美しい字形について

 書は、線質と字形の両方が美しくなければなりません。過去の名品は、どれもこの条件を満たしています。
 今回は、このうちの「字形の美しさ」について考えてみたいと思います。
 まず、美しさとは一体何でしょうか。なぜ人は、あるものは美しく感じ、あるものには美しさを感じないといったことが起こるのでしょうか。そして、美しいものと美しくないものの境は、一体どのように定めたら良いのでしょうか。
 このことは、実は非常に難しい問題で学説もさまざまですが、ある一つの有名な説明として、次のような考え方があります。
 「美は、その対象となるものが理想の如くに実現する(自然の本性を発揮する)場合に感ぜられるものである」(西田幾太郎「善の研究」岩波文庫)。
 この説明では、例えば花が美しいのは、長い生物進化の結果備わったその花の持つ天賦が充分に発揮されたからである、というふうに説明されます。
 この考え方の源流はプラトンに見られますが、仏教の根本思想の「真即美」や中世哲学の「すべての実在は美である」などにも現れています。
 さて、文字は人間が作りだした言語・思想を記述する記号です。
 記号の理想は、人に認識しやすいということですから、まず均整で不明瞭な箇所のないことが求められます。これには、点画同士のバランスのみならず、線の太さとの関係や文字同士の配置、線同士の交差なども重要な要素になります。
 次に、記号を認識するためには、記号ごとに特徴がなければなりません。そこで、それぞれの文字は画数や点画の配置が差別化され、したがって、画数の多い字もあれば少ない字もあり、また横画や縦画ばかり多い字もあります。これらを理想的に書き表すには、その文字の特徴に沿った表現が必要になります。縦長・横長の変化はこれに基づいています。
 最後の記号の特徴として、記号には人に訴える力を備えていることも重要なポイントです。人にインパクトを与える表現方法としては立体的な表現が有効で、このため、立体地図の技法に見られるような、線に細太の変化をつけたり文字の下部を小さ目にしたりするのです。
 このようにして表現された文字は、おのずと美しい字形になります。
 過去の名品と呼ばれるものは、皆このような「理想の実現」が認められます。