漢字字体、仮名字体の基準について

 字体とは文字の骨格のことで、それは文字を書く場合のよりどころとなります。例えば、「木」という漢字を書く場合は、第一画を横に書き、第二画を第一画に交差させて縦に書く、続いて第三画と第四画を第一画と第二画の交差したあたりからそれぞれ左右に斜め下に向かって払って書くというような決まりがあります。文字は共通の記号ですから、ある一定の決まりがなければ不都合です。
 ところで、この字体の基準については、絶対的に確固たる基準が存在しているかのように一般的には考えられているようですが、実のところそうではないのです。
 まず、漢字の字体については、昭和56年10月1日内閣告示により「常用漢字表」が定められていますが、これはあくまでも「明朝体活字のうちの一種を例に用いて示した」ものであって「漢字使用の目安」なのです。しかも「筆写の楷書における書き方の習慣を改めようとするものではない」とされているのです。
 にもかかわらず現実は、明朝体活字が絶対的なものであるかのごとく考えられており、特に教育現場においても誤解されていることが多く、例えば「木」の第二画をはねて書くと誤りであるなどと間違った指導が平気で行われています。「木」の第二画は、目安である「常用漢字表」でははねていませんが、過去の古典から見た「筆写の習慣」はむしろはねて書かれることが多いのです。内閣告示にあるとおり、「目安」よりも「筆写の習慣」が重んじられなければならず、「常用漢字表前書き」にも「個々の事情に応じて適切な考慮を加える」よう結んでいます。
 さらに、こと平仮名に至っては、明治33年の「小学校令施行規則」により一音一字に統一されたものの、現在でもその字体については、実は「目安」すら決まっていません。「き」や「さ」の最終画は前画に繋げて書くのか離して書くのかなど、教育現場でもかなり混乱が生じているようです。このために、極端な場合、子供の書いた字が活字のデザインようになっていないことをいけないこととして、誤った添削が多くなされてしまうようです。ここでもやはり重要なのは「筆写の習慣」となりましょう。実は多く目にする現在の平仮名活字のデザインは、過去の古典には一つも登場しないのです。多分この活字は、大量印刷の途中で活字が欠けるのを防ぐために工夫され、「筆写の習慣」からかけ離れてしまったのでしょう。この活字のデザインまでもが絶対的な手本として考えられている現実は非常に嘆かわしいことです。国語審議会が平仮名の字体の基準を未だに示せないでいるのも、どうもこの辺りに原因があるのではないかと思います。
 文字はあくまでも人間が書き文字として使用することが第一義です。活字がそれに合わせるべきで、人間が活字に合わせるべきではありません。
 人を指導する立場にいる者は特に気を付けたいものです。