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アマゾンにドロップキック!!整理棚
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2012.5.22 綾瀬はるかの強烈な視線 【ICHI】 HOME
■ヒトコト感想
座頭市の女版。一人旅をする盲目の女旅芸人は、居合いの達人だった。誰もが想像する座頭市が女になっただけなので、入り込みやすいだろう。物語としては、女ということで何かと男にちょっかいをかけられる場面がある。道中で情けない浪人の藤平十馬と出会うなど、女という部分が強く印象づけられている。チンピラたちは女ということと、盲目ということで甘くみることにより、あっさりと市にやられていく。美しい女で凄腕の剣士である市が、盲目であるだけに、それが物語の重要な役割をはたし、なおかつ相対する剣士たちとの戦い描写をりりしく美しいものにしている。
■ストーリー
三味線を手に1人で旅をする盲目の女旅芸人・市(綾瀬はるか)は、チンピラとのいざこざの中で浪人・藤平十馬(大沢たかお)と出会う。十馬は市を助けようとするものの手が震えて刀を抜けない。そんな時市は仕込み杖を一閃し、チンピラをあっさり倒してしまう。その後2人はとある宿場町へとたどり着く。そこは街を仕切る白川組と町外れに根城を構える万鬼一党が抗争を繰り返す場所で、市と十馬も抗争に巻き込まれてしまう。
■感想
座頭市の女版として、誰もがイメージする流れかもしれない。美しい女で盲目となれば、男たちが考えることはひとつだ。市に襲いかかり、あっさりと返り討ちにあう。鮮やかな剣さばきと、見た目とのギャップに驚くことだろう。そして、市役の綾瀬はるかの力強い視線に圧倒されてしまう。あいまには、情けない侍役として十馬が登場するのだが、セオリーどおり市に助けられてばかりいるが、実は凄腕の剣士ということになっている。宿場町を荒らすチンピラや、市と仲良くなる子供など、時代物としての定番がつまっているので安心できる。
街を荒らす万鬼党。十馬は凄腕だが真剣を持つと手が震えて戦えない。そうなってくると、残るは市だけとなる。圧倒的な強さを示していた市が、どうなるのか。物語としては悪が滅ぼされるという、わかりやすい流れなので混乱はない。ただ、それだけでは面白味がないので、盲目の市と、顔に大きな傷をもつ万鬼党の党首を絡めたりもする。目が見える見えないというのが大きなポイントとなっている本作。十馬であっても、真剣をもてないトラウマは、そのあたりが大きく関わっているからだ。
市の剣さばきの美しさは、映像としてのインパクトがある。杖に仕込んだ剣がそれほど切れ味するどいのか。逆手に剣をもち戦う姿は、とても達人のようには見えないが、それでも流れるような美しさがある。本家の座頭市が居合いということに焦点を当てているのに比べ、本作では数センチの間合いを競うような、緊迫感はない。一歩動けば斬られるという、空気感がない代わりに、気付けば斬られているというような、あっさりとした立会いがある。
新しいタイプの座頭市だけに、評価は分かれることだろう。
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2012.5.21 あのマンガやゲームの元ネタ 【ギリシャ神話を知っていますか】 HOME
阿刀田高おすすめランキング
■ヒトコト感想
ギリシャ神話と言われて、何を思い出すだろうか。年代にもよるだろうが、自分の場合はマンガやゲームだ。日常で当たり前に使っているモノの名前や言葉の中にも、ギリシャ神話が語源となっているものが沢山ある。登場人物が小難しいカタカナだということで、誰が誰だかわからなくなる危険性はあるが、どこかで耳にした名前だったりするので、それほど違和感なく神話を読みすすめられる。なんの事前知識もなしに本作を読むと、最初は混乱するかもしれない。しかし、マンガのあのキャラクターが実は神話のこのキャラクターを元に生み出されたのだとわかった時にはちょっとうれしくなる。何の気なしに使っていた言葉の中に、ギリシャの歴史が刻まれているようで、感慨深いものがある。
■ストーリー 聖書と並ぶ古典中の古典、ギリシア神話の著名なエピソードをわかりやすく解説。
■感想
ギリシャ神話のエピソードと言われて、ぱっと思いつく人はどの程度いるのだろうか。明確にこれがギリシャ神話だと話せる人は少ないような気がする。ただ、そのエピソードの断片を読んむと、どこかで見たり聞いたりしたことがあると感じることだろう。それだけ、実は世間には広まってはいるが、それらがギリシャ神話を元にして創作されたというのは、あまり知られていないのかもしれない。そういった意味でも、本作を読むことで、有名なあの作品のあのシーンの元ネタがわかるという、思わぬ楽しみが本作にはある。
本作を読んでまず最初に感じたことは、マンガに随分と流用されていたのだなぁということだ。ゼウスやハデスなんてのから、女神アテネやヘラクレスなど、古くはビックリマンシールなんかを思い出してしまう。神話として出来上がったキャラクターがあるので、それを流用するのは一般にも受け入れられやすいのだろう。神話に登場するアイテムなんかも、もろにゲームに登場してくる。当然、ゲーム先行なのでドラクエやFFに登場したアイテムにはこんなエピソードがあったのかと驚いてしまう。また、流用するにしても、元ネタの意味をそれなりに活用しているのだということもよくわかった。
ギリシャ神話の細かい話なんてのは、興味をもたなければ絶対に読むことはないだろう。こうやって偶然出会い、ギリシャ神話のさわりだけでも知れたのはよかった。ある作家の作品をのべつまくなし読むというのは、自分の興味をもつ分野を広げる効果がある。もしかしたら、本作をきっかけとしてギリシャ神話に興味をもち、そのあたりの本を読み漁るなんて人がいるかもしれない。ギリシャ神話の入門編としては、作者のユーモアも含め、とてもすぐれた作品だと思う。
本作を読めば、ギリシャ神話を知っているといってもいいだろう。
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2012.5.20 仲むつまじい夫婦のはずが… 【スイートリトルライズ】 HOME
江國香織おすすめランキング
■ヒトコト感想
表面的には何の不満もない、仲むつまじい夫婦。そんな二人が、お互いに秘密をもち、夫婦として暮らしていく。本作では男女両方の目線で交互に物語が語られている。相手に対するちょっとした不満や、相手を必要とする理由など、なんら問題のない夫婦のように思えてくる。それが、ちょっとした出会いから、密かに情事を繰り返す相手をもつことになる。夫婦の生活描写というのは、もしかしたら作者の日常に近いのかもしれない。ごくありふれた夫婦関係のひとつなのかもしれないが、お互いの不満というのは、耳がいたくなる場面でもある。既婚者と独身者では、感じ方が大きく分かれるだろう。男目線で読むと、なんだか気詰まりする夫婦関係だと思ってしまう。
■ストーリー
この日常に不満はない、と瑠璃子は思う。淋しさは人間の抱える根元的なもので、自分一人で対処するべきで、誰かに―たとえ夫でも、救ってもらえる類のものではない。瑠璃子と二歳下の夫、総。一緒に眠って、一緒に起きる。どこかにでかけてもまた一緒に帰る家。そこには、甘く小さな嘘がある。夫(妻)だけを愛せたらいいのに―。
■感想
ごく普通の、何の問題もない夫婦関係であったとしても、そこには何かしらの歪がある。本作では瑠璃子と聡という夫婦の日常が描かれており、そこに割り込む形で、それぞれ別の異性の存在が明らかとなる。本作を読んでまず感じたのは、作者の日常生活に近いのだろうか?ということだった。エッセイなどで読む作者の夫婦関係というのは、もしかしたら本作に近いのかもしれない。瑠璃子はノンビリと生活しつつも、聡が仕事へ行ってしまうことが悲しみとなる。安定して落ち着いた生活の中に、作者なりの主張を感じてしまった。
どうしても聡目線で読んでしまう。部屋に鍵をかけてゲームに熱中するなんてことはないが、奥さんの一日の報告を少しわずらわしく感じるのは、どこの旦那もそうだろう。的確に男の心理状態を表現しているだけに、そこを鋭く突いてこられると、しんどく感じてしまう。お互い、相手がどう感じているのかわかっていたとしても、そこをあからさまに指摘しないのが、夫婦の優しさではないだろうか。本作では、たまに爆弾のように瑠璃子が聡に対して強烈な一言を見舞うのだが、それがあまりに強烈すぎて心が辛くなる。
作者の男を観察する目は鋭すぎる。物語の根底には、浮気から本気へ変わっていく心を感じつつも、夫婦として相手の重要さをわかっている二人の苦悩が描かれている。物語に流れるゆっくりとした時間と落ち着いた雰囲気。その中で、不倫しつつも、夫婦の絆を大切にしようとする心というのが、そこまではっきりとは理解できなかった。ドロドロとした不倫の泥沼ではない。どこかサラリとしていながらも、釈然としない思いを抱えたまま夫婦生活を送っているように思えた。
本作のような夫婦関係が当たり前だとは思わないが、男からすると、痛いところを突かれたという感じだ。
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2012.5.17 短編のみなもと 【ジョークなしでは生きられない】 HOME
阿刀田高おすすめランキング
■ヒトコト感想
古今東西のジョーク集。当然、作者が知っているジョークなので、作者の小説やエッセイに登場するジョークもある。短編、エッセイ、本作と都合3回読んだようなジョークもある。本作に収録されているジョークは膨大な数なので、かぶるのはしょうがないのだろう。時代を感じさせるジョークや、海外独特のジョークなど、特にエロ関連のジョークに、作者はこだわりがあるようだ。セックスや、男は常に浮気をしたいという気持ちを表したジョークなど、本作を読むと作者の作品の原点はジョークにあるのだなぁとういのがよくわかる。ジョークを広げ、作者の味付けをしたのが、すばらしい短編となっているのだろう。
■ストーリー 多数のジョークがおさめられた、古今東西のジョーク集。ちょっとエッチなジョークからブラックなジョークまで様々。ジョーク好きはお試しあれ。
■感想
数々のジョークの中で、最も印象に残っているのはワシントンの桜の木の話だ。誰もが知っている有名な話をジョークにするのが面白すぎる。桜の木を折ったと正直に話したワシントンを、父親はなぜすんなりと許したのか?答えは、ワシントンがまだ斧を持っていたからだそうだ。有名な話を台無しにするジョークだが面白い。その場の情景を思わず頭に思い浮かべ、右手に斧を持つワシントンを、おびえながら見る父親というのは、面白すぎる。これぞブラックジョークの極みだ。
江戸時代のジョークからフランスのジョークまで、古今東西のジョークが入り混じる。特にフランスのジョークでは、日本では馴染みのない言葉のジョークから面白さを表現している。作者が大学時代にフランス語を先行していたので、フランスのジョークが多いのかもしれないが、言葉の響きがエロいジョークに繋がるのが面白い。ある一定の決まりきったパターンなのかもしれないが、読む方もそれなりに知識と言うか、事前知識が必要になる。前提条件が一致してこそ、笑えるのがジョークだからだ。
基本的に、男は浮気をし、女も浮気をする。お互いの相手を騙すということが、ジョークとしての面白さとなる。間抜けさを笑う場合もあれば、気の毒な状況を笑うパターンもある。無知ゆえに知らないこととはいえ、とんでもないことをしでかした者を笑うというのもある。エロ関連のジョークが多いのは、完全に作者の好みだとは思うが…。過去のエッセイや短編などからは、本作のジョークからアイデアを広げたのだろうとはっきりわかる作品もある。インパクトはないが、ニヤリと笑える感じが良い。
現代版のジョーク集も読んでみたい。
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2012.5.16 暗黒へ向かうユートピア 【ポリティコン 上】 HOME
桐野夏生おすすめランキング
■ヒトコト感想
今の時代を連想させるキーワードが多数登場するが、それよりも、先の見えない暗黒へ向かいつつある物語から目が離せなくなる。ユートピアを目的として作られた唯腕村。村の次期理事長となるはずの男東一。村に流れ着いた美しい脱北者のスオンと、行動を共にする高校生のマヤ。東一の目的とする、村内のすべての女たちをはべらす生活というのは達成されるのか。村に襲いかかる高齢化の波。そして、うまい話の数々。社会派的なキーワードが散りばめられてはいるが、東一を含めた唯腕村がどうなっていくのか、そればかりが気になってしまう。終始暗く陰鬱な雰囲気が漂っており、明るい未来がまっているようには思えない。それでも、かすかな希望があるのかと期待して下巻を読みたい。
■ストーリー
大正時代、東北の寒村に芸術家たちが創ったユートピア「唯腕村」。1997年3月、村の後継者・東一はこの村で美少女マヤと出会った。父親は失踪、母親は中国で行方不明になったマヤは、母親の恋人だった北田という謎の人物の「娘」として、外国人妻とともにこの村に流れ着いたのだった。自らの王国「唯腕村」に囚われた男と、家族もなく国と国の狭間からこぼれ落ちた女は、愛し合い憎み合い、運命を交錯させる。過疎、高齢化、農業破綻、食品偽装、外国人妻、脱北者、国境…東アジアをこの十数年間に襲った波は、いやおうなく日本の片隅の村を呑み込んでいった。ユートピアはいつしかディストピアへ。
■感想
冒頭から脱北者の物語が登場し、なにやらきな臭い香りがただようスタートとなる。そこから唯腕村が登場し、ユートピアを目指した体制に圧倒されてしまう。村内ではすべてが共同で、年金すらもいったんは村に預け、そこから分配される。まるで小さな共産主義社会のように感じつつ、それがうまくまわっているカラクリが語られる。村の高齢化に悩む東一というのは、まるで高齢化社会へとばく進する日本を憂う学者のようだ。村の行く末に明るい未来はない。それがわかっていながら、東一がどうするのか、先が気になりページをめくる手が止められなくなる。
村の次期理事長となり、村の女たちを好き勝手に陵辱することを密かに願う東一。作者の作品では、男の浅ましい本能というか、上っ面ではなく、底のドロドロした部分を描くのがすばらしい。東一は理事長としていい顔をしたいという思いと、女たちをもて遊びたいという相反する気持ちに悩み苦しむ。果てしなく高まる欲望と、思い通りにいかない苛立ちというのがすべて物語りからあふれている。そのため、読んでいると、しだいに東一に感化され、気持ちの高ぶりを抑えられなくなる。
ユートピアがディストピアに変わるのはもはや規定路線だろう。うまい話に騙され、村が崩壊していくのは目に見えている。そうなったとき、村を頼ってきたスオンやマヤや外国人妻たちはどうするのか。村のために働いてきた老人たちは…。上巻はすべて崩壊の序章であり、この先下巻では暗黒へとまっさかさまに落ちていくのは明らかだ。明るく楽しい物語ではない。現代日本の問題が凝縮された村なのかもしれないが、解決策があるわけでもない。人によっては、辛く苦しい作品に感じるだろうが、目が離せないのは、唯腕村の行く末が気になるからだ。
下巻では唯腕村がどうなるのか、それだけが気がかりだ。
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2012.5.15 特殊な環境での恋愛 【クジラの彼】 HOME
有川浩おすすめランキング
■ヒトコト感想
「空の中」「海の底」に関連した自衛隊恋愛短編集。ただの恋愛短編集ではなく、頭に自衛隊とつくところが、間違いなく作者の特徴だろう。「空の中」「海の底」を読んでいないと真の良さはわからないかもしれない。読めば即座に虫歯になってしまうほど大甘な展開と、自衛隊という特殊な環境ではぐくむ、困難を乗り越えた熱い恋愛を感じられるだろう。壁が高ければ高いほど、物語としても盛り上がり、恋愛物としての強烈な甘さをアピールできるのだろう。もちろん、恋愛だけでなく、自衛隊の内情などがよくわかるのはいつものとおり。一般の恋愛小説とは根本がちがっているので、感情移入するのは難しいかもしれないが、興味はわいてくる。
■ストーリー
『元気ですか?浮上したら漁火がきれいだったので送ります』彼からの2ヶ月ぶりのメールはそれだけだった。聡子が出会った冬原は潜水艦乗り。いつ出かけてしまうか、いつ帰ってくるのかわからない。そんなクジラの彼とのレンアイには、いつも7つの海が横たわる…。表題作はじめ、『空の中』『海の底』の番外編も収録した、男前でかわいい彼女たちの6つの恋。
■感想
「海の底」のキャラクターの恋愛話は面白い。「クジラの彼」や「有能な彼女」は、「海の底」で活躍した自衛官二人のその後の恋愛が描かれている。潜水艦乗りがどれほど恋愛に向いておらず、別れる可能性が高いということや、過酷な日常など、一般の人の想像を超えた恋愛環境が待っている。ただ、その先には、高いハードルを越えたベタベタの甘い恋愛がまっている。恋愛に対して高い壁がある環境というのは、もしかしたら、逆に良い刺激になるのかも、なんて感じてしまうのは、一般人だからだろう。
自衛隊三部作とは絡まないオリジナルな短編も面白い。それらは自衛隊という特殊な環境による、恋愛のモヤモヤ感が描かれている。「国防レンアイ」で語られる、女は男をよりどりみどり、なんていう環境は容易に想像できる。逆に男の立場の辛さというのもわかる。ある意味、毎日が男子校状態なのかもしれない。外泊も事前に申請をださなければできないような状況というのは、社会人になってからは想像がつかない。そんな制限された環境だからこそ、本作のような甘い盛り上がりがあるのかもしれない。
本作を読んでいると、自衛官というのは結婚にこぎつけるのが大仕事のように感じてしまう。恐らくはそれが真実なのだろう。恋愛小説なので、男女の色恋が描かれるのは当然だが、つい、それらの影に隠れた、女性に見向きもされない孤独な自衛官というのをイメージしてしまった。ある程度チャンスがある人でさえ難しい状況ならば、チャンスが雀の涙ほどしかない人にとっては、まさに命がけなのだろう。無理だとは思うし、面白みがないのかもしれないが、モテない自衛官男の苦しみというのも描いてほしかった。
恋愛小説といっても、自衛隊が舞台というと、微妙な気もするが、大甘なのは間違いない。
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2012.5.14 悩み多き年頃 【いつか記憶からこぼれおちるとしても】 HOME
江國香織おすすめランキング
■ヒトコト感想
女子高生が主人公の短編集。それぞれ平穏な生活を送っているが、そこには独特な雰囲気がある。女子高生という、ある意味モラトリアムな時期を、自由気ままに生きているようでもあり、悩み苦しんでいるようでもある。微妙な時期の不安定な心情と、少しでもあつかいを間違えると、たちまち崩れ落ちてしまうような壊れやすい気持ち。女子高生の気持ちなどおっさんには理解できるはずもないが、なんともいえない不安定さが伝わってくる。男子高校生とは違う、少し大人びた雰囲気。感情移入できるたぐいの物語ではないが、微妙な年頃の娘をもつ親の気持ちで読んでしまった。率直な感想としては、なんて理解しにくい心の動きなのだろうということだ。
■ストーリー
17歳の気持ちを、あなたはまだおぼえていますか? 吉田くんとのデートで買ったチョコレートバーの味、年上の女の細くて冷たい指の感触…。10人の女子高校生がおりなす、残酷でせつない、とても可憐な6つの物語。
■感想
短編の中に登場する人物たちは、それぞれの短編でリンクしてる。ある短編では、ちょっと変わった子という描き方をされているが、別の短編では、その子がどんな気持ちで生活しているのかが描かれている。女子高生が主人公の物語を読んで、したり顔で理解できたと言うつもりはない。ただ、微妙な年齢の不安定な心情というのがビシビシ伝わってきた。何が気に障るのか、何が楽しくさせるのか、ほんの些細な瞬間を、まるで人生の一大事のように語る主人公たちには、若さを感じずにはいられない。
「飴玉」という短編が印象に残っている。ちょっと太めな女子高生が、周りの人をこっそりと日記帳の中で毒入り飴玉で毒殺するという、変わった物語だ。太めであることを対外的には気にしていないそぶりをしていながら、実は心の奥底では怒りの気持ちが湧き上がっている。物語のトーンが深刻なものではなく、明るい雰囲気なので、シリアス感はない。それでも、女子高生という多感な時期には、何が相手を死ぬほど傷つけるのかわからない。無神経な両親の言葉など、自分に当てはめて考えると、十分あり得ることだけに、気持ちが引き締まってしまった。
「指」などは、最初は物語の進む方向がよくわからなかった。何不自由なく暮らす女子高生が、大人の女性に電車の中で痴漢される。そこから物語がどのように変化していくのか。大人との付き合いを彼女たちがどのように考えているのか。すべてが正しいとは思わないが、こんな女子高生もいるのだろうと心に響いた。ゆっくりと流れる時間の中で、なんの不満もない生活ではあるが、そこには、彼女にしかわからない密かな苦悩がある。なんて難しい年頃だろうと思いつつも、羨ましく感じてしまう。
とりわけ、父親の立場が微妙なものが多いのもこの短編集の特徴かもしれない。
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