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2002年3月5日:『プロレススーパースター列伝』――超大物原作者の知られざる傑作
「スーパースターたち」

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 梶原一騎は、 昭和十一年(1936) に生まれ昭和六十二年(1987) に没した漫画・劇画原作者である。 彼は、『あしたのジョー』・『巨人の星』・『柔道一直線』・ 『夕やけ番長』・『タイガーマスク』・ 『侍ジャイアンツ』・『愛と誠』……等々数多くの傑作を、 今や決して長寿とは言えぬ50年ほどの生涯の間に次々と生み出した。
 それらは、 かつては幾度となく版を重ねアニメ化・映画化され、 現在では文庫版での復刻が続いている。

 彼は漫画界の巨星・ 手塚治虫と並び称されるべき実績を残しているのだが、 私生活のスキャンダルによって、 その評価を大幅に落とした(斎藤貴男『梶原一騎伝』新潮文庫 2001年〔初出:『夕やけを見ていた男』新潮社1995年〕を参照) 。加えて、晩年の作品は荒れた私生活を反映して 作品内容も荒れた凡作が多いという。
 しかし、 そんな中でも『週刊少年サンデー』に連載され、 梶原一騎の逮捕によって連載が打ち切られた 『プロレススーパースター列伝』(作画:原田久仁信)は、 梶原一騎お得意の格闘技界の実録物 つまり現実の舞台を借りたフィクションであったが、 少年誌連載だったためか、 終始“正しい”少年マンガでありつづけた佳作だったと思う。
 この作品は文庫で復刻されたが (講談社漫画文庫1996〜1997年 全11巻)、 他の名作に隠れて「知る人ぞ知る」状態になっているので、 ここで簡単に紹介したい。

 まず印象が強いのは、 私も同時代に読んだ記憶があるアブドーラ・ザ・ブッチャー編 (文庫版第2巻所収「地獄突きがいく! ザ・ブッチャー」)である。
 この編は、 若き日の逆境・“師父”との出会い・ 必殺技(地獄突き)開眼・強敵との対決など、 『スーパースター列伝』の基本フォーマットにのっとっており、 全体を通しても各エピソードを個別に見ても面白い。 特に、以下の名台詞からは、 子供心に何かを学んだような気がしたものだ。

  • 同情されるくらいなら憎まれろ! それが男だ! この悲しみはきっとパパをレスラーとして強くするッ!(ブッチャーが遠征中、妻に逃げられ、それに同情する息子に対して)
  • ケッケッケッ………ファイトさえありゃ世のなかなんとかなるもんだぜ〜〜〜ッ(自分の倍近い体重のヘイスタック・カルホーンとの対決に勝利した直後)
  • おれは忘れねえっ! ファンが愛してくれるのは強いブッチャー 悪役でも一生懸命なブッチャーだってことを!!(ブッチャー編ラストのコマ)
 このブッチャー編は、 ブッチャーが地獄突きを伝授されたガマ・オテナという師匠 (シンガポール人だというが、 外見が『空手バカ一代』のマス大山そのまんま!)の胡散臭さも面白い。 また、ブッチャーは他のレスラーの編にも登場して活躍し、 特にリック・フレアー編でのフレアーとの友情は記憶に残るものであった。

 そして、 梶原一騎の創作力の凄さを示したのが、 アントニオ猪木とジャイアント馬場を描いた 「なつかしのB・I砲!  G馬場とA猪木」編(文庫版第5〜6巻)である。
 この編の終盤、 日本プロレスを追われた猪木は新日本プロレスを創立し、 プロレスの師であるカール・ゴッチを通して外国人選手を招こうとしていた。 ある日、猪木の元にゴッチから国際電話がかかってくる。

猪木 「ハローゴッチさん!
    で どんな顔ぶれの大物レスラーをよこしてくれますか?」
ゴッチ「それが………
    いいかイノキ冷静にきけよ
    誰ひとりきみの新日本プロレスに参加するのをオーケーしない
    テレビ中継もない新団体では不安だ
    それに新日本プロレスにあがったら最後
    もう二度と日本プロレスによんでもらえんという」
猪木 「ウ〜〜〜ヌ!!
    日本プロレスのワル幹部どもが
    アメリカのレスラーたちに手をまわし圧力をかけたな!」
ゴッチ「どうやらそのようだが
    感情的になったら負けだぞイノキ
    新日本プロレスの旗あげ興行は立派にやれるッ!
    一人の超大物レスラーが日本へいき
    きみと戦うからな!」
猪木 「エッ……そ その超大物とは!?
ゴッチ「わたしだよ
    それともカール・ゴッチは超大物ではないかな?
猪木 「ゴ……ゴッチさん!(感涙)」
 事実は、 猪木の自伝によると、「ゴッチとしても、 私に協力すれば業界から抹殺されかねない状況だ。 リスクを伴うだけに、 生活の保証という意味の金を要求してきた。 プロである以上、 それは当然のことだったと思う。 かなりの額だったが、 私は払う約束をした」 「ゴッチは選手のブッキングもしてくれた。 どれも知名度は低く、 アメリカでは反主流派の選手たちだったが、実力はあった」 ということである(猪木寛至『アントニオ猪木自伝』新潮文庫 2000年〔初出:『猪木寛至自伝』新潮社1998年〕)。
 カール・ゴッチが猪木の師であったという一事によって、 上に引用したような一度読んだら忘れられないほど感動的な会話を“創作” してしまうとは…… 梶原一騎は神か? 悪魔か?

 その他にも、 イラストで紹介したスタン・ハンセンの 彼がウェスタン・ラリアットに“開眼”する経緯(文庫版第1巻)、 『列伝』の冒頭を飾るファンクス一家の家族愛(同前)、 「ホゲ〜ッ!」や「ウフフッ」など独特な台詞回しなど、 この作品の見どころは紹介しきれない。 80年代のプロレスを知っている人はもちろん若い人々にも、 機会があったら是非とも手にとっていただきたい一作である。

 「ひょっとするとある意味で……おれにとってイノキは……永遠の恋人なのかな?」(by タイガー・ジェット・シン 文庫版第4巻より)

★楽描き★

 “スーパースター”たちと列伝の見どころ。

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