あとがき


 芸術などというと、とかく難しく思われがちですが、決してそんなことはないと思います。
 芸術は私達の生活に密接に関係しています。そして、その生活の基となっているのは、紛れもない私達の意識活動に他なりません。
 芸術は、創造するものでもあり、また、それを鑑賞するものでもあるため、とかく議論の焦点が定まらず、そしてまた、作品からもたらされる印象の説明と芸術の本質についての説明が混同され、明確な整理がつき難いため、関係書物についても難解なものが多く、過去から、名のある哲学者・美学者をもってしても、非科学的な踏み外しが何度も繰り返されてきたことは事実です。
 しかしながら、偉大なる科学の歴史が物語るように、本来、物事の本質は、意外と単純なものです。
 芸術とは、私達の表現に他なりません。
 表現とは、私達の意識活動が物質的にそのまま表面化されることであるので、したがって、その表現が美しいかどうかは、表現者の意識活動が健全であるか否かによることとなります。
 考えてみますと、私達の人間社会を形作っているものは、結局は私達の創り出したもの、すなわち、表現なのです。社会は、私たちの表現で成り立っているのです。ですから、よりよい社会を成り立たせるためにも、私達個人個人の表現がより健全になっていくことが必要なのです。
 つたない論文ではありますが、知識教育偏重の時代にあって、この「芸術の基本」が、僅かながらでも真の表現教育の重要性を唱えるための礎石となればこのうえない幸せです。


   平成8年7月  日沼 修一         


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