初心に帰る

 人はよく牛歩の如くとか、初心に帰るとか、書き込むとか言いますが、どうも口先きだけに終わってしまう感じがしてなりません。
 そこで、習い方の基本的な形として、ウ冠の草書を勉強する場合を例に挙げてみることにしましょう。
 一画目の点の打ち込みの角度・筆圧と太さ・抑揚・筆を引き抜く要領。二画目の起筆の点からの受け方と位置・起筆から右へ送筆するときの筆圧に合った太さの度合い、送筆の角度と抑揚・速度。転折までの線の長さと点との距離、点から仮に引き下ろした線に対する二画の左右の長さの違い。転折部から左へ引き下ろす線の角度や太さ等々。
 ウ冠一つ書くのにも、これくらいの注意を払って、何回となく手本に肉薄するまで習うのです。丁度初学のころもそうであったように、習う時はいつも初心に帰るのです。
 この要領で次々と習ってからまた、元に戻って再度ウ冠を書いてみるのです。もうすっかり手に入ったと思っていても、記憶が曖昧だったりして、手本を見直さなければ書けないということがあります。その時は再び最初に習ったようにやり直すのです。そうすると、時に今まで気付かなかった新たな発見があったりして、自信が付くことがあるものです。次の日も、次の日も、同じことを繰り返すこともあります。
 こんな風にして根気よく、何度も何度も手本無しでも手本に近い書が書けるまで続けることが必要なのです。この習い方が、他でもない「初心に帰る」ことであり、これ無しでは実のある書はできないと思います。確信を持って書くためには、これしかありません。
 実は、同人や審査員などになられた方々は、特にこのことを戒めとしたいところです。芸術家気取りで、基本の勉強を疎かにするようなことがあったりしては、進歩は望めないどころか、腕は日増しに落ち、そのうち周囲から見向きもされなくなるでしょう。10年20年経ってから「失敗した」と気付いても、もう取り戻すことはできないのです。
 普段から「初心に帰る」ことを心掛けましょう。