芸術と技術

 世間一般には、芸術は技術であると言われることが多いようです。 実際、書道ばかりでなく、音楽・絵画・陶芸など、芸の道を極めようとする者は、日々時間を惜しんで何年も技術習得のために研鎖します。そして、展覧会や発表会などでは、その技術の高さ・正確さなどを審査で評価されます。
 それでは、本当に芸術は技術がすべてなのでしょうか。
 ところが、有名な芸術作品と言われるものを批評している雑誌などを見ると、その作品についての技術的な面の批評と併せて、作者の精神的な面の批評が多くなされていることがあります。
 これは何を意味しているのでしょうか。
 芸術とは、出来上がった作品を呼ぶ言葉であるので、いわば「結果」であると言えます。
 技術とは、作品を制作するために用いる方法を呼ぶ言葉であるので、いわば「過程」であると言えます。
 世間一般では、「過程」と「結果」が同列に議論されているため、正確な理解が妨げられているのでしょう。
 ところで、芸術は、技術と密接に関係してはいるものの、すべてではありません。
 例えば、家を作るときのことを考えてみましょう。
 家を作るときは、工法や材質などの技術的なことも重要ですが、キッチンをどのように使いたいか、子供部屋はどんな使い勝手にするかなど、そこに住む人の生活観や子供に対する教育観などが、設計に活かされることのほうが重要になってきます。
 書の場合も、字形の均整の取り方や作品の変化の付け方など運筆の技術も重要ではありますが、今現在の自分の持っている技術力を恥ずかしがらずに精一杯出そうとか、書き上がった作品を真正面から反省するとかいった、精神的な質の高さが重要になってきます。
 芸術を考える上で最も重要なこのことは、ある程度経験を積んで技術が上達してくると、つい忘れがちなことでもあるので、日々注意が必要です。