつけられていた屋台の料理人を見事に助けた坊主頭の老人。見物人の一人が「お…お願いがございます!!」と声をかける。彼は料理屋の店主で、大日本料理会のイヤガラセで店が潰れそうなので助けて欲しいと頼む。老人は少なくとも七人の料理人が必要だと言い、同志を集め始める。(元ネタ:黒澤明監督『七人の侍』)
  • ある田舎町の外れに来た流助。二股に分かれた道の前で、「さてどちらに行こうか…」とつぶやく。一方の道を行くと、その町では大規模な料理勝負が行われていると聞き…。(元ネタ:黒澤明監督『用心棒』)
  • 老舗料亭の店先に現れた流助。雇うためには料理勝負で腕前を見せてもらう必要があると言われると、流助は「本日は特別なお計らいをもって丹波三郎さんにお相手願いたい」と言う。しかし、丹波は病気を理由に欠勤していた。さらに流助は二人の板前を指名するが、彼らも同じく病欠していた…。(元ネタ:小林正樹監督『切腹』)
  • とある街には井軒(いのき?)と葉場(ばば?)が経営する料理屋2軒があり、彼らは犬猿の中だった。うっかり井軒の店に入ってしまった流助は、最初は井軒親方のストロング・スタイルな経営方針に感心していたが、そのうち板前たちの団体独立抗争に巻き込まれ…。(元ネタ:言うまでもなく新日VS全日)
 しかし、決して誤解してはならないのだが、 この作品の真価は、上にあげたような“別の意味”での凄さではなく シリアスなエピソードにこそあり、 そこには人として学ぶべきことが多い と思う。そこに見られる名台詞には、以下のようなものがある。
  • 料理は水を使い火を使い刃物を使う。水は洪水も同じ!!火は火事も同じ!!刃は人を殺(あや)めるも同じぞ!!(和木茂十が流助を破門したときに与えた教え。作中随所で繰り返される。流助の包丁には「水火刃」と刻まれている)
  • 食を好む者、必ずしも味を好む者にあらず。味を好む者、必ずしも味を知るものにあらず。(作中随所で繰り返される言葉)
  • 月は急流の中にあって流れに姿を映しながらも流されぬ 森やん月だよ!!(第4集「中秋の名月 」より)
  • 帰る所があるのが旅ならば……帰れねえ俺は旅じゃねえ放浪だ……苦界放浪だ……(第12集「苦界放浪」より)
 『包丁無宿』は、 時には奇をてらったエピソードもあるが、 行き過ぎることなく適度の抑制が効いており、 また食い物で外交問題まで解決させるようなこともなく、 マンガとしての“分”をわきまえているのが好ましい。 新刊書店からは姿を消してしまってはいるものの、 古本屋では比較的手に入れやすいので一度手にとって見ることをお勧めしたい。 一話読み切り形式なので、最終巻の第45集を除けば どの巻からでも読み始められる。 再読に耐える佳作である。

 作者である たがわ靖之氏が亡くなってしまった今(2000年9月に急逝)、 暮流介は日本中を放浪しつづけているのか、 あるいは東京築地のどこかにある「桐の家」で腕を振るっているのだろうか。 私もいつか、 彼の手に成る幻の“くずし本膳”を賞味してみたいものである。

 ORII'S WEBSITEは『包丁無宿』を推薦します。

★楽描き★

 暮流助とその他の登場人物たち。

「らくが記」へ戻る

HOMEPAGEへ戻る

御感想をお待ちしてます。 掲示板へどうぞ。


メールはこちらへ