空書とリズム

 今まで、生き生きとした線の重要性について何度かお話ししてきましたが、実際どのようにすれば生き生きとした線が書けるのか、ここでひとつのコツをお示ししたいと思います。
 生き生きとした線を書くためにはリズムよく運筆することが必要ですが、書かれた手本や印刷された過去の名品を見ただけでは、その筆者がそれを書いた時にどのような調子やリズムで書いたのかまではなかなか分かり難いものです。
 そこで、その作品の運筆の調子まで追体験する一つの方法として、「空書」という方法が行われます。
「空書」とは、実際に筆や紙を使わず、自分の腕を筆に見立てて、手本や名品を見ながら(またはイメージしながら)空中で同じように腕を運んでみることです。
 この「空書」は、過去の書論の中でもその重要性が説かれており、書の愛好家で知られる良寛も、近所の子供たちから凧への揮毫をたのまれたとき、大空に向かつて「天上大風」と大きく空書してから筆を執ったという逸話があるほどです。
 書かれた線の微妙な細太の変化や掠れ具合などを基に、筆圧の加減や運筆の勢いなどを「空書」によって、空中に再現するのです。
 実際に作品を揮毫きする時はいきなり筆を持って揮毫するより、「空書」を3〜4回繰り返して揮毫したほうが、無理なくリズムが体に馴染んで、自然なリズムで運筆できるようになります。
 筆穂の面を返す動作も手の甲と平で表現します。時には「サッ、サッ」などと声を出しながら運筆してみるのも、よりリズムを習得しやすくします。
「空書」の良いところは、形が目に見えないので、字形を気にせず運筆のリズムや抑揚の調子を習得できるところにあります。普段から書を目の前にしたときは、この「空書」をする癖をつけるとよいでしょう。人前で手を大きく空中に掲げることが恥ずかしいときは、心の中でだけでも行ってみて下さい。
 数段に線の勢いや力強さが増すことでしょう。